暴食の秘密
「ウチが料理を……!?」
「あぁ……オレのこの体じゃあ、ナベを持ち上げることもできねぇ」
「――やってやるさ!ダテにジョニーの料理を食ってたわけじゃねぇ!」
「その意気だぜミタケ、料理は勢いだ……!」
スッと新品のナベをどこからともなく取り出したジョニーは、自身の想いとともに、それをミタケに託した。
「元々オニの料理を作ろうって話だったんだ、ウチにまかせな!」
「へへッ頼もしいや」
ミタケがジョニーからナベを受け取ろうとしたときだった。
かがんだ彼女の胸の双丘がぶるんと震え、健康的な色香をジョニーにふりかけた。
2つの丘と締まった腹部、豊かなイネイトその先に広がるV字の谷。
それはあまりにも彼には刺激が強すぎた。
こちらを心配して顔を覗く彼女の眉はハの字になっているし、このシーンだけ切り取れば、完全に事が始まってしまいそうな感じである。
ジョニー本体が倒れているにも関わらず、小ジョニーだけが戦線復帰しそうなので、なんとかして彼は意志力によってそいつが立ち上がるのを抑えた。
「ウッ――ふぅ……」
「ジョニー?!」
「大丈夫だ、オレに構わずやってくれや」
「あぁ……」
漏れ出したスープで濡れてしまったかまどの中身を掻き出し、ミタケは新しく薪を入れ、火をおこした。
そしてナベに水を張り直すと、ナベを火にかけた。
それを見ていたジョニーは、ある注文をミタケにした。
「ミタケ、火を弱めてくれ。小さな泡が立つぶんにはいいけど、ボコボコと煮えたぎらないようにしてほしいんだ」
「おう?わかったぜ」
ミタケは火のついた薪を取り除き、火勢を弱めた。
「まずは野菜を切るところと髄を煮込む所だけど、ここはさっきと変わんないな」
「あぁ。コンソメスープ自体の作り方はシンプルだからな。ミタケ、オレの包丁を」
「ありがと、借りるぜ」
包丁を受け取ったミタケはタンタンタンとリズミカルに切っていく。
その手付きはジョニーがおもったよりも、ずっと手慣れていた。
「ミタケって食うのが専門家と思ってた、うまいもんだ」
「へっ全部買ってたら『暴食』でいくら金があっても足らないからな!」
「なるほどな」
気泡が立ち始めたナベの中にグンマーの野生化した野菜を適量入れる。
ニンジン、タマネギと香草類をボチャボチャと入れたミタケは、次に骨髄を取り替えた袋をナベの中に沈めた。
「コレで材料は全部だな……あとは煮るだけだぜ」
「ああ。」
「ミタケ、よく聞いてくれ。オレはオニのスープのことは知らないけど、オレの作ろうとしたコンソメスープは、ここからの作り方のほうが重要なんだ」
「ってーと?」
「コンソメスープを作るときは、沸騰させちゃぁダメなんだ。スープが濁るからな。かといって、ぬるくてもダメだ。」
「ぐつぐつと煮えたら濁っちゃうのか?」
「あぁ、しかも数時間もそれを続ける。このコンソメスープ貴族の料理なんだ。これをつくるのには、燃料がたくさん必要になるからな」
「あ、そっかぁ、なるほどなぁ」
ふつふつと煮えるナベを前にミタケはアクをとり、その面倒を見続ける。
彼女自身も気づいていなかったが、これにはスキル「暴食」が幸いしていた。
「暴食」は、食べるという結果に到達するためになら、すべての能力を増幅するというスキルだ。そしてもちろんその結果に到達したら異常な量を食らう。
そしてこの、「食べるためなら人並み以上の能力を発揮する」という効果。
これにはいまミタケがしている「調理」も含まれているのだ。
ミタケではなく、通常のオニであれば、めんどくせぇといって適当に鍋を沸かしてコンソメスープどころではなかっただろう。
彼女は几帳面にアクを取り、ナベの火加減を監視していた。
その繊細な作業は、けっしてジョニーに見劣りするようなものではなかった。
そしてジョニーはというと、こちらに背を向け作業する彼女の尻を眺め、見られていないのを幸いに凝視し、それを脳裏に焼き付けていた。
「こんな感じで大丈夫なのか、ジョニー?」
「あ!あぁ、ウンキットダイジョブ、ベスト・オブ・ベストだ、うん!」
「?」
「あとは濁らないようにだけ気をつけて、ひたすらに味を見るだけだ」
「でもさジョニー、そもそもの話になるんだけど」
「なんだ?」
「ウチがつくったら、料理バフのついた料理にならないんじゃねぇのか?」
「いや、きっとそれなら大丈夫だ」
「えー、ほんとうに?」
ふとジョニーは、彼に料理を教えてくれた親父の顔を思い浮かべる。
……ん、なんでデスイタマエの顔も浮かぶんだ?お前は関係ない。
ちょっとどいててくれ。
ジョニーは想像の中に出てきたデスイタマエにハイキックを食らわして、回想シーンから退けると、父親の言葉を思い浮かべた。
(ジョニー、料理とは愛情なんだ。食べてくれる人に愛を持って作れば、料理というのはその人の力になる。身体だけでなく、心も温める。それが料理なんだ)
ジョニーは父親の言葉を丸パクリして、それをミタケに伝えた。
「ミタケ、料理とは――料理とは愛情なんだ。食べてくれる人に愛を持って作れば、料理というのはその人の力になる。身体だけでなく、心も温める」
「それが料理なんだ」
「料理、それが料理か……わかったぜ!」
ミタケは今までに「輝きの白」のじーちゃんばーちゃんたち、そしてジョニーを思い浮かべる。彼女は彼らの喜ぶ顔を想像して料理を続けた。
普段は何事も適当な彼女だが、その先に誰かがいると考えると、その作業は次第に繊細さが研ぎ澄まされていった。水の音に耳を澄ませ、火の勢いに気を配り、そしてスープの表面が乱れないようにアクをすくう。
「よし、次の工程を教えるぜ――」
「おう!」
煮詰められたことでナベの水が4分の3ほどに減ったころ、十分とみたミタケは、ダシを取った素材を取り除くために、麻布でスープをこした。
出来上がったコンソメスープを皿に取り上げる。
白い皿の上に注がれたスープは、澄んだ金色を顕していた。
「完璧だぜ、ミタケさん。まるでスープが光り輝いてるみたいだ」
「ああ、っていうか本当に光ってねぇ?」
「あ、いや……光ってるのはミタケの冒険者カードじゃね?」
「えぇ?!」
ジョニーの言う通り、ミタケの冒険者カードが光っていた。光の元は冒険者カードに書かれていたスキルの欄だった。
これは何事かと思ったミタケは、冒険者カードを取り出して見てみた。
すると、カードにある変化が起きていた。
「これは、どういうことだ?」
彼女のスキル「暴食」は「美食」に変わっていたのだ!
「ミタケさんもこっち、食うだけじゃなくて作る側に来たってことかな?」
「美食ねぇ……、ウチ、美食家ってガラじゃねぇけどなぁ?」
「ともかく、出来上がったんだ、コイツを持っていこうぜ!」
「あぁ!だな、いこうぜジョニー!」
板前のジョニーと、美食のミタケは「完全なスープ」を携え、審査員たち、そしてです板前が待ち受けている決戦の場に向かうことにした。




