エピローグ
結局、岸川茜は警察に自首したらしい。
身体が治ってから学校に行ったら七瀬さんと永久君から聞かされた。
真実を知ってショックだったらしい七瀬さん。
それでも元気に何時も通りの日常を過ごしていた。
昼休憩は屋上でスパスパしてるらしい。
しばらく屋上にはいけそうにない。煙たくってしょうがない。
永久君は相変わらず緒方君と仲良く変な話題で盛り上がっている。
外じゃキキを含めて怪しい三人組がディープな話に花を咲かせているとか。
意外と馬が合うのか、キキ? あんた猫だろ。
直人はまだ話しかけてこない。遠目にちらちらわたしを覗っているのは気付くけど、それだけ。まだまだ時間がかかりそうだ。
相川螢は無事親と再会した。それからは会ってない。
まぁ運送屋の裏稼業やってるおっさんと娘さんだし、会うほうがオカシイ話か。
探偵さんのご家族には、まだ会ってない。
でも、彼が調べていた事、持っていたモノ。おかえししたいとは思っている。
多分、近いうちに会いに行くと思う。
鎖無君はいつもどおりだ。
まだあの時のこと謝ってないんで気絶させたこと謝っとかないと。
あ、でも、なんか学校辞めさせられたとかぼやいてたな。大丈夫だろうか?
お姉ちゃんにはわたしは事故の後遺症で再入院と真一が偽っていた。
一週間後に元の姿で帰ったら泣きつかれた。
凶悪なサバ折でその日もメンテナンスを受ける羽目に……
真一は相変わらず。怪しい眼鏡を今日も光らせて、わたしと夫婦漫談を繰り広げる毎日だ。
正直そろそろあのキモイ笑いを止めて欲しい。
そして、自分の体……っていうのも変だけど、機械の身体に戻ったわたしは、今、病室のドアを開けた。
薄暗い部屋の中、ベットに寝ていた人物がモゾモゾと起き上がる。
「……誰?」
「耳がいいんだから、どうせ分かってるでしょ葵さん」
耳がいい人って相手の歩く音で近づいてくる相手が誰かわかるらしいよ。
「そうだね。分かってるよ絵麗奈さん。何の用ですか?」
「この前の続き。答え保留にしたまんまだったでしょ」
岸川茜は彼氏の想いに気付かず彼を殺すことで自分の想いに決着を付けようとして最悪な結果を招いた。
彼女は未来のわたしだったんだと思う。わたしが辿る一つの可能性。
真実。そして結果。
わたしはそうなる前に気付いた。
そしてあいつの想いを理解してるつもり。
だから、もう、怯まない。恐れない。譲らない。
「渡さないわ。わたしがいる今のポジション、心地よすぎて渡せないの」
「それは……私に対する宣戦布告ですか?」
「そう……なるのかな? わたし馬鹿だからそういうのわかんない。とりあえず一言だけ。わたしの大切なものをあなたにくれてあげるわけにはいかないの。奪わせないから。絶対に」
「そうですか……では……」
一瞬にして葵の顔から今まで見たこともない敵意が剥きだしになる。
「今からあなたは私の敵です」
「じ、上等よ。負けないわ」
気圧されながらも言葉を繋げる。
「では……また会いましょう……絵麗奈」
最後は不気味なほど爽やかな笑顔。わたしも笑顔で返す。
「ええ……また会いましょう……葵」
わたしは病室を後にして、病院をでる。
そこでようやく息を吐きだした。
「いいの? あんなこと言って」
声がかけられる。振り向けばキキがいた。可聴域最大にして聞いてたな。
「わたしなりのけじめって奴よ。あの子のおかげで気付いたもんだし。好きかどうかはまだ自覚はできないけど、あいつが他の女の子と親しくしてるとムッとする。そのさ、真一には内緒ってことで」
「いいけど……もう聞いてる」
は? ……あッ!?
気付いた時には後の祭り、わたしの後ろにいた真一は眼鏡を輝かせながらニヤリと笑んで見せた。
「絵麗奈さん、遂に私の想いに……」
「だぁぁ、やっぱ気のせいッ! 気のせいよッ! あんたなんかこれっぽちも好きじゃないわよキモ眼鏡ッ!」
蔑むわたし。しかし、今の真一にンなものは通用しない。
怪しく近づく真一に恐れをなして逃げ惑う。
「……先は長そうです」
キキが何か呟いてるけど逃げることに意識を集中するわたしには気にしている余裕はなかった。
走りながらふと思う。やっぱ、わたしと真一の関係は今までの距離が一番しっくりくるね。と、一人勝手に納得するわたしだった。
でも、一つだけ……
【詳細 桜道市 宮野町在住 城内病院勤務 幼馴染 根暗で陰鬱で救いようのないキモ眼鏡 だけど、優しくて、頼れるわたしを好きな人】
一つだけ、わたしの中で何かが変わっていた。




