エンディング
イタマエ?!
最終決戦 (結)で終わったはずじゃぁ……?!
残念だったなぁ、トリックだよ。
ジョニーの身体から、カレー色をした闘気が立ち上ったのだ。
それはシュオシュオと、まるで燃え盛る炎のようにして彼の身体を包んでいる。
「アレは一体何じゃ?!」
動揺して大きな声を上げたのは、サカキのばーちゃんだ。
ばーちゃんはゴングの前の椅子に座っていたが、あまりの出来事に、おもわず立ち上がっていた。すると、その横で静かに座っていたドーマンのじーちゃんが、その丸メガネの位置をクイッと指で直して答えた。
「あれはスーパー板前だ」
「大丈夫かそれ?!」
「無論だ。一般的な形容詞を使っているだけなら、まだパクリにはならない。宇宙人とか7つのボールを集めるとか言い出すと、かなり危ないがな」
「ドーマン、少し自重せんか!」
「すまん。」
「さて、続けよう。板前の力は『美味』によって覚醒する。これは真の板前の中に存在する板前細胞という特殊な細胞が深く関わっている」
「この板前細胞は、『美味なるもの』を摂取することによって覚醒し、板前の能力を何倍にも増幅させ、あの炎のような闘気を放つようになるのだ」
「もう割とアウトじゃないか?」
「まぁ、そう言うな」
「当然だが、板前は『美味なるもの』を摂取すると、興奮状態になる。これによって板前は、大胆かつ繊細な調理技術を持ちながら、『伝説の戦士』になるのだ」
「後付設定をコレでもかというくらい既成事実にし始めた!!」
炎のような闘気に包まれたジョニーは、目の前の敵、マタミンを見据える。
中年男性はその頬を熟れたサクランボのように染め、汗ばんだ腹肉を揺らしながら、内股気味の小走りで迫ってきている。
もしこの場に「鑑定」スキルを持つものがいたなら、マタミンの存在は、猥褻物を通り越して、「有害生物」というおぞましい存在に成り果てていることに気付いただろう。
「破ァッ!!」
掛け声とともに、ジョニーが掌を勢いよく突き出す。
すると、そこから青白い火の玉が飛び出した!!
「不味いぜ!!」
「ああ、色だけ変えたらセーフだと思ってやがるのぅ!」
喰らえマタミン!!オヤジの敵!!
心でそう叫んで、ジョニーは何発もの光弾をマタミンに叩き込む。
重奏するように爆発音が続き、そのおぞましい肉体は煙に包まれた。
ところが――、マタミンはそのエネルギー弾に耐えきり、中年男性の顔で、少女のような微笑みをその顔に湛えていた。
まさかこいつ、あの攻撃に耐えたのか?
ジョニーは恐怖し、皮膚が粟立った。と、次の瞬間、マタミンはその顔を恋心でほころばせ、キリ揉みで回転しながら突進してくる。
マタミンのハゲた頭頂部が、グルグル回転しながら、彼の目前に迫ってくる!
クッ!――早すぎる!まるでミサイルだ!
マタミンの体重という質量、発射速度、そして回転を含めたそのエネルギー量は、現代機甲師団が運用する、主力戦車の砲撃に匹敵した。
ジョニーはガードをあげ、心の壁を張る。
キモイキモイ!と念じ、心の壁を張ることで目の前に力場を形成したのだ。
ばっちぃ!あっちいけ!!
いくら戦いとはいっても、汗ばんだマタミンのハゲ頭を、その手で受け止める気にはなれない。誰だってこんなモノ、触りたくないだろう。
しかし力場で防いでも、その衝撃は凄まじいものだった。
なにせ、600ミリ以上の複合装甲を貫く砲弾に匹敵するハゲ頭なのだ。
そのプレッシャーによって、ジョニーの細い腕と薄い肩は、悲鳴を上げていた。
クソッ!ミタケの料理バフがあっても互角か!
後ひと押し、後ひと押し、何かがありさえすれば……!
