Welcome to xxx. 第一章スローライフ、ただ過ぎてゆく時の中で②
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『
From:山口さん(ハキハキ大臣)
Sub:変態撲滅作戦概要
本文:変態撲滅作戦よ! 集合時間は午後九時で集合場所切鷹駅の鷹象前ね!!所持品各自に任せるから、とにかく役立ちそうなもの持ってきなさい!!
時間厳守!!来なかったら(笑)
』
現在は午後六時を過ぎたあたり。
何に影響されたか分からないが良く分からないメールが来た。見てみれば案の定、山口さんだった。
何を思ったのか、いつ現れるやも知らぬ変態大学生(実際はどうか分からないが、山口さんの中では今回の犯人は変態で大学生らしい「これはそう、私に捕まえろという神様からの天命よ!」、と言って瞳の奥に闘志をメラメラと燃やしていた。
来なかったらの後のこのニッコリ笑顔の絵文字、またコークスクリューか。
なぜこうなったかは言うまい。
適当に飯を食い、テレビを見ていたら時刻は午後八時半。
ゆっくりと歩いていこうと思い家を出ると、
「こ、こんばんは」
「おう」
塩谷さんがいた。
サイドポニーも健在だ。
待っていたのだろうか?インターホンを押せば待ちぼうけせずに済むものを。
塩谷さんの家は通りを一本違いに右に曲がってすぐだ。昔は隣に住んでいたのだが、小学生の頃に少しだけ(距離にして五十メートルほど)遠くに引っ越したのだ。これが未だに謎な皆倉家七不思議の一つだったりする。
どうしてここいるのか、などと疑問に思ったがその理由は聞くだけ野暮だ。明るくもないし都市伝説(ただの痴漢)退治に行こうと言うのだから、心細くなっても当然だ。エイリアンの映画を見た時、夜にトイレに行きづらいのと同じだろう。特に塩谷さんは小さい時からこういう怪談系が苦手だったような、憶えがある。
「一緒に行くか」
「えっと、……う、うん♪」
そんなに怖かったのか嬉しそうに頷き、俺たちは切鷹駅へと歩き始める。
駅までは通学路を半分ほど行った所にある交差点を左に曲がって後は直線を行けば線路が見えるので後は線路伝いに歩けば着く。
本名は塩谷つゆり。十六歳。確か、9月17日生まれ。つまり乙女座。日本人特有の栗色したクリッとした大きな目。チャームポイントサイドポニー。料理が得意で、昔はよく遊んだ。
今はスポーツ特待生で寮生活をしている妹とも仲良く三人で遊んでいた。
まだ歩き出して三分も経っていないが塩谷さんは小刻みに震えている。どうだろう、顔をチョロっと見るくらいなら失礼にならないだろうか。
「……」
「……」
心なしか、顔も赤い。その存在すら怪しい対象にここまで怯えるとはホラー映画監督も大喜びだな。いや、ハキハキ大臣曰く、変態大学生だからなー、仕方ないっちゃ、しかたないのかねー。
少し逡巡したが古い付き合いだ、と思い立ち手を握った。
「ひやぁっ!?」
掴んだ瞬間、ビクンッと振るえ、耳まで一気に真っ赤になったので思わず手を離した。
「あ、悪い!あまり怖そうだったから少しでもマシになればと思ったんだけど、嫌だったか?」
「ううん、いや、じゃない。ちょっとびっくりしただけ……」
か細いが、俺に遠慮して嫌々という風にも見えなくもない。「まあ、駅の近くまでで勘弁してくれ。塩谷も俺と手繋いでゴチャゴチャ言われたら鬱陶しいだろ?」
「そんなこと、ない、けど……」
「ん?どうした?」
「なんでもない。……あり、がとう」
「ああ。このくらいおやすいごようだ」
もう一度、手を繋ぎ歩き出す。
柔らかい。変な意味ではなく柔らかい。それでいて指は細くスベスベしていて、あれだな肉球にメッキ加工施したらこんな感じになりそうだ。本当に俺と同じ地球人の手なのか?と疑問を抱きたくなる感触だ。
