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12.教授と保護者

「ここです」


 フレッチャーに連れられてやってきたのは、大学から山一つ超えた所にあるおんぼろな山小屋だった。ここに彼の母親が住んでいるという。周囲には自然しかなく、正直どうやって生きているのか疑問である。


 ちなみにここまで来るのに所要した時間はたったの10分だ。どうやってここまできたのかというと、この世界の空の交通手段、飛竜タクシーを使った。プテラノドンみたいな翼竜が、人間の乗っている箱を足で掴んで運搬するのだ。命綱はなし。もはや乗っている人間の命は翼竜次第である。恐怖でしかない。馬車の空飛ぶバージョンといえば聞こえはいいが、その実は空飛ぶジェットコースターであった。


 恐怖とスリル満載の経験に私は疲弊した。しかも、めっちゃ揺れて酔ったのでぐったりだ。動けずにいる私に教授は焦れたのか、片手をお腹に回してひょいと持ち上げてしまった。絶賛教授の腕に担がれ中である。


 元気があればもっと丁寧に運んでくれと抗議するところだが、そんな元気もないため、気分は洗濯物だ。ぐでーんと腕に跨り、ぷらぷらと教授に運ばれ中なのである。


「人が住んでいるように見えんな」


 おんぼろな山小屋を眺めながら教授はそう呟いた。フレッチャーは苦笑しながら小屋の扉を開ける。教授はためらいもなく小屋の中へと入っていく。私は教授の腕から抜け出すとストンと床に着地した。


 小屋の中は閑散としていた。明かりもなく薄暗い中で、私たちは中を見回す。フレッチャーは入り口に置かれた燭台に火を灯すと部屋の奥にある階段を登っていく。ミシミシときしむ音が辺りに響いた。彼の後を追って私達も部屋の奥へと進む。


「母さん、俺だよ。入るね」


 フレッチャーは一つの扉の前で止まると扉に向かって声をかけた。そして、ドアノブに手をかけ扉を開ける。彼の後に続いて部屋に入ると、そこにはボロボロのベッドに横たわる女性がいた。髪は白く、肌は青白い。女性は薄っすらと目を開けると、彼に僅かな微笑みを浮かべた。


「ロン…?…ああ、ついに幻覚が見えるようになってしまったのね。私、もう死ぬのかしら…」

「しっかりして、母さん。俺だよ。ロンだよ」


 憂い顔でそう呟いた女性に、フレッチャーは彼女の手を握りながらそう告げる。女性は驚いたように目を見開きながら彼の手を握り返した。


「…本当にロンなの?なんでここに…?今日は実験があるから帰れないんじゃ…」


 その言葉にフレッチャーは苦笑いを浮かべた。まさか実験で騒ぎを起こして教授に止められたとは言えないだろう。頭を掻きながら彼は口を開いた。


「…あー、ちょっと色々あってね。…それより、母さん、先生を連れて来たんだ。俺がお世話になっている薬学の先生だよ」


 フレッチャーの言葉に母親はようやく来客がいたことに気づいたようで声を上げた。まぁ、教授は気配が薄いので気づかないのも無理はない。私は挨拶の代わりにニャアと一鳴きした。


「…これはこれは。このような姿で申し訳ありません。息子がいつもお世話になっております。…ロン、先生にお茶を」

「お気になさらず。長居する気はないので」


 来客をもてなすよう彼に支持する母親を制して、教授は彼の母親に近づくとその様子を観察する。失礼と一言断りを入れると、瞳孔や脈を確認し始めた。彼の母親はそれに驚きながらもされるがままじっとしている。


 教授はある程度診察を終えると、持ってきていた鞄からいくつかの瓶を取り出し彼に渡した。


「極度の栄養失調と気管の炎症。それから長期間寝込んでいることにより筋肉の硬直が進んでいる。これらはそれを抑える薬だ。これを私の指示通りに母親に飲ませなさい」

「…奇跡の水薬(サヴァーネロ)。こんな貴重な薬を母に…教授、ありがとうございます!」


 彼は目を潤ませながら、大切そうに薬の小瓶を抱える。奇跡の水薬(サヴァーネロ)は魔の森に潜むカルデラという魔動植物から抽出する薬だ。カルデラは神出鬼没で中々地中から姿を現さないため、幻の植物ともいわれている。カルデラは非常に高い再生能力を持ち、その体内に貯められた水分は非常に優れた治癒能力を持つのだ。そのため、そこから抽出した薬は非常に高価だが治癒効果の高い治療薬として有名であった。


 教授はフレッチャーに薬の飲ませ方について説明をすると、帰る準備を始めた。荷物をまとめながら彼にこう言い放つ。


「もう一つ飲ませた方がいい薬があるが、それは調合が必要だ。帰ってすぐ精製し、梟にここまで運ばせよう。使用方法を紙に記して添付しておくので確認してから使うように」

 

 そういうと教授はスタスタと歩いて部屋を出ていった。フレッチャーは慌ててそれを追いかけながら礼を述べる。教授は気にするなというのように片手を上げると玄関の扉を開ける。さっと後ろをついてきていた私を掬い上げるように待ちあげると、杖を構えながら外に出た。


「どうせ、しばらくは実験ができないのだ。これを機にじっくりと母親相手に看病の練習でもするといい」

 

 そういい放った瞬間、教授は光の粒子と共に姿を消した。ロンは静かに教授がいた場所に向かって頭を下げる。


 気づいた時にはいつもの教授の部屋にいた。瞬間移動というやつらしい。できることなら最初から瞬間移動で向かってほしかったが、一度行ったことがある場所でないと瞬間移動が使えないというのだから仕方がない。教授はさっさと調合の準備を始めると、薬の精製をし、梟に薬を運ばせた。


 後日、嬉々とした顔でやってきたフレッチャーが弟子にしてください!と教授に頼み込んできたのはまた別の話である。

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