7.教授とごろつき
男達を警備隊に引き渡した黒いローブの男性は、未だに光の縄で拘束されている門番の男性に杖を向けると一瞬で縄を消した。自分の拘束が解けたことを確認した門番の男性は、ローブの男性に駆け寄るとローブの男性に話しかけている。頭を下げているあたり、きっとお礼を述べているのだろう。
ふと、黒いローブの男性が何かを探すように視線を周囲へと向けた。何を探しているのだろうとその様子を見ていると、男性の視線がこちらに向き目が合う。すると男性はなぜかこちらへと歩いてきた。
「其方を飼い主の元まで送り届けてやる。ついてこい」
…いや、何を言っているのか分からない。相変わらず人間の言葉は分からずじまいである。
こてんと私が首をかしげていると、門番の男性がそれに反応し笑顔で私に話しかけてきた。
「よかったね。飼い主さんに会えるって」
うん。わからない。でも、穏やかな表情を向けてきているあたり、もう大丈夫だよって言っているのだろうか。言葉は分からないがピンチを助けてくれたことに変わりはないので、お礼を込めてにゃあと一鳴きしておいた。門番の男性はそれに満足そうに頷くと、子猫へと手を伸ばした。
「君は俺のところにおいで。一緒に飼い主を探そう」
男性はひょいっと子猫を抱き上げると、愛おしそうに子猫を撫でる。どうやらこの子猫を保護してくれるようだ。猫好きなようだし、きっとこの子猫はこの人に任せておけば大丈夫だろう。
ふと、黒ローブの男性が踵を返し歩き出した。やってきた方向へと戻るようだ。
そういえばこの男性はなんで私達を助けてくれたんだろう。多分、わざわざ来た道を戻ってきてくれたんだよね?騒ぎを聞きつけて来たというよりは、目的があって戻ってきたように見えたんだけど、もう目的は果たせたんだろうか…。
そんなことを考えながら、小さくなっていくローブの男性の背中を眺めていると、男性がふと足を止めてこちらを振り返った。
「おい」
ふいに声をかけられて私は我に返った。声の方を見ればローブの男性が歩みを止め、こちらを振り返っている。
…もしかしてこれ、自分についてこいってこと?
男性の意図が掴み切れずきょとんと私が座り込んでいると、門番の男性が私に何かを言って手を振った。バイバイって言っているような気がする。どうやらこの男性について行けってことらしい。
私は腰を上げると、ちょこちょこと男性のもとに駆け寄った。男性は私が自分のもとにやってきたことを確認すると、再び前を向き歩き始める。私は彼のあとを追いかけながら、ぼんやりと黒い背中を見上げて考えた。
もしや、このローブの男性が私を保護してくれるつもりなのだろうか。正直意外だ。だって、ずっと付きまとっていた私に一ミリも興味を示さなかったの人だ。絶対に猫好きではないし、小動物を愛でるようなタイプではない。そんな彼が一体なぜ私を保護しようとしてくれているのか。正直、謎である。
でも、本当にこの人が自分を保護してくれるつもりならその流れにのった方がいいに違いない。結局助けたのは子猫だったし、この世界のことは聞けなかった。聞いたとしても多分、まだ生まれたばかりで何も知らないだろう。
まだこの世界のことは分からないことだらけだが、一つ明らかになったのはこの世界の治安はあまり良くないということである。力も持たない猫の私が、野良猫としてこの世界で安全に生きていくのは難しいだろう。
この男性がどんな人物なのか、まだ分かりきれてはいないので不安がないわけではないが、少なくともわざわざ助けてくれたあたり、悪い人物ではないはずだ。
とりあえずはこのまま流れに身を任せてみようと判断した私なのであった。