漆黒の黒に現れた、黒い影
★★★
「クソッ!このままでは、うちは完全に破綻だ!!」
「漆黒の黒」のギルドマスター、ワタミンはそのあごの肉を揺らしながら、握りしめた拳を机にたたきつけた。
漆黒の黒のビジネスモデルは、もはや崩壊しつつある。
新人が入ってこないなら、搾取のしようがない。
新人冒険者にギルドの掃除や電話番を押し付け、経費を浮かす余裕もなくなってきた。のこったのはマジでクソみたいな連中ばっかりだ。
いま「漆黒の黒」に残っている冒険者のなかで、まあまあ力があると言って良いのはたったの3人だ。
新人をいびる事しか能がないが、人の欠点を見つけるのだけは誰よりも上手なCランク冒険者の「イビルアイ」
実質中級の腕前にもかかわらず、低級冒険者に甘んじ、初心者冒険者を潰すのが何よりの楽しみという「ザコガリ師匠」
そして自慢話の数が、明らかにこなした依頼の数より多い、自分語りだけは歴戦の騎士、D級冒険者の「マウントナイト」……!
目下漆黒の黒のエースと呼ばれる冒険者がこいつらだが……。
クソ!こんなゴミみたいな奴らだけでどうすりゃいいんだ!!
マタミンは白目をむき、両手ひろげてバンバンと机を叩いた。
泡を吹きながら発狂する姿は、まるで何かのオモチャのようだった。
「ハァ、ハァ……とにかく今日は板前の面接がある。10人くらい来るはずだから、そいつらを料理を作るための修行だなんだと言って冒険者にもしちまおう。」
「もうクソみたいな依頼でうちはパンク寸前だ。仕事は拒まずだが、やる奴がいないんではどうしようもない」
「うん!板前にも戦ってもらうとしよう。包丁あるんだからできるだろ」
雑な理由で板前の戦力化を思いついたマタミンは、ウキウキと胸をおどらせて執務室を出ると、そのまま階下に向かった。
するとその場ではとんでもないことが起きていた。
面接に来た10人ほどの板前がギルドの床に倒れ、折れた包丁や、エプロンやコック帽の切れ端が床の上に転がっているのだ。
「何だ……これは何が起きた……!」
倒れた板前たちの中心には、闇夜のように暗い、漆黒の割烹着とエプロンに身を包んだ板前がいた。そいつはマタミンのほうを見ると、邪悪な笑みを浮かべた。
「板前が欲しいと聞いてきた……欲しいのだろう?『板前の力』が……!」
「お、おう、お前はいったい何者だ……?!」
「私は『デスイタマエ』……死と恐怖をつかさどる板前だ」
「そんな物騒な料理いらないよ!!うちは普通の料理で良いの!!」
「普通の料理も作れる……」
「今ちょっと日和ったね?!」
「そこはもうちょっと頑張ろう?そういうキャラでしょ?」
明らかにやべー奴を前にして、マタミンは動揺した。
しかしこの板前たちを倒したのが「デスイタマエ」なら、きっとこいつはそれなりに強いはずだ。なら今まさにしようとしている、板前の戦力化にもつながる。
ならばと、この板前「デスイタマエ」をマタミンは採用することにした。
そしてこの決定が「漆黒の黒」と、板前のジョニー、両者の運命を大きく動かしていくことになる。