「サカキのばーちゃん、このままじゃジョニーが負けちまう!」
「うむ……やはり後ひと押しがたらんのう」
「左様。ジョニーが料理の力なら、マタミンを動かしているのは、恋心、愛だ。」
「基本的に愛とか恋とか、そういうので戦っている方が強い」
「中年男性が愛を振りまいて戦うとか、目で見る自然災害なので、ジョニーにはアレを早くぶっ倒してほしいんじゃがのう」
もっともだが、身も蓋もないことを言うサカキとドーマン。
しかし彼らの言葉に、ミタケはあるヒントを得た。
そして思いついたそれを、そのまま口に出すことにしたのだ。
「ジョニー!戦いに勝ったら何でもしてやる、だから……負けんな!!」
ジョニーの頭に「なんでも」その言葉が染み入っていき、論理演算が行われた。
「何でも」とは、何でもシてくれるという事で間違いないだろう。
肯定:何でもするとは、ジョニーが望むことを、ミタケが提供するという事。
提案:ジョニーは、ジョニーのジョニーの欲求を満足させる要求をする事。
推測:結果、ジョニーは大人になる。
「――ウッ……ふぅ。」
ミタケの方を振り返ったジョニーの顔は、白黒の劇画調になっていた。
下半身を向けることは出来ない。コレが今の彼に、精一杯できることだった。
ミタケのその躰の、なんと素晴らしいことだろう。
目の前に迫る、マタミンの脂ぎった肉体と比較すると、いや、比較など出来ない。
出来損ないの粘土の塊と、ギリシャ彫刻を比較するようなものだ。
薄い影を作るシックスパックで、彼女の腹は引き締まり、持ち上がった尻と股関節は筋肉質過ぎない丸みを帯びている。
そして胸ときたら、その張りは強い弾力を予感させる。
柔らかいだけではない、ミタケの、オニの女性の躰を想像したジョニー。
すると下腹部に凄まじいパワー、生命力が集まっていくのを感じた。
これは――!!
ミタケの躰を見たことで、ジョニーのジョニーが、もうひとりのオレが力を溜めているのだ!!そのエネルギーは、今やはち切れんばかりになっていた。
これなら、行ける……!!
ジョニーは集まったこの力を、そのままマタミンにぶつけることにした。
両の手をマタミンに向け、できるだけ顔を見ないように、集中する。
うぉぉ……射出ッ!!
「ハァァァァァッ!!」
ちょっと何かの花っぽい臭いをした、白濁した生命エネルギーが彼の手から溢れた。ジョニーの生命力は光の奔流となって、マタミン、そしてその背後にいたセコンドの冒険者たちを襲った!!
「ウワラバァァァァァァッ!!!!」
「「なんで俺たちまで―――!!!!」」
白濁したビームは、「漆黒の黒」をその残滓すら残さずに消し去った。
みると、ジョニーの手には、ちょっと残りの汁がついていた。
「――最低だ、俺って……」
ジョニーが、地面の砂で手についた汁を拭っていると、彼の勝利を喜んだミタケに背後から襲われた。彼女はジョニーを抱くと、そのまま子供を持ち上げるみたいにした。
「やったなジョニー!これで『漆黒の黒』はお終いだな!」
「あぁ……そうか、そうだな!うん!」
自分をコキ使っていた「漆黒の黒」。ジョニーはそれにようやく復讐を成し遂げることが出来た。惜しむらくは、この姿を父に見せることが叶わなかったことだ。
「ジョニー、どうした?」
「いや、なんていうのかな、オヤジにもこれを見せたかったなって」
「うーんでも、ジョニーのオヤジさんに、マタミンの姿はちょっと見せられねーかな?見苦しいって言って、その場で捌いちまいそうだぜ」
「ハハ!それもそうだな!」
「そうだ、サカキのばーちゃんとドーマンのじーちゃんにも礼を言わせてくれよ」
「オレはきっと『漆黒の黒』を出た後、『輝きの白』に入ることがなかったら、きっとひどい事になってた。だから、お礼を言いたいんだ」
「なんじゃ水臭いのう」
「うむ、『漆黒の黒』云々がなくても、きっと私たちは君の事を助けていたし、君なら私達の助けがなくても、うまくやれていたさ」
