Welcome to xxx. 第一章スローライフ、ただ過ぎてゆく時の中で⑤
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駅前に皆倉順と塩谷つゆりが着いてすぐ、山口澪につゆりが連れてこられたホームで、
「ちょ、ちょっと!みっちゃん、どうしたのぉ!?」
「どうしたじゃないよ!なに?なんなの?あんた、実はもう結構いい感じなわけ?」
二人は改札口の前、少し広間になっているところまで来て順には見えないよう柱に身を隠すようにして話し出す。電車の行きかう音、人々の話し声、店々のBGM、話す内容を気に留めることは無く気軽に話せる状況が自然と出来上がっている。
「い、いいいかんかんじってっっ!!!??そ、そんなんじゃ、ナイ」
ポンっ!!
つゆりの顔が耳まで一気に赤くなる。そんな親友の姿を見せられて助けてあげようと思えない奴はいないでしょ。
ああーー。もう、なんでそんなに可愛いの!?
「そんなんじゃないって、あんたら手ぇ繋いでたじゃんっ」
「そ、それは……」
つゆりは繋いでいた時の体温のぬくもりを思い出すように右手を愛おしそうに撫でる。
「……はぅっ」
サイドポニーがピョーンと立ち、そしてまた耳たぶがイチみたく色づくまで紅くなる。
「ははは、手を繋いだだけでそんなになってたら、付き合ってから、ど・う・す・る・の・よ」
からかうように口角を上げて言う澪。
「つつつつうtつきあってから……」
プシューーー。
あららショートしちゃった。
「でも、あれよね。皆倉君もつゆりにこれだけ思ってもらえていれば幸せよね」
「えへへ、そうかな」
「って、なに照れてんのよー!」
「ひょっ、ほっへひゃいひゃい~~」
「そうよ。今時幼馴染同士が結婚なんてそこらの天然記念物より希少よ。大体、幼馴染ってのがレアすぎるでしょ。ねぇ、一体、どういう流れでああなったのよ?」
「えっ?それは、変態さん退治で怖いのと皆倉君と一緒にいると思ったら頭が真っ白になって、話しかけたかったんだけど、勇気が出なくて、それでしどろmod」
「うっわー!!なにそのベタ展開っ。それってもう脈なんじゃないの?」
「脈って?」
「皆倉もあんたのことlikeじゃなくてloveなんじゃないかってこと」
「んーー、そうだったらいいけど。嫌われてはないと思うんだー」
「何ですかそれ?あれですか、私にしか分からない微妙な感じなんですぅーって言う嫁宣言ですかぁ」勝手に驚いたり嬉しかったりしたつゆりに澪が仕返しだ、と言わんばかりに口元をいやらしく弧を描く。
「っよ、嫁宣言!?……お、お嫁さんかぁーー、いいなあ~。皆倉君のお嫁さん。……ふ、うふふふふ」
ダメだこりゃ。
「そんな妄想で満足してたら誰かに取られちゃうよ?」
「だ、だれかってぇー?」妄想全開、フニャけた体で言う。そんなことないない、といった体である。
「そうだなー、例えば、ユリ先生とか?」
「香々百合先生は無いと、思うけどーー?」
「それって、うちらが若いって暗に言ってんの?」
「そっ!?そうじゃないけど…」
「分かんないよー?こう、大人びた雰囲気でコロッとイっちゃうかもよ」
「コロッと!!い、いくってどこに!?で、でも家族だから結婚できないんじゃ―」
「先生って皆倉君から見て叔母さんなんでしょ。出来るんじゃないの?それによく話してる中学生の子とかは?」(※叔母は三等親。結婚は法律上、四等親から)
「あの子はどうなんだろ。聞いたことないから分かんないけど……」
「あんた、いつもは誰とでも話せるのに皆倉君が絡むと借りてきた猫になっちゃうもんねぇ。そうだなあー、あと、皆倉君ていい感じじゃんって子結構いるよ」
「そ、そうなのっっっ!?」全然気付かなかったよ、と付け足して言う。恋する乙女は意中の人に対する周りからの目には鋭いがこの子はいかんせんらしい。
「まあ、あのバカ二人の手綱を握ってる訳だし、頭もそこそこ良いし、ルックスも悪くないしぃー、性格に難ありだけどそこは直してあげたいって思えちゃうし、って何?」
「いえ、別にみっちゃん、やけに皆倉君のこと褒めるなあとか思ってないですけどぉ(ぷくぅー)」
「そんなこと、(あ、いいこと思いついた!!)確かにぃ、私が皆倉君のこと良いなあと思ってたとして、別につゆりには関係ないんじゃないの~?」その口元はいやらしく歪む。
「っぐ、それは確かに無いけど~~」明らかに意気消沈している。自分を応援してくれる友人が自分の恋敵になってもそれを受け入れているようだ。そんな優しさが当たり前のようにできる、それも澪がつゆりを応援する理由だ。
やっぱり応援してあげたくなっちゃう。
「ま、こんなチャンス作ってあげるんだから頑張んなさいって事」
「チャンスぅ?」
素っ頓狂に答えたつゆりにそう言って腰にかけている鞄からくじを出し、これからの流れを説明した。