表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品

猫のたまご


 俺の幼馴染は引っ込み思案で滅多に外出することがないヤツだった。


 でも――――


 今の彼女は別人のように明るく社交的で、すっかりおしゃれになった。


 それ自体は悪いことじゃない。先週、念願の初デートもしたし。


 悪いことじゃあないんだけど……少しだけ引っ掛かっているんだ。



「私ね、猫のたまごを見つけたの」

「ふーん」


 数か月前、そんなことを言ってきた彼女に、俺は呆れながら適当に返事を返した。


 猫が大好きで妄想癖のある彼女のことだから、別段気にもしていなかったんだけど。


 

 それからだった。彼女の性格がガラッと変わってしまったのは。


 今思えば、猫のたまごとやらが影響しているような気がしてならない。

 


「そういえば猫のたまごはどうなったんだ?」  

「ん~? どうしたの突然」


 ふわりと俺の胸に収まる彼女の息が妙に生温かい。


 以前の彼女は幼馴染の俺とだって遮蔽物無しではまともに話せなかったというのに。



「食べちゃったよ」

「……え?」

「だから、たまご」


 食べたのか……。


「大丈夫だったのか?」

「何が?」

「だからその……お腹壊したりしなかったのかなって……」

「あはは、大丈夫だって。現にほら、こうして元気にしてるでしょ?」


 ぐっと顔を近づけてくる彼女の肌は健康そのもので、血色も以前とは比べ物にならないほど良い。


「そう……だな」


 彼女は何も変わっていない。


 その艶やかな黒髪も、いつも潤んでいる瞳も、ぷっくりとしたローズピンクの唇も俺の知っている彼女そのものだ。きっと長い蕾の期間を経てようやく花開いたんだ。


 そう言い聞かせている自分がいる。


 ずっと一緒だったからわかるほんの些細な違和感。髪の毛一本分よりももっと小さいけれど喉元に刺さった小骨のようにずっと引っ掛かっている。



「お前、ずいぶん変わったよな」

「それってどういう意味? 褒めてる?」

「そうだな……褒め……てるかな半分」

「ふふ、変なの」


 俺はどうすればいいんだろう。


「ねえ……キスしよっか?」


 彼女の潤んだ瞳が熱を帯びる。


 ちょっと待て。


 最近ようやくボディタッチに慣れてきたところなのにいきなりそれはハードルが高すぎる。


 そういうのはもう少し……せめて半年くらいデートを重ねてお互いに気持ちを確かめ合ってから――――


「ねえ、早く……」


 せがむような猫なで声が脳に沁み込んで思考を溶かす。


 キスしたら駄目だ、本能が抵抗を試みるが、

 

 愛おしい。好きだ。愛してる。あっという間に塗りつぶされた。



 俺は請われるまま唇を重ねた。

トキソプラズマ感染症。


人類の三分の一以上が感染していると言われている。

終宿主は猫。人や豚など200種をこえる恒温動物を中間宿主とする。


近年異性との性交渉を経て感染する可能性が指摘されていて、ラットの実験ではトキソプラズマに感染している個体は異性のパートナーに選ばれやすく、人間の感染者においても、感染者は魅力的な外見を持ち性的なパートナーが多いという研究結果もある。


つまりトキソプラズマが、宿主の代謝率や、ホルモンバランスのような内分泌系を調整することで、見た目を魅力的にして勢力を拡大しようとしている可能性があるということ。

(※あくまで可能性です)


また、見た目だけでなく感染者の性格や行動にも影響を与えているという研究もある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] もっと怖いというなら、例えばカマキリみたいになるのかしら?菌に誘導されてる事に気づけないのはやばいよなぁ、ある意味、魅力な源泉はそんなものかもですなぁ、呪に近いものかもしれませんなぁ、…
[一言]  なんと❗❗  猫のたまごなるものを食べると言う発想が凄い❗  妖艶な彼女さんのような、艶やかなお話でした。  ひだまりのねこ様には珍しい、色っぽいお話でしたね。  トキソプラズマ、侮れませ…
[良い点] Å`)「なんなんだろう?」って想わせる事が「面白い」に繋がるおはなしでした。これを掌編でみせるひだねこさん、すごいなぁと思いました。面白いってこういう事だぞ?さや香の新山さんよう。 [気に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