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21.魔法の図書館

「君のご主人様、全然見つからないね…」

「この図書館に居ればいいんだけど…。これだけ探しても見つからないなんて、本当にどこにいるのかしらね」


 教授を探し、学内のあちこちを徘徊していた私たちは学内にある図書館へとやってきた。教授の居場所は大抵固定されている。自室か研究室かこの図書館の三択である。


 教授は図書館に行く時、いつも私を部屋に置いていくのでここにくるのは初めてだった。図書館に入ってみて私はあまりの驚きに毛を逆立てる。


 だってすっごいファンタジーな光景なのだ。曲線美を感じさせる丸み帯びた天井。何層ものフロアが天高く連なっている。各階にはびっしりと詰められた木製の本棚が所狭しと並んでいて、年季が入って色が濃くなっている感じがなんともカッコいい。


 しかも、各フロアをつなぐ螺旋上の階段も、壁面の部分は全て本棚になっていて、視界はほぼ本で埋め尽くされている状態だ。魔法で本を取り出せるので、人の手が届かない場所に本があっても困らないらしい。なるほど。世界が違えば図書館のデザインも違うというわけだ。ここに荘厳なBGMが流れれば、それはもうファンタジーなRPGゲームの始まりだろう。


 鼻をひくひくと動かせば、古びた紙特有の香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。久々に感じる図書館らしい香りに、なんだか心がじんわりと和んだ。


「何度来てもここは迷宮よね」

「景色が本ばかりで、方向感覚がなくなるんだよね」


 そんな話をしながら、2人は図書館の奥の方へと進んでいく。階段をいくつか昇ったところで、フィリップがあることに気づいた。


「この階段、なんか違和感がない?」

「ほんとね。ここだけやけに本が少ないわね」


 他の階段にはびっしりと詰まっているはずの本が、なぜかこの階段だけ少ない。誰かが本を借りている可能性もあるが、それにしては集中しすぎている気がする。


 ふと視界の端に床に落ちていた木の切れ端が移った。何となくそれが気になった私は近づいてクンクンと匂いを嗅いで何も問題がないことを確かめると、それを加えてフィリップに渡した。


 フィリップは不思議そうに私から板を受取るとアリシアと一緒に見つめる。


「何かしらこれ」

「木の板みたいだけど、棚の破片かな?それにしてはきちんと加工された板だけど」

「あら、なんか後ろに絵がかいてあるわね?」

「…ほんとだ」

 

 一体何の絵なんだろう。人間にしては狂気的な気がする。


「…不気味ね」

「人間なのかな」

「人間にしては爪が鋭すぎるし、瞳孔が細すぎるわ」

「神話に出ている魔物か何かか?」

「かもしれないわね」

 

 図書館だし、神話に基づいた芸術作品が置かれててもおかしくはないよね。私はどこにしまわれていたものなのだろうと周囲を見回した。そして、近くの棚の側面にこの板がぴったりはまりそうなくぼみを見つけ、フィリップを鼻でつつく。


「ん?どうしたの?…あれ、あんなところにくぼみが」

「なんかこれがぴったりはまりそうな大きさだよね」

「もしかしてあそこから落ちちゃったのかな。元に戻しておこうか」


 そう言ってフィリップが板をくぼみにはめた瞬間、物凄い音を立てて棚が揺れだした。驚いて思わずフィリップの足の間に入り込む。


ゴゴゴゴゴゴゴ


「なんだ!?」

「ひゃっ、なにこれ!?」


 独りでに動き出す棚、音が静まった時には今までなかった謎の空間が出来上がっていた。


「隠し通路?」

「階段になっているわね…」

「どうする?行く?」

「でも…」


 通路は真っ暗だ。しかも、先が見えない程には距離がある。どこに繋がっているかも分からないし、正直不気味だ。ふと、通路の向こう側から嗅ぎなれた匂いが漂ってきた。


 …これは教授の匂い!もしや、この通路の先に教授がいる!?


 私はいてもたってもいられず、駆けだした。


「…え!ちょっとフィスちゃん!?待って!一人は危ないから!」


 フィリップが焦ったように何か言っているが、既にかなり距離が離れていた私には何を言っているのか聞き取れなかった。


「迷子になったら大変だわ!追いかけましょう!」


 二人が私の後に続いて階段を降りてくる。私と合流すると、彼らは階段を慎重に降りながらこの通路について話し始めた。


「この蝋燭、どうなってるんだろう。人を感知すると自動で火が点く魔法でもかけられているのかな…」

「現代魔法では聞いたことがないわよね。古代魔法なのかしら」

「ちょっと不気味だね」

「うん」


 何もない空間をしばらく歩いていると、明かりが漏れている部屋が現れた。私たちは息を呑みそれを見つめる。


「部屋だ。明かりが点いているね」

「誰かいるのかしら?」


 入ろうかどうかみんなで相談していると、突然背後から低い声がかかった。


「お前たち、ここで何をしている」

「「ひえっ!!」」

「にゃっ!」


 飛び上がるように後ろを振り向くと、そこには真っ黒なローブを羽織った男性がいた。暗闇で見えなかった顔が、その男性が持っていた灯によって照らされる。それは私たちが探していた教授だった。


「一体どうやってここに…落としたのか」


 自分の懐に手を入れて何やらまさぐった教授は、何かに気付いたように呟くと深いため息をついた。


「…私としたことが過ったな。…ここはお前たちが来ていい場所ではない。即刻戻れ」


 そう言うと教授は私たちを置いて部屋に入ろうとする。フィリップ君はそんな教授を呼び止めた。


「待ってください!…あの、ここは一体なんなんですか?どうして教授はここに?」

「お前達には関係ない」


 ぴしゃりと言い切る教授に、今度は負けじとアリシアさんが口を開く。


「私たち教授を探してきたんです。教授がもしかしたらクラットン教授の罠に陥れられているかもしれないから。それを伝えに」

「僕たち、見たんです。あの事件の日、クラットン教授があの男子生徒に接触していたところを」


 その瞬間、教授が驚いたようにこちらを振り向いた。そして、はぁっと再度ため息をつくとこめかみを抑えて告げる。


「…着いて来い。部屋で話そう」

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