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16.教授と害虫

ジジジジジジジィィイイイ


 地面を突き破るように飛び出てきたのは、ミミズのような見た目をした巨大な生き物だった。


 いや、前世のミミズのフォルムの方がまだましだ。あれが可愛いと思えるくらいには気持ち悪い見た目をしている。


 教授は冷静な様子でその生き物を見つめている。手には杖を持っていていつでも臨戦できる体制だ。


ジジジッ


 ミミズのような生き物はモゾモゾと動くと教授に向かって飛びかかってきた。教授は杖から光の弾を放ち生き物に当てる。すると生き物は弾の反動で宙に浮き、全身が完全に地上へと打ち上げられた。


「邪魔だ」


教授はそういうと杖から大量に光の剣を出し、空宙に浮かせた。そして、ミミズのような生き物の身体の、全ての節に向かって同時に放つ。ミミズのような生き物は苦しそうな鳴き声と共にバラバラになって絶命した。


「フィス、今だ」


目の前の光景に惚けていた私に、教授はそう合図した。私は我に帰ると、シャキッと爪を出し、全力で木の幹を引っ掻く。すると萎んでいた樹液の袋がだんだんと膨らんできた。


 そろそろ爪が痛くなりそうと思ったところで、教授は私に引っ掻くのをやめるように言う。私は素直に引っ搔くのをやめた。


 教授はこちらにやって来て杖を懐にしまうと、瓶を取り出し栓を抜いた。そして、樹液でタプタプになった袋に手を伸ばし袋をもぎ取ると、中の液体を瓶に注ぐ。透き通るような透明の液体は光を反射してキラキラと輝いていた。


「…これくらいあれば十分だろう」


 瓶4つ分ほどを採取したところで教授は荷物をまとめ、後ろを振り返った。そこには先ほど倒したミミズもどきの残骸があった。


「あれのせいで森が荒れ放題だな」


 教授の言うとおり、ミミズもどきが暴れたせいで木はなぎ倒され、地面は掘り返されている。めちゃくちゃだ。


「あれは地中で植物の根を食い荒らす害虫だ。とてつもない速さで植物の根を食い尽くし、森を枯らす。もう少し遅ければあの木も食い尽くされていただろう。あれよりここに先についていたのは運がよかった」


 教授曰く陽高楓(サムソルアクター)はこの森でここにしか生えていないという貴重な木らしい。もし食い荒らされていれば樹液は近場で手に入れることができなくなっていただろう。


 それにしても、前世のミミズと一緒にするのは失礼なくらい迷惑な虫だな。まさか根を食い荒らし、森を枯らしてしまう虫がいるなんてびっくりだ。こういうのを目の当たりにするとやはりここは異世界なんだなと感じる。


「本来ならこの森には生息しないはずだが…、まぁいい。それよりも森を回復させねばな」


 教授はそう言うと杖を取り出し、ミミズもどきの残骸に向けた。ぶつぶつと何かを呟くと杖から炎が放たれ一瞬でミミズもどきが焼き尽くされる。灰になったそれを教授は魔法でかき集めると、剥げてしまった地面へ振りまいた。


「害虫ではあるが、取り込んだ木の根の分まで体内に栄養と魔力を蓄えているため燃やすと良い肥料になるのだ。もともと魔の森にすむ魔動植物の生命力は強い。すぐに回復するはずだ」


 ふと、教授が私をじっと見ながら黙り込んだ。私は不思議に思い首を傾げる。すると教授は首を横に振った。


「いや、昔は動物相手に語りかける人間を見て変わり者だと思っていたのだが、今や当たり前のようにそうなっている自分がいることが不思議でな。実験を兼ねているとはいえ、フィスにこのような説明をしている私はやはりどこかおかしいのかもしれん」


 確かに教授、最初は全く私に話しかけてこなかったもんな。私に文字を教え始めたあたりから、こうやって色々と説明をしてくれるようになった気がする。おかげで私もこの世界のことが色々分かるようになったので、非常に助かっている。私がどれだけ人間の言葉を理解できるかという実験のつもりなんだろうけど、できれば実験が終わっても続けてほしいものだ。


「それにしても、お前は本当に不思議なフィスだ。色々と調べたが、やはり私の言葉を理解しているようだし、記憶力もいい。一般的なフィスは人間のよく使う単語を記憶し覚えることはできるが、人間の言葉を完全に理解することも、ましてや文字を覚えることもできない。時折、本当はフィスの皮を被った人間ではないかと思うのだが…魔力の痕跡もないしな」


 難しい顔でそう発言する教授に、私は内心苦笑いした。身体は猫なんだけど、魂が人間だからね。ある意味教授の発言は的を得ているのだ。まぁ、まさか本当にそうだとは教授は思わないだろうけど。


「まぁいい。知らないことを追求するというのも一興だ。…さて、奴のせいで今日の採集はもう無理だ。諦めて帰るぞ」

 

 教授の言葉に私は一鳴きすると、再び教授に飛び乗りフードへと潜り込んだ。教授は私がフードの中で体制を整えたことを確認すると、森の出口に向かって歩きはじめる。いつもより広く森に差す太陽の光がどことなく心地よかった。

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