22.教授と不思議の部屋
目の前に広がる幻想的な光景に私は息を呑んだ。部屋の中央にある3つの大きな魔石は、石で作られた土台の上に浮遊している。その魔石が放つ水色の光によって、部屋全体が照らされ、荘厳な雰囲気を醸し出していた。
「うわ、すごい綺麗…」
「この学校にこんなところがあっただなんて…」
部屋の端には年季の入った本棚と、古書が置かれている。読みかけなのか、机の上には開かれたままの本が置いてあった。
「ここはこの学校の原動力となる魔力をためている間だ。この学校は偉大なる魔法建築士フォーバルド・ヴィンジャーによって建てられた。この校内の魔法による仕掛けは全てこの魔石に蓄積された魔力を使って維持されている」
この学校にはたくさんの魔法による仕掛けが存在する。人が通ると自動で火が灯るランプ、エスカレーターのように動く階段、外のように広い空間の部屋など様々だ。一体、どうやって魔力を補っているんだろうと不思議に思っていたけど、こういうことだったのか。
「こんな大きな魔石、初めて見ました」
フィリップの言葉に教授はそうだろうなと相槌を打った。
「これは悪魔戦争で殺害した魔人たちの魔力を抽出して作られた魔石だ」
「悪魔戦争!?…それって、100年前にこの地で起きた人間と悪魔による戦争ですよね?」
…え?悪魔!?悪魔が存在するのこの世界!?初耳なんだけど!というか、殺害した悪魔から抽出したって、…え、一体どんだけの悪魔が殺されているんだろう。こんなに大きいの絶対、一人や二人じゃないよね!?
「当時、人間たちは魔法の可能性を広げるべく、ありとあらゆる魔法実験を繰り返していた。今でこそ法によって禁忌と定められていたことも平気で行われていた」
禁忌の魔法…それって結構やばいやつだよね?ちょっとだけ授業で聞いたことがあるんだけど、確か倫理的に決して踏み越えてはならない領域の魔法を禁忌として定めているのだとか。
「ある日、一人の魔導士が不死の身体を魔法によって作ることに成功した。しかし、その魔導士は永遠の命と引き換えに人間としての理性を失ったのだ。彼は過激な人体実験を繰り返し、魔人と呼ばれる人を次々と作りあげた」
魔人…人体実験…。なんか物騒な話だよね。ところで、魔人って何なんだろう…?
「魔人はただの凶悪な殺人鬼だ。もはや人間とは言えん。魔人はこの地に住む人々を無差別に襲い、殺した。それに耐えきれなくなった人間たちは魔人を作り出した魔導士を悪魔と呼び、彼を殺そうと攻撃した。これによって起こったのが魔人戦争だ」
人間だった人が実験によって狂わされ人間を襲う。惨いな…。こんな大きな魔石を作れるくらいに魔人が死んだってことは、かなり壮絶な戦いだったんだろうね、きっと…。
「悪魔と人間の戦いは困難を極めた。1年間の戦いの末、ようやくこの戦いに終止符を打った者がいた。それがこの学校の初代校長だ」
「初代校長、…あ!もしかして裏庭の噴水の銅像の人ですか?」
フィリップの言葉に私はハッとする。あの噴水のおじさんの銅像の人って初代校長だったのか。そんな凄い重要人物だとは思っていなかった。
「そうだ。ジャック・エルサヴォア。当時、国で1番強い魔導士だった」
へぇ。流石魔法学校の校長先生。物凄い魔法使いだったんだろうなぁ。
「あの、その悪魔と呼ばれた魔導士は不老不死だったんですよね?一体、どうやって倒したんですか?」
確かにアリシアさんの言うとおりだ。不老不死の人ってどうやって倒せばいいんだろう。
「奴は死なない。だから殺すことはできなかった。だから、ジャックは強力な封印魔法で封じ込めた」
「封印…」
「そんなことができるのね…」
流石ファンタジーな世界。封印っていう手段があるのか…。
「悪魔はこの学校に眠っている。あまり知られてはいないがな」
「え!?この学校に!?」
「まさかこんな身近なところに悪魔が眠っているなんて…」
これは予想外だ。知らないうちに私たちは悪魔と生活を共にしていたらしい。驚愕する私たちをよそに教授は淡々と説明を続けた。
「この悪魔の封印を守り続けることが、歴代の校長の務めなのだ。この学校が建てられた表向きの理由は、二度と同じような悲劇を生まないために正しい魔法の使い方と心構えを教育することだが、裏の目的は悪魔の封印が解けないように監視することなのだ」
へぇ、そうだったんだ。てっきり普通に魔法を勉強して就職につなげるための場所なのかと思っていた。
「…あの、それってこの学校の重大な秘密ってことですよね。今更ですけど、僕たちが聞いていいんですか?」
フィリップ君が戸惑いながらそう尋ねる。確かに、なんで教授は私たちにそんな重大機密を話してくれたんだろう。
「秘密の通路を見つけた時点でお前たちは既にこの学校の秘密に触れてしまっている。下手に動かれるより、私の監視下に居てもらった方が安全だと判断しただけだ。後ほど契約魔法で他言できないように縛らせてもらうがな」
「わかりました。うっかり漏らすのが怖いので魔法で縛ってもらった方がいいです」
「そうですね。私も従います」
え、いいの?二人とも。私からしたら契約魔法とか怖すぎるんだけど…。この世界だと割と普通のことなのかな?
「あの、クラットン教授の件ですけど…。もしかして私たちをここに連れてきたことと何か関係が?」
アリシアさんの言葉に教授は肯定するように頷いた。
「ああ。奴は恐らく、悪魔の封印を解くことを狙っている。あの事件の黒幕も奴であることは見当がついている」
あ、校長と教授が話していたのってこのことだったのか。というか、やっぱクラットン教授が黒幕だったんだね。あのひ弱な見た目からは想像できないけど。
「なら何故、今の状況を否定しようとしないんですか。教授、濡れ衣着せられて謹慎処分だなんて…」
「その方が都合がいいからだ。今は確たる証拠がない。下手に動けば奴を止める術を失う。それに授業がないおかげでこちらに集中できるからな。動きやすくなった」
「教授…」
んもう、そういうところが生徒から誤解される原因なのになぁ。教授って自分が他人にどう思われようが気にしないところがあるよね…。
ふと、教授がフィリップ君とアリシアさんをじっと見つめた。二人は緊張した面持ちで教授を見つめる。しばらくして教授が静かに口を開いた。
「其方らに頼みたいことがある。この学校の秘密に関わる重要な任務だ」
「「え?」」




