第二十一話「春風の中で、揺れる」
春の日差しが校庭を柔らかく包み込む朝。
雨宮透は少しそわそわしながら、いつも通りの通学路を歩いていた。
制服を身にまとったユイは、透の少し前を歩いている。
濃紺のブレザーに白いシャツ、チェックのスカートが揺れる。
その長い髪は風になびき、小学生時代には見られなかった、後ろで高く結んだポニーテールが軽やかに揺れていた。
――特に目を引くのは、彼女のうなじの美しさだ。
首筋から肩へと続く滑らかな曲線に、透の視線は思わず止まった。
「綾瀬、遅ぇなぁ。これだから女ってのは…」
そう透が呟くと、ユイは嗜めるような顔をした。
こいつはこいつで女心ってやつがわかるらしい。
やがて校門の前で、制服姿の綾瀬が走って来るのが見えた。
「ごめんごめん!制服着るのにまだ慣れてなくて」
綾瀬はいつもと変わらず、明るく透に微笑みかける。
「ったく、入学初日に遅刻なんてシャレにならないから、早く行こうぜ」
三人は自然に合流し、揃って校舎へ向かうことになった。
校舎の壁に掲示されたクラス分けの掲示板の前で立ち止まり、三人はそれぞれの名前を探す。
「…俺たち、同じクラスみたいだな」
透はややぶっきらぼうに言ったが、その声にはほんの少しの安堵が混じっていた。
「やった!嬉しいね!ユイちゃんも!」
綾瀬が明るく笑い、
「一緒に頑張ろうね」
ユイも優しく微笑んだ。
透は口にはしないが、二人と同じクラスになれたことを密かに喜んでいることを、綾瀬もユイもわかっていた。
教室の扉を開けると、すでに多くの生徒が席についている。
透はユイと綾瀬を連れて、自分の席へと歩いた。
机に座ったユイは背筋をぴんと伸ばし、凛とした姿勢で周囲を見渡した。
どうやらその行動とユイの見た目が周囲の目を引いたらしく、なんだか妙に視線を集めてしまい透はいくばくかの居心地の悪さを感じていた。
――そんな中始まった、自己紹介の時間。
ユイは周囲の視線など気にする様子を微塵も見せず、落ち着いた声で言った。
「私、ユイ。アンドロイドです。よろしくお願いします。」
その言葉に、教室の空気が一瞬にしてざわついた。
「本当にアンドロイドなの?」
「見た目、普通に可愛いんだけど…」
「ロボットなのに、あんなに自然に話せるなんて信じられない…」
「マジかよ」
透は隣でユイをそっと見つめ、なぜか少しだけ誇らしげな気持ちになっていた。
綾瀬もまた、静かに微笑みながら二人を見守っていた。
窓の外には春風が吹き、カーテンを揺らす。
それは三人の新しい日々の始まりを告げているかのようだった。




