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MEMORY・8 あなたの脳です

「絵麗奈さん、キキを見つめてないでこちらを見ていただけませんか」


「アンタも睨まれたいのキモ眼鏡ッ!」


「き、キモ……」


 真一の言葉に真一を睨んで言葉を返してやると、泣きそうな顔で自分の横のそれを見るようにわたしに促してきた。

 そう、真一を挟んでキキとは反対側に位置している機械と繋がった容器。

 その中に入っていたのは……なにこれ?……スパゲッティか何か?

 なんというか何匹もの蛇がこんがらがってのたくったものが綺麗な紅の液体に包まれて浮かんでいた。


「なに? このグロテスクっていうかキショイものは?」


「あなたの脳です」


「ふーん、わたしの……は?」


 脳……って、頭の中にあるアレ?

 はい? なんでわたしの目の前にわたしのそんな物が?


「わたしの……脳?」


「ええ。見て分かるようにあなたの脳です」


 見て分かるかッ!


「どういうことか分かった? 姉さん」


 相変わらず冷めた口調でキキが尋ねてくる。とはいえ全く分かるわけがない。


「分かるわけないでしょ!?」


 いきなりこんなもん見せられてあなたの脳ですとか言われてもねぇ……

 ほら、わたしここにいるわけじゃん? 真一見ながら、こいついつか殺しちゃるとか考えているわけで……

 でも真一が冗談なんて言えるわけないし。


「仕方ありませんね、詳しく説明しますので大人しく聞いてください」


 真一がわざわざ眼鏡の光る位置を探して歩き回る。

 いや、どうでもいいから早く説明してよ。

 真一はここでは眼鏡が光らないことをようやく悟り、残念そうにわたしを向き直った。


「今からかなり衝撃的なことを告げねばなりません」


 今までのアンタの言動全てがわたしにゃ衝撃以外のなにものでもないんですけど?

 とはいえ、せっかくの説明を脱線させるのもアホらしいので黙って促す。


「絵麗奈さん、トラックに撥ねられたのは覚えていますか」


「当たり前でしょ、鮮明すぎるくらいにバッチシよ」


「結論から言いましょう。その事故によって絵麗奈さんは死にました」


「そう、死ん……はぁッ!? 何訳わかんないこと言ってるかな? 現に今アンタと話してるじゃんわたし。もしかして幽霊とか言わないでよね。アンタが幽霊と話せるなんて非科学的なことありえないし」


「当たり前です。言葉が悪かったですね……肉体は死んでいた。と、訂正しましょう」


「いや、一緒じゃんそれ」


「いえ、幸いなことにここにある絵麗奈さんの脳は無傷。脳死の前に取りだし保存することができました。本当に運が良かった」


 なんだか自分一人で納得してるし……


「さて、これからの説明は論より証拠。実際にキキの身体をお見せしましょう。絵麗奈さんも基本構造は一緒ですので」


 基本構造? 何それ?


「キキ、アームを着脱部から切り離して絵麗奈さんに見せてあげてください」


 キキは無言で頷くと、自分の左手をわたしの目の前に突きだす。

 右手で左の腕を持ち、そのまま180度、左手を回して……えええッ!?取れた!?

 取れた、左手が? うわっ、何? 嘘。冗談でしょ?


「はい、姉さん」


 口を開けたまま呆然とするわたしに差しだされたキキの左腕。

 思わず落としそうになったけど、なんとか両手で掴んだ。

 あれ? 今ものすごくスムーズに体が動いたような……


「ああ、言い忘れていましたが、先程駆動系の設定を25%まで下げておきましたので身体はもう自由に動くと思います」


 真一の言葉を聴いて、体を動かす。

 いつも動かす身体のように、わたしの体が反応して難なく立ち上がる。

 腰を捻って背伸びして……今朝のわたしと対して変わらない動き……うん。いい感じ。


「さっきから25%とか50%とか、何のことな……」


 体の自由が利いたとたんに真一に向かって歩み寄るわたしだったけど、予想外のことが起こった。

 手にしていたキキの左腕が急にわさわさと動きだしたのよッ!


「うひゃぁッ」


 自分とは思えない声を上げつつキキの左手を床に叩きつける。


「姉さん、酷い」


「絵麗奈さん、その仕打ちはいくらなんでも褒られたものではないかと」


「う、五月蠅いわね。いきなり動く左手なんてキモイもの持たせないでよッ、そっちの方が酷いでしょッ!」


「せっかく説明しようとしたのに……」


 キキが自分の左手を拾うと、腕の付け根をわたしに向けた。


「絵麗奈さん。キキの左腕、切り口はどうなってますか?」


 わたしに注目するようにと真一が促す。

 わたしはキモイと思いながらも、キキの左手に注意を向けた。

 切断面を注視して、絶句した。


 そこには、肉も血管も、まして骨なんてものは欠片も存在していなかった。

 皮だけは人のように見えるものの、その内側にあるのは精密機械。

 骨の替わりに何かの金属を、血管の替わりに細長い管を、肉の替わりに金属製の繊維質が詰め込まれていた。


「き……機械?」


 人造人間とでも言うわけ? 嘘……でしょ? え? わたし、も?

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