妹の手はもっと堅かった気がする。
しかし、自分から言い出してあれなのだが、やはり、恥ずかしい。幼稚園のお遊戯でサルとウサギが手を繋ぎピクニックに行くシーンとはレベルもシチュエーションも違う。
心臓がいつもよりドクンドクンと高鳴って、緊張してきた。
俺も初心だが彼女も初心らしい。
手汗は大丈夫だろうか。やはり、……いや、やめておこう。
「そういえばこうして話すのも久しぶりだよな」
「……」
「昔はよく、近くの公園に行って遊んでたっけ」
「……」
「はっはっはっはー。……喋ってるの俺だけー……あーー」
あれ?もしかして俺空気読めてない?なんか間違ってる?さすがに会話無しで駅まではキツいぞ。俺の精神衛生上。
……どどどどど、どーしよー!!て、繋いじゃってるよぉー。これ、夢じゃないよね!?ほんとに順くんと、て、繋いでるんだよね?わたしの右手と順くんの左手が、つつながってるんだよね、……どうしよおー!!なにか話したほうがいいのかな。でも、なに話たらいいんだろう。子供の頃は仲良かったのにいつからかは忘れたけど、だんだん余所余所しくなって、お母さんも男の子は皆そうなのよ、なんて言ってたけどそれからあんまり遊ばなくなって、それでだんだん口数も減っていって……。大体、みっちゃんも順君、一人で暮らしてるんだから幼馴染として朝起こしに行くぐらいの事してあげなさいよとか言ってるけど。私も行きたいんだけど、鍵も閉まっているお家にどうやって入って行くかも分からないし、順くんって掃除や洗濯も出来てるっぽいし。お料理はどうなんだろ?……根拠もなく出来そうな気がする。昔から何でも出来たからなぁー。そもそも去年までは直ちゃんもいたし、しょっちゅうって事でもないけど香々百合先生も来てたし。わたしの入り込むスペースなんて無さそう、だったしぃ。ああ、どうしよっ。とにかく、何か、何か話さないとっ―
「「あのっっっ」」
こういう間が空いた時はこうなる。お約束ってやつだ。
「お先にどうぞ」
「そ、っ!?…皆倉君こそ、お先に」
再び現れる沈黙。
なんだろうか、めんどくさくなってきた。たかが人と話すぐらいでどうしてここまでゴチャゴチャ考えてんだよ俺。もっと、気楽に。流しそうめんのようにスラーっと。
「よっ、お二人さん。手なんか綱いじゃってさ、仲いいねえ!」
「はぅ……っ」
「ひぇっ……」
俺たちは二者二様の驚き方をし、磁石の同極同士が近づいた時みたく弾かれるように手を離した。
不覚だ。気づかなかったとは。緊張のし過ぎで周りに気が回っていなかったということだろう、と後悔しても後の祭りだ。眼前にはエロい雰囲気を纏った山田さんがいる。
こういう時の女性は逆はぐれメタルだ。
「これは、その、あれだよ、あれ、久しぶりに旧友の中を深めようとだな。な、なあ?」
「え、うん。そ、そうなんだよ。うん。絶対にそう」
「ははーん、そう。……まあ、この場は良しとしよう。それじゃあつゆり、あんたはこっち来な」
「え?ちょっと、みっちゃん!?」
うわーぁぁぁああ、と言う悲鳴を上げながら塩谷さんは山田さんに連れて行かれた。
切鷹駅は俺の家から一番近い私鉄の駅でまあ、それなりに大きい。駅の構内からそのまま大型ショッピングセンターに行ける事もあり周辺住民から愛される駅だ。
時刻は七時五十分。
大方、山田さんは主催者として一番早く着いてなくちゃねって感じで四十分ぐらいには来ていたのではないだろうか。その方が全力で事に当たっているように見える。いや、やめよう。
山田さんは真面目なだけだ。邪推は無礼だ。
皆が集まるまでスマホでも見ていよう。