表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

5.猫とごろつき

 蜘蛛の巣みたいなのに引っ掛かってたら、いつ間にか近づいてきた人間に持ち上げられて、蜘蛛の巣の向こう側へと引き摺り出された。


 人間は私を見て何かを言っている。言葉は分からないが、目がとても輝いているので、おそらく猫を見つけて喜んでいるのだろう。その証拠に、撫で方がとてもテクニシャンだ。私としたことがついつい気持ちよさに唸ってしまった。あ、そこ、もっとなでて…。


 人間の撫でテクを堪能していたところ、突然、その人間は撫でるのを辞めてしまった。ついついもっとなでてほしいと目で訴えてしまったのは仕方ない。気持ちよすぎるのが悪いのだ。


 猫好きに悪いやつはいない、というのが私の中の理論だ。このまま私のかわいさに陥落させて養って貰うのも悪くないと考えたところで、ふとニャーという鳴き声が聞こえた。


 同族の声だ。しかも、自動翻訳で助けてと解釈できる。…なるほど。同族の言葉なら理解できるのか。ならば、いっちょ助けに行って、ついでにこの世界について色々と教えて貰うのも悪くないかもしれない…!


 猫好きの人間は他にもいるだろうし、まずはこの世界のことをしっかり知っておきたいところである。そう考えた私は人間の腕の中から地面へ飛び降りると声のする方へと駆け出したのだった。



※※※



「おいおい。こんなところに随分とかわいい子フィスがいるじゃねえか」


 がらの悪い男三人組が小さな猫と対峙している。その手には革袋が握られていて、子猫を捕まえようとしているのが明らかだ。


「シャー!(ボクに近づくな!ひっかくぞ!)」


 子猫は必死に威嚇をしているが、震える小さな体で鈴のような声で威嚇したところで可愛いだけだ。全く迫力がない。


「ヒヒっ!そんな小さい身体で威嚇されても何も怖かねぇーよ。…しかし、みじっけぇ手だなぁ。これ、足の意味あんのか?」


 男はあっという間に子猫を捕獲すると、子猫が繰り出す猫パンチを避けながらあざけわらう。男の言う通り子猫の短い脚では、男を引っ掻くことすらできなかった。


 早くあの子を助けないとあの子が連れてかれちゃう!なんとかしないと…!


 もの陰に潜んでいた私はさっと飛び出すと、男に向かって爪を伸ばした。


「に゛ゃおっ!(その子を離せ!)

「痛てぇ!」


 私に引っ掻かれた男は、突然の痛みに耐えかねたのか子猫を離した。腕から落ちた猫はストンと綺麗に地面に着地する。

 

 私は咄嗟に子猫の首を咥えると、男たちから離れた場所に移動した。障害物を上手く利用し、高く積み上げられた木箱の上によじ登る。


「チッ!よくもやりやがったな、こいつ!」


 男は激怒し、物凄い形相で私たちの方に向かってきた。逃げたいがこれ以上の逃げ場がない。屋根に登れればよかったのだが、生憎この高さでは届かなそうだ。


 どうしようかと必死に考えていると、誰かがこちらに駈け寄ってきた。


「やめろ!その子達に近づくな!」


 あれは確かさっきの門のところにいた人だ。彼は懐から杖を取り出すとごろつきに向かって杖を差し出した。


水流砲(アクアトルメーティス)!」

「…!(凄いっ!あの人も魔法が使えるんだ!)」


 杖先から水が勢いよく放たれる。放たれた水は男達に直撃し、彼らはびしょ濡れになりながら顔をしかめた。


「チッ!…次から次へと…一体なんなんだてめぇ」

「ビッチョビチョじゃねぇかよ。一体どう責任とってくれんの?ああ゛?」

「こりゃあ、もうやるしかねぇなぁ」


 コキコキと関節を鳴らしながら鬼の形相で迫ってくる男達。門番の男性は私たちを庇うように立つと、警戒するように杖をごろつきに向けた。


「へっ、もうその手にゃのらねーぇよ。おい、あれ出せ」

「おうよ」


 リーダーらしき男の指示に、もう一人の男が懐から丸いボールを取り出した。そしてこちらに視線を向け、ニッと不吉な笑みを浮かべると、持っていたボールをこちらに向かって投げつけてくる。逃げようにも彼らの動きの方が早く、私達は逃げられなかった。


 瞬く間に空中でボールが光を放ちはじけた。気づいた時には、門番の男性は光の紐で体を拘束されていた。


「うわっ!…くそ!まさか魔道具を持っているなんて…!」

「へへ、これで動けないはずだ。さぁ、大人しくそのフィス達を渡してもらおうか」

「くそっ!」


 男性は必死に何かを言いながらもがいているが、光の紐はほどける気配がない。これはもしや絶対絶命のピンチなのではないだろうか。


 私は必死に打開策を考える。しかし、ただの猫である私にできることなど限られていた。


(くぅう!なぜ、魔法が使えないんだこの体!魔法が使えたら色々とできることあったのに!)


 己の不甲斐なさに胸を打ちひしがれていると、突然、男のうちの一人が悲鳴を上げながら倒れた。


「ぐわっ…!」

「な、なんだ!?」


 泡を吹いて倒れた仲間を見て、他の男達が青ざめた表情であたりを見回す。そして、ある一点を見つめて戦慄した。


「ひぃ!ブリート…ン」

「やめろ!たすけ…」


 声にならない悲鳴を上げながら、彼らは一瞬で意識を失い地面へと倒れた。あまりにも突然の出来事に、私は唖然とその様子を眺める。そして状況を理解してハッと我に返ったとき、目の前を黒い影が通りすぎた。


 間違いない。彼は先ほど森で出会った黒いローブの男性だ。


 男性は地面に倒れている男達の側に着くと、杖をくるっと回し、男たちを光の紐で一瞬で拘束する。そして、杖を空に向けたかと思うと空に向かって赤い閃光を解き放った。


 どうやらそれは緊急事態を知らせる合図だったらしい。その閃光を見た警備隊の人たちが瞬く間にやってきて、拘束された男たちを連れて行った。


 それを見てようやく安全が確保されたことを理解した私は、咥えていた子猫を地面に下ろすと、もう大丈夫だよと一鳴きして伝える。子猫は甘えるようにすりっと顔を私にこすりつけるとありがとうと返してくれた。その可愛さに頬を緩ませながら、毛づくろいをしつつ、無事に子猫が救えたことにほっと息をつくのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