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MEMORY・51 証明終了

「せっかく柏木稔を証人にして事故として片付けようとしていたあなたは予定を変更せざるおえなくなった。警察も事故と断定できないなら岩倉武琉を探す。崖下を調べられて岩倉武琉の死体が見つかったなら、柏木稔がどこに行ったのかと探すはず。そしてタイヤを調べられ、不自然さに気付かれれば、周りの人物関係が調べられる。あなたは焦った。なぜなら、柏木稔の彼女と偽って七瀬さんに近づいていたから。自分が警察に目を付けられてしまうのではないか? 目撃者の柏木稔をも殺したのではないかと。不安に駆られ、不安は心の中で恐怖となって、やがてあなたは次の計画を思いついた」


 これらは螢の証言からわたしと真一の考え出した推測だ。

 憶測に過ぎないけれど、それが彼女の心理を一番突いた答えだと思う。


「全ての繋がりを消し去る計画」


 すでに岸川茜は少し前から俯いてしまって聞いているのかどうかは分からない。

 でも、わたしは構わず話し続ける。


「あなたは岩倉武琉の死体を捜しだし、七瀬さんの指紋をバイクに付けた。バイクのタンクから燃料を抜き、タイヤに付いた油を目立たなくした。不自然さは残ったものの、ブレーキを切ってしまえばそちらの方に目が行くと踏んで、あなたはブレーキを切断。さらに念を入れて遺体を見つけられなくするため永久君に電話して現場に呼び寄せ、マッチを目の着く場所に置いておく。柏木稔を好きだった永久君のこと、岩倉武琉を見つけて柏木稔も死んだと知り、彼を誘って走りにでた岩倉武琉に報復するだろう読んで、彼の手で証拠を消す計画だった。周りに油の状況に事実永久君はマッチを手にしたわ。でも、そこをわた……姉さんが見つけて、岩倉武琉の遺体焼却は失敗した」


 わたしはちらりと永久君を見て、次の憶測を言うかどうか一瞬と惑う。

 でも、やっぱり続けた。

 それが真実かどうかは分からない。

 でも、それを相手に突きつけて真実を導きだすことが探偵の役割だ。勝手にそう思っとく。


「指紋とブレーキによって七瀬さんは警察に目を付けられた。あと一度でも彼女が疑われることが起きれば、誤認逮捕でもそのまま警察は犯罪まで持っていくでしょう。あなたは次の殺害計画を既に計画していた。それはあなたと岩倉武琉の繋がり。そう、その事実を知っている唯一の人物である真田永久の殺害。それも七瀬さんに罪を着せる方ほ……」


「もう……いい……」


 短く小さな声がした。

 ヒートアップしていたわたしを遮るように、岸川茜が呟いた。


「そうね……そこまで予測できるなんてね。大方その通り。大したものだわ。でもね、奈菜の指紋がバイクに付いていたのはただの嬉しい偶然。予想してなかったわ。どうせ一度、二人で乗ったんでしょう。私は乗せて貰った事ないのに。あと、真田君を呼んだのは絵麗奈さんが捜索に行くって聞いたときよ。その時に自分のバイクで先回りして一通りのことはやっておいた。まさか頼んだ初日から捜索するなんて思わなかったから」


 顔を上げる岸川茜。その表情は絶望と殺意に満ちていた。


「でも、それ……殺人に立証できる? 私は手を下してない! そうでしょ? 私に罪はないのよッ! 死体にも一切手を触れてないッ! 殺意が証明できなきゃ、私に何の罪があるっていうのッ!」


 岸川茜がわたしに掴みかかる。


「ええッ!? どうなのよッ! 私何か悪いことした? 全部あいつのせいよッ! 何で私じゃないのよッ! どうして私を選ばなかったのよッ! 言ってみなさいよッ! 予想してみなさいよッ! 得意なんでしょッ!」


 彼女の目に初めて見えた濁った魚のような瞳。

 それはわたしを生贄にして助かってしまった直人と同じ目だった。

 後悔しているんだ。


 自分を追い詰めて、追い詰めすぎて、彼女自身で知らない間に、自分で自分を壊してしまっていた。

 わたしの言葉で、逃げていたはずの罪を再認識してしまったんだろう。

 もう、彼女は沈黙を守ろうとはしなかった。

 隠そうとしていたはずの自分の行動を次々と白状していた。


「どうして……どうしてよ……」


 次第、わたしを掴む手の力が抜けていく。

 やがて彼女は床にぺたりと座りこみ、嗚咽交じりに泣き始めた。


「確かに……証明なんてできないわ。結果から過程を導きだすのは不可能だもの。でも……あなたはどうしたいの?」


「……どう?」


「あなたの望みどおり、岩倉武琉は死んだ。柏木稔も死んだ。永久君を殺して、七瀬さんを犯罪者にして……あなたはそれからどうするの?」


「……そんなの……分かるわけ……ない……」


「殺したかったわけじゃない。自分を選んで欲しかった。想いに気付いて欲しかった。あなたの想いは確かに同情できなくもない。でもね、岩倉武琉の想いを知らず自分の考えばかり押し付けようとしていたあなたに……選ばれる資格なんてないのよ」


 わたしの言葉に怒りに満ちた表情で顔を上げる。


「……なん……ですって……」


 泣きはらした岸川茜に向けて、わたしは一枚の封筒を取りだした。


「これね……ある探偵さんを探してる時に一緒に見つけたの。岩倉武琉から……七瀬さんへ宛てた手紙。読んでみなさい」


 聴いた瞬間、わたしから奪い取るように手紙を取って、乱暴に開けていく。

 手紙には彼の想いが書かれている。


「う、嘘……嘘よ……」


 彼の想い。


 ―― 自分はようやく本当の自分の気持ちに気付いた。でも、遅かった。あいつは既に別の男に夢中らしい。だから……替わりとしてしか君と付き合えない。それでも…… ――


 彼は決めていた。七瀬奈菜に。

 彼は決めていたんだ。

 自分のとっての一番は、自分に一番身近な人だって。

 でも、その彼女は自分の親友の彼女になっていたことを知った。

 だから七瀬奈菜に告白すると決めていた。


「私が……私が稔君の彼女だなんて偽ったせいで……」


「わたしは……探偵だから。真実を白日の下には晒すけど、それをどう扱うかはあなたの役目よ」


 今度こそ泣き崩れる岸川茜、わたしは彼女から目を離し、教室を後にする。

 あとは彼等の問題だ。岸川茜がどうするのか、七瀬奈菜は彼女を許せるのか? 真田永久は? それは、やっぱりわたしがどうこうしていい問題じゃない。

 わたしの後ろを真一が無言のまま付いてくる。今はこれでいい。わたしには今の関係が一番だ。このまま昔から変わらない関係。

 一番身近な人と……変わらない関係であり続けること。

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