板前追放
ここはユ○クロやコ○トコのある、一般的な中世ヨーロッパ風世界。
人は剣と魔法とマシンガンを使って、魔物と呼ばれる危険な存在と戦っていた。
そして魔物と戦う内に、『スキル』という異能力に目覚める人々が出てきた。
そういった人々は、「冒険者」と言う限りなくヤの付く自由業に近い職業を自称し、「冒険者ギルド」という徒党を組んで、魔物を暴行して得られた金品や物資を町や村の人々に押し売りすることで生活していた。
そしてこの世界は、板前のいる世界でもあった。
板前は人のために料理を作る人のことだが、この冒険者ギルド、「漆黒の黒」でもそれは例外ではない。冒険者ギルドは酒場もあり、そこでは料理も出されるのだ。
奥の厨房で包丁を振るっているのは、切り株のように立った金髪を、ねじり鉢巻きで留めた若い男だ。彼は板前のジョニーという。
彼は目の前の箱からヌンッと野菜を取り出すと、まな板の上にそれを置く。
「ちょっと何よ!クッ!私を辱めるつもりね、恥を知りなさい!!」
「クソォ離せ!この俺は由緒正しきサイタマ産だぞ!!」
レアモンスターの「世界樹の大根」は知性と魂を持っているので騒がしい。
栄養を逃さないために、皮を残したまま包丁で切る。
<トントントントントン>
「ギャアアアアッ!!!!イ”ダアアアアィィィィボボボ!!!!!」
「グワアァァァァァ!!!!シヌゥゥゥゥ!!!!!」
そして塩をふり、焦げ目がつくまで炒める。
「イタァァァァイ!???」「シミルウウウゥ!!!?」
焦げ目がついたら、肉と一緒にみりん、コストコで買ったダシ醤油と、輪切りにしたトウガラシを入れて煮込む。火が通ったらネギを散らして完成だ。
「ダイさん……生まれ変わっても、一緒に…‥‥」
「コンコ……絶対、君と……」
ジョニーは彼らの声に耳を澄ました。
「うん、『世界樹の大根』が静かになれば、もうすぐ出来上がり!」
板前はこういった風に、注意深く食材の声に耳を傾けるものなのだ。
「はい、おまちどぉ!!」
ジョニーは顔なじみのお客のジェイコブに、できたばかりの料理を振る舞う。
彼はこの大根の煮物が大好きなのだ。
「ウヒョー!うまそう!」
ジェイコブは大根の頭に箸を突き刺しかぶりつく。
幼馴染だが素直になれず、ケンカしてばかりだった大根は、腹の中でようやく一つになれた。
「お前も冒険者になったらどうよ?こういう飯食い放題よ?」
ハフッハフッっと飯をかきこむジェイコブは、スキンヘッドに汗を浮かばせながら、ジョニーに冒険者の良さを語った。
「ジェイさん、俺、板前ですよ?」
「おっとすまねえ、お前さんは戦わなくても俺たちのお残りで食えるか、ガハハ!」
「ウーン!!力がみなぎってきたぜえええぇ!!!うっし行ってくる!!」
この誘いはジェイコブのいつもの戯れだ。
彼は本気でジョニーを冒険者に誘っているわけでは無い。
ただ自分の職業「冒険者」と板前を比べ、どこかマシな部分を探し出せたらそれをネタにして、マウントを取りたいだけなのだ。
ジョニーは皿を下げて洗いだす。飯時も過ぎて客も少なくなってきたころ、彼に話しかける者がいた。
存在そのものが18禁、鑑定スキルで見ると『猥褻物』と表示されたと噂される男。この冒険者ギルド「漆黒の黒」のギルド長、マタミンだ。
彼はモザイクがかかりそうな笑みをたずさえて、ジョニーに話しかけた。
「いやあ、ジョニー君、ちょっと時間良いかな?」
「あ、例の話ですね?」
「そうそう、いやー忙しいところ悪いね。試用期間の3年が終わったら、うちのギルドで正規雇用するって話だけど、あれは無しになったわゴメンゴメン」
「えぇ?!」
「いやあ、うちの国もうるさくなって、試用期間を3年過ぎたら正規雇用しろなんてムチャクチャ言うでしょ?だから君は追放★クビ!!アンダスタン?!」
板前のジョニーは、冒険者ギルド「漆黒の黒」に務め出して、今年で3年目だった。試用期間が終われば、ようやく正式なギルド員に成れるはず――だった。
板前のジョニーは文字通り身を粉にするように三年働いた。
正規雇用、安定した生活を求めての事だ。
しかしそれは裏切られた。
顔面に年齢制限がかかりそうな「漆黒の黒」のギルドマスター、マタミンに裏切られたジョニーは、こうして3年働いたギルドを無情にも追放されてしまった。
しかしこの二人はまだ知らない。
これが後々、とんでもない事態を巻き起こすことを。
ここまで読んで頂き有難うございます!
序盤なのであっさりめですが、大体1話2000文字程度のボリュームで、文庫本一冊に相当する、10万文字程度での完結を目指しています。
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