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MEMORY・7 押された姉

 慌てて振り向くと、視界がグラリ。

 ブレる視界の真ん中で、眼鏡をきらりと挑発的に片手で支える真一がいた。


「し、真一!? アンタなんでここに!?」


「ふむ……声帯は問題ないようですね。安心しました」


「声帯……?」


「こちらの話です。絵麗奈さん、今までと何かおかしいところはありますか? 腕が動きにくいとか内臓がもたれるとか」


「そうね、動きが良すぎるっていうのかしら? 思った以上に身体が動いて逆に動けないのよね」


 すると、真一は白衣の懐からカルテのようなものを取りだした。

 何かを書き込み顔を上げる。


「駆動系統の設定がただいま五十%で動作中ですので、二十五%くらいに抑えてみましょう。それで問題は解決するでしょう。他にはなにかありますか?」


 駆動系? 五十%? なんのこと?


「ねぇ真一? わたし手術とかした?」


 しかし、真一は何も答えずドアからでて行ってしまう。


「あ、ちょっと、こら!」


 後を追おうとしたものの、身体が反応してくれない。

 ちょっと動かしたはずの足がグインと前にですぎてバランスを崩す。

 前に体重をかけようとしたせいで前に向かって盛大に倒れた。

 床にわたしの身体に沿ったへこみができた。


「な、なんなのよ一体……」


 下手に歩くのは危険だわ。

 わたしは仕方なく匍匐前進で真一によって開かれたままのドアに向かって歩き始めたのだった。

 ああ、もう、何が悲しゅうて匍匐前進なんかしなきゃなんないわけ? 自分に泣けてくるわ。


 部屋をでると、ちょうど階段の踊り場のような場所にでた。

 目の前には右に下りの、左に上りの階段が並んでいる。

 わたしの左右は壁だ。


 通路なんてなく、灯もなくて真っ暗。

 なのに周りははっきりくっきり認識できる。

 床を這いつくばりながら真一の後を追う。

 ……上と下、どっちいったんだろ?


 と、とにかく、今わたしの状況からして上るなんて無理。確実に落ちる。

 ってことは下? いやいや、そこで真一がいなかったらわたし一生ここの下で立ち往生じゃん。

 いや、でも、もしかしたらこの下が地上一階ってこともありえるわけで……賭けですか?


 ようし、もうこっち決定。いくわよ絵麗奈。

 わたしは下り階段に向かって這いだした。

 段上から顔だけだして高さを覗う。


 うあ……高ッ!

 どうやって降りようかこれ……とりあえず、足からよね。

 そう思い、向きを変えようとした瞬間。


「あ……」


 ドンと何かがわたしを蹴り押した。

 勢いよく階段に投げだされたわたし。

 転がる。転がってる。


 階段に身体を打ちつけながら、視界の回転。

 やば、ぜんぜん痛くない。かなりヤバくない?

 あ、前に壁がッ、ああ、ぶつかる。誰か、誰か助け……


 ズドンッ


 ものすごい音と共にわたしは壁を突き破ってようやく止まった。


「あ、はは……薄い壁で助かった……かな?」


 あ~、死ぬかと思った……


「エレナさん、そこは入り口ではありませんよ?」


 真一の声が前から聞こえた。

 目を開ければ目の前に誰かの足が見える。

 どうやら賭けには勝ったらしい。


「そう言ったってさ、わたし誰かに押されたのよさっき、そうじゃなかったらこんな入り方してないって……」


「よかったね姉さん、そこに機械がなくて、壊したら弁償よ」


 わたしが壊した壁を通り抜け、紫少女が真一の横に来る。


「キキ、あなたも、入り口じゃないですよ」


「ショートカットできます。楽です」


 ちょっと待て。もしかしてわたしを落としたのは……


「キキ、あんたまさか……」


「姉さん、今度から階段では立ち止まらないでほしい。踏んでしまいます」


「ケンカ売ってるのアンタッ!!」


 やっぱこいつか、わたしを押した犯人はッ!


「真一、事故の資料揃いました。警察も今調べている最中で大した調書じゃない。よろしいですか?」


「構いませんよ。後で映してください」


「了解」


 わたしを放りだして進められるわけの分からない会話。


「では、絵麗奈さんをメインブレインの場所に背負って案内してください」


「背負う? ……了解」


 と、わたしを担ぎ上げる。

 が、キキの背が背なので下半身が床に着いたまま、キキは気づかず歩きだす。

 ずるずると引きずられるわたしは、もはや反論を諦めていた。


 キキは気分屋だ。わたしの言うことを聞きゃしない。

 言ったところで引きずるのを止めることはないだろうし、ここは諦めが肝心でしょう。

 しばらく真一の後姿を見させられながら引きずられたわたしは、ようやくキキから降ろされる。


「あたッ」


 どさっと無造作にわたしを床に落とし、真一の隣に移動するキキ。


「こらキキッ! も少し丁寧に扱いなさいよ、これでもアンタの義姉よわたしは!」


「大丈夫、このくらいで姉さん壊れない」


 こいつは……

 怒りで肩が震えるが、今の体の感覚じゃ、掴みかかることはおろか立ち上がることもままならない。

 わたしは歯噛みしながらキキを睨みつけた。

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