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デスイタマエの蠢動

~一方そのころ「漆黒の黒」のギルドハウス~


 マタミンは食堂で包丁を振るうデスイタマエを見ていた。

 漆黒の板前の見た目は、まさに邪悪そのものだ。


 しかしその料理となると、これはどうだろう。


 デスイタマエの料理を端的に表すとするなら、大胆かつ繊細である。

 その調理はさながら絢爛(けんらん)な舞踏を踏むようだった。


 包丁やハシが宙を所作なく泳ぐことはない。

 すべてが無駄なく規則的に運動している。

 まるで未来がわかっているかのような、一切の迷いがない機敏な板前の動き。

 これが……これがデスイタマエなのか!!


「いや、普通に板前じゃん。そんな格好する必要ある?」


「何か言ったか……?」


 包丁を持ったデスイタマエの目が怪しく光る。

 マタミンは慌てて発言を取りつくろった。


「いえ全然。私の発言は動物の鳴き声と思いくださいブー。」


「そうか。」


 その時だった。

 ベロンベロンに酔っ払った男がギルドハウスに入って来る。

 マタミンは苛立ちながらそれを見た。


「なんだまた酔っぱらいかぁ?最近、うちをただの飲み屋と思って入って来る奴らが多いんだよな……まあ金にはなるが、うちは冒険者ギルドだっつうの」


「ウェーイ!マタミンウェーイ!」


「何だお前、あっこれはこれは」


 酔っぱらいかと思ったら、冒険者ギルド「ワイナビ」のCEOのハーケンだった。


 しかしまあ、ひどい泥酔状態だ。

 ハーケンはその身に何か良くないことが起きると、こうしてすぐ酒に逃げるのだ。

 なるほど、その手を見てみると、お徳用の「ストロンガー・零」が握られている。


「兄弟ィー!おれがヴァイスに出している支部ぅーしってるかぁー?」


「ああ、あのナントカ四天王がいて、ブイブイ言わせてるっていう……シャチクさんがやってる支部のギルドですよね?」


「おー!壊滅しちゃった☆いやんなっちゃうよなー!」

「四天王は討ち死に!冒険者も離れていくし、もう飲まなきゃやってらんねぇよ!」


「ななななな、なにが?!何が有ったらそうなる!?」


「あの『輝きの白』に新しく来たジョニーとか言う板前よぉ、そいつが料理するだけでみんなぶっ殺された!!もうやってらんねぇよ、なんだよそれ!」


「全く意味が解らんぞ!」

「俺もだ」


「どっから現れたんだかさっぱりだ。ちくしょう、板前なんぞに俺のギルドを!」


「興信所を使って、そのジョニーとかいう板前のことを調べたが、どこぞのギルドをクビになったことくらいしかわからん。」


「最近追放された板前……?そういえばそんなヤツがいたような?あっ」


 ここでようやくジョニーの事をマタミンは思い出した。


 そして彼の事を思い出したと同時に、この冒険者ギルド「漆黒の黒」の転落が始まった理由が何か?それにようやくマタミンは気付いたのだ。


「なんかあんのかー?マタミン~?」


 マタミンは汗を滝のように流した。


 元とはいえ、「漆黒の黒」にいた奴が原因、そして、クビにした張本人はマタミンだ。ハーケンにこれがバレたら殺されると思ったのだ。


「えぇ!えぇ!もちろんありますとも!板前と言えばうちにも新しい板前がですね!ほら!デスイタマエさん!ハーケンさんになんか作って差し上げて!」


 なんとか生き延びたい。

 その一心からでた誤魔化しだった。


「はいよろこんでー!」


 デスイタマエから活きのいい返事が返ってくる。

 死神のような姿以外は、ごく普通の板前なんだよなぁ……。


「まずはお通しからです。『たこわさ』です」


「おぉ~うまそうじゃん!うぃーっく!」


「のみすぎじゃありませんかハーケンさん?」


「オメーはおれのカーちゃんかってぇの……とりあえず酒持ってこい!」


 まったくハーケンのやつめ。ここは「漆黒の黒」のギルドハウスだぞ?

 まるで自身の家のように横暴にふるまいよってからに……。


 まあいい、中途半端に意識があるまま叩き出しても面倒くさい。


 ここはハーケンの好きなように飲ませて酔い潰してしまおう。

 そして身ぐるみ剥いで、どこかのゴミ捨て場にでも捨ててしまえ。


 マタミンは震えるハシでもって「たこわさ」をつまんで口に入るハーケンを見た。


「ウォォォォー!!」


 たこわさを食したハーケンが吠えた。

 あまりにも予想外だった行動に、マタミンはあっけにとられてしまった。


 そしてその時、不思議なことが起こった。

 あれだけベロンベロンに酔っ払っていたハーケンの様子が変わったのだ!


 「たこわさ」を食する前のハーケンは、アルコールに脳が侵され、腫れぼったいまぶたを眠たげにおろし、周囲をぼうっとした視線で見ている様子だった。


 ヨレヨレだった服はアイロンが掛けられたかのようにピシッと整い、頭に巻き付けられていたネクタイはすっとあるべき場所の首元に帰っていた。


 そして乱れていた頭髪はテカテカの七三分けになった。


 あれだけ乱れていたハーケンの様子がすっかり変わっていた。


 もう午後2時の最終電車を逃したカブキチョーの酔っ払いではない。

 どこからどう見ても、エリートサラリーマンの風体だ。


 なんだ!?一体何が起こった?!

 ただ料理を喰っただけでこうなるのか?!


「スイマセン、お客さんがお疲れの様子にみえましたので、料理バフで正気に返ってもらいました……」


「料理バフですか、なるほど。」


 あれだけ酒で乱れていたハーケンは、その所作まで完全なエリートサラリーマンと化していた。マタミンはあまりの事に混乱していた。


 そもそも、料理バフとは何か?

 彼の頭の中は、その疑問でいっぱいだった。


「デスイタマエの仕業なのか、しかし料理バフとは何だ……?」


「ほう、マタミンさんはご存じないと見える。ではこちらをご覧ください」


 ハーケンは自身が持つS級冒険者のカードを取り出して、そこに書いてある文字をマタミンに見せた。するとそこには「状態:しょうき」の文字があった。


「これが料理バフ?」


「ええそうです。しかし料理バフとはかつて絶滅した板前の一族が使うという神秘の技のはず。なぜこの板前さんが……?」


「私は板前ではない。デスイタマエだ――」


「アッハイ」


「オヌシに聞きたいことがあるから、その酔いを覚まさせてもらった……」

「その板前のジョニーとやらの話、詳しく聞かせてもらおうか?」


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