「私達よりも先に礼を言うべきは――ミタケに対してではないかな?」
「あっ」
「ハハッ!ジョニーはもう家族みたいなもんだしな、そんな遠慮なんかいらねーよ」
「いや、でもミタケさん、改て礼を言わせてくれ。オレが勝てたのは、ミタケさんのおかげだ。いや、その前の四天王に勝てたのもミタケのおかげだし――」
「くすぐったいぜジョニー!」
「ふ、愛じゃよ。さて、布団を敷くとしようかの」
「ばーちゃん!」
「ホッホッホ」
・
・
・
こうしてジョニーと「漆黒の黒」の長い戦いは、終わりを告げた。
そして一夜あけた次の日のことだ。
昨晩は大変お楽しみだったジョニーだが、ジョニーとミタケでは基礎体力に違いがありすぎた。彼の足腰は、生まれたての子鹿のようになっていた。
「腰が、腰が軽いっていうか、無くなっちゃったみたい……」
「だいじょーぶかジョニー?取って喰ったりはしてないはずだけど?たぶん」
「怖いよミタケさん!!」
立ち上がる彼だが、立ちくらみのようになってしまった。
起き抜けでコレでは仕事どころではない。
テレビでもつけ、朝のニュースを眺め、少し休むことにした。
画面に写ったのは、食堂の前に立つ女性レポーターだ、彼女はどうやらこの食堂の新しい名物の話をしているようだった。
『最新型の調理ロボットが導入されたという食堂に来ています』
『見てください!これが最新科学の結晶、「メカイタマエ」です!!』
「メカイタマエ?なんだそりゃ」
「調理器具か何かかな?もし使えそうなら、ウチにもほしいなジョニー」
「……何か嫌な予感がするんだけど」
『見てください!このメカイタマエは、通常の3倍のスピードで調理ができるんです!インスタントラーメンも、一分で作れるんです!』
食堂で調理をするメカイタマエの姿を見た俺は、目を疑った。
厨房にいたのは間違いなく――
「オヤジ?いや、デスイタマエじゃねーか!!!!」
「えっ!?あ、マジだ!!」
レポーターが見る先で調理をしている漆黒のロボ。
その姿は機械だったが、どう見てもデスイタマエだった。
『開発者のアンシーン博士にもお越し頂いてます!博士!すごい発明ですね!』
『ホホホー!一家ニ一台、イタマエハ、ゴ家庭ノ夢デスカラネー!』
『この発明には苦労されたと聞きましたが?』
『YES!!科学ノ為ニ、尊イ犠牲ガ有リマーシタ!!』
『シカシ、好キニシテ良イ板前ガ居タノデ、実現デキマシータ!!』
『そうなのですね!ちなみに量産も予定しているとか?』
『ホホホー!ソウデス!ソノ内、世界中ノ料理人ガ機械化サレルデショー!』
「許せねぇ……アンシーン博士め、オヤジの身体をあんな風に……」
「どうするんだよジョニー!あの博士、量産とか言ってるし……親父さんを機械にしたやつを、世界中にバラまくつもりみたいだぞ?!」
「そんな事させねぇ!いくぞミタケ!今日はもう店じまいだ!」
「おう!」
こうしてミタケとジョニーは、新しい敵に立ち向かっていく。
しかしアンシーン博士の背後にはより強大な敵が居た。
アンシーン博士の送る刺客と戦うジョニーたちだったが、戦いの果てに、彼の背後にある世界的なシンジケート、料理を牛耳ろうとする秘密結社の存在に気づくことになる。傷つくミタケ。燃えあがる「輝きの白」のギルドハウス。
そして機械の中に封じられたはずの、あの者が再び目覚める――。
しかしそれはまた別のお話。またの機会に語るとしましょう。
おしまい。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
まだ続けられそうですが、10万字を超えたので、一旦ここで終了です!
また変な話を思いついたら書き始めるので、もしこの手の話がまだまだ読みてぇなぁ、気になるなぁという方は、お気に入りユーザ的な機能で、作者のフォローをお願いします!
ではでは!




