最終決戦 (序)
マタミンが出した求人票を手に取る者などいるのか?
疑問に思う読者もいるだろう。
しかし思い返してみて欲しい。
冒険者とはきわめてヤのつく自由業に近い存在であり、他人をディスること、暴力を振るうことが、3度の飯より好きな存在なのだ。
強盗、殺人、放火、といった脱法行為ができて、なおかつ金がもらえるとなれば、ほいほいギルドに入ってしまう。それが冒険者という存在なのだ!!
「ギルドマスタァァァァ!なんですかアレはぁーーッ!!」
マタミンの執務室に猿のように叫んで入って来たのは、縁故採用の冒険課長だ。
彼はまるでオバケでも見たような、恐怖に歪んだ顔をしていた。
「なんだやかましい!何が起きた!」
「カチコミです!カチコミですよ!変な連中がいっぱい来てます!!」
「あぁ……それなら心配ない。求人票を見てきた連中だろう。どれ、どんな連中が来たか、みてやろう」
「ほ、本当に大丈夫ですかぁ?ヤバそうな連中ばっかりでしたよう?」
執務室を出て、階下のギルドホールに降りたマタミン。
ギルドホールはレストランの役目を持っていたが、いまやジョニーもデスイタマエもいなくなり、厨房の主はない。その灯は落ちたままだった。
ホールは冒険者で一杯になっており、外の道路まで人だかりが続いていた。
これだけの冒険者が溢れ、ギルドが活気に満ちるのはいつぶりだろうか?
やはりワシには天賦の文才があるようだ。
ワシの書いた天才的な求人票を見て、我も我もとこいつらは押しかけてきたに違いない。彼らを見たマタミンは、その威容を目の当たりにし、ほくそ笑んだ。
中途採用の冒険者は、普段「漆黒の黒」が雇っているような新卒とはまるで雰囲気の違う連中が集まっていた。誰もが顔や身体に傷の痕をもっており、その武具は使い込まれていて、凹みや修繕の跡がある。
それらは彼らの経験の深さを示しているようだった。ギルドに集まった連中の様子は、冒険者というよりは、まるで野武士の一団のようだった。
しかし思ったよりたくさん来たな、とマタミンは思った。
100人くらい来れば上々と考えていたが、その倍は来ているようだ。
「おら、そこをどけっ!」
「これが圧迫面接ってやつか!ぎゅうぎゅうだぜ!」
冒険者共からは、そんな声すら上がっている。
――ふむ、これは多すぎる。すこし数を絞るとするか。
「我がギルドにようこそ、勇士たち。早速だが採用枠は100人である。しかし見たところ……それより多いようだ。すまぬがすこし『数を減らして』くれんか?」
「諸君らの数が100人まで減る。それを持って、全員採用としようではないか」
「戦いの条件は――」
「なんでもあり。」そう言おうとしたマタミンだったが、彼の言葉を吐く途中で、冒険者たちは戦い始めてしまった。あっというまにギルドホールは血に染まる。
「うおおおおしねぇぇぇ!!くらえぇぇ!!」
「ごらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
温かみのあるデザインのホールには、ホカホカと湯気を上げる新鮮な手足や生首が飛び、剣戟の音が鳴り響いた。戦いが始まるのはあっという間で、それがギルドの外の道路にいた連中まで伝ると、そちらでも殺し合いが起きた。お互い殺し合うことで、猛烈な勢いで冒険者の数は減っていく。
よしよし、こんなものでいいだろう。全くバクテリア並の脳しか持たぬ単純な奴らだ。冒険者ギルド「漆黒の黒」のマスターである私でなければ、この連中を使いこなすことはできぬであろうな。
ほどなくして、中途採用枠を争う、血で血を洗う戦いは終わった。
その結果、100人ほどの精鋭冒険者が残った。
生き残った連中には、二つ名もちのネームド冒険者も含まれていた。
自身の行為を「作品」と称する連続拷問魔「快楽卿・ジョイガイ」
異世界からやってきたと自称し、頭を撫でた女性を襲う「光の戦士・ナデポ」
欠損奴隷を治療し、戦場へと送り込む「リサイクラー・ジュン」
彼らは全国ニュースにも取り上げられ、SNSでも炎上を経験しており、世間でもマジでやべー奴として有名だ。おそらく他に行き場もなく、「漆黒の黒」に中途冒険者としてやってきたのだろう。
しかし、そうでなくてはならない。
こいつらは追い詰められたキツネどころか、ライオンなのだ。
けっしてジョニーの料理バフを食らった冒険者などには引けを取るまい。
追い詰められた犯罪者は、ドラゴンよりも凶暴だ。
「よし、諸君!早速だが初仕事に出てもらう」
「目的地は隣町ヴァイスにある冒険者ギルドの『輝きの白』だ!!」
「とりあえず全員ブチ殺せ!!男は皆殺し!!女は好きにしていいぞ!!」
「さっすがギルドマスター様、話がわかる~~!」
ヒューヒューと口笛を吹いて囃し立てる冒険者たちに、マタミンは釘を刺す用にして、あることを言い含める。これが一番重要なことだからだ。
「そしてジョニーとかいう板前がいたら、こいつは必ず殺すこと!いいな!」
「ジョニーの生首を持ってきたやつには!このマタミン直々に褒美を授けるぞ!」
マタミンの鼓舞に、「いぇーぃ!!」と喜びの声を上げる冒険者たち。
まったく単純な奴らだと彼は思った。
さすがにネームド冒険者達は落ち着いている。
騒ぎ立てている連中は、ぶっちゃけ肉の盾くらいにしかならないだろう。
彼らならやってくれる。そうでなければ――
そうでなければ、こんどこそ「漆黒の黒」はお終いだ。
なんとしても、この最後の戦いに勝たなくては。




