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MEMORY・50 真相解明

「そういうことです。既に真田君には全てを話してもらっています」


 永久君の横に移動した真一が不敵に笑う。

 あんたが笑うとやっぱ不気味だ。

 真一の態度のせいあるだろう、永久君がわたしたちに話したという行為に岸川茜が怒りで顔を紅潮させる。


「裏切り者ッ! 秘密だってあんなに言っておいたのにッ!」


「永久君に怒るのは筋違いよ茜さん。結果的にあなたが柏木稔をも殺したようなものなんだから」


 わたしの言葉を岸川茜ははっと小馬鹿にする。


「何言ってるのよ? 確かに私が武琉の彼女……いえ、友達だったとして、どうやって殺したって言うのよ? 殺す理由だってないでしょ?」


 フフンと得意げに言う岸川茜。

 いや、理由はあるだろ……まぁ、いいけどさ。


「理由は嫉妬。簡単なことよ。今まで恋人のように付き合っていたはずの親友、岩倉武琉に言い寄ってくる女が現れた。そうして岩倉武琉が自分から遠ざかると知って初めてあなたは気付く。彼が自分にとって大切な存在だったんだと」


 そう……近すぎた存在は奪われる寸前にならなきゃ案外気付かないもんだ。

 実際、わたしも……葵に気付かされた。


「だからあなたは七瀬さんを諦めさせようとした。柏木稔と永久君に協力してもらい、稔の彼女として七瀬さんに接近。岩倉武琉に彼女がいることをほのめかす。これで確かに七瀬さんは岩倉武琉を諦めようとした。でも……」


 そう。そこまでならまだ良かった。岩倉武琉に岸川茜が告白するだけだ。


「どこから漏れたのか、岩倉武琉自身があなたと七瀬さんとの三角関係にあることを知ってしまった。そして彼はあの日。七瀬さんに話があるといった。峠越えの後に選ぶ予定だった。あなたではなく……七瀬奈菜という女性を! 今まで一緒だったはずの自分が選ばれず、どこからともなく現れた女に彼氏を……いえ。ずっと自分だけのものだと思っていた男を取られてしまう。だからあなたは許せなかった。七瀬さんを? 違う。自分でなく七瀬さんを選んだ岩倉武琉を!」


 岸川茜は冷めた表情で高みからわたしを見下ろす。

 その視線には殺意すら込められているようだ。

 とても長時間耐えられる視線じゃない。

 あの、そろそろ反論、してもらえない?


「で? だから何? 私が武琉を殺した? どうやって?」


 どうやって……そう。そこが問題だった。でも、既にそれも解けている。


「事故現場に蒔かれていたガソリン……始めはバイクから漏れたのかと思ってたのよ。でもね。良く考えるとおかしいの」


 バイクのブレーキなんて全く関係ない。

 あれは事故後の偽装工作。

 本当の殺害行動。それは……


「雨の日ってさ、乾いた道と比べてブレーキの効きが落ちるのよ。自転車でも起きる現象なんだけどね。タイヤが濡れることによって滑っちゃうのよね。摩擦抵抗が少なくなっちゃってさ。だからね……タイヤを液体で濡らしてしまえばブレーキをかけても走行距離が伸びちゃうのよ。普段止まれるはずの場所でも余分に滑って前にでてしまう。もしその前の道がなかったら……崖だったなら……」

 確実に、落ちる。

 どれくらいで走っていたのかはわたしには分からない。でも、岩倉武琉は走り屋だった。

 速度は十分にあっただろう。


 普通の道なら止まれる技術を持っていたとしても。

 暗闇の状態で、ましてブレーキを踏む直前にガソリンが撒かれ、そのせいでタイヤが濡れている状態だったと知らなかったなら。


「そんな、ガソリンなんて……それに稔君もいたんでしょ? どうして彼の死体は見つからなかったの? それはつまり彼は止まれたんじゃない? 坂の上で」


「そうね。彼は止まれた。ガソリンのないところを走っていたから」


「ガソリンの……ないところ?」


「そうよ。もし、どちらが右側か左側かを分かっていれば。峠なんだし、対抗しているわけでもないんだから入れ替わったりしてないでしょうし、並んで直進していたんでしょうね。だからどっち側に対象がいるか分かればそちらにガソリンを撒いておくだけ。彼氏の服装だもの。ある程度遠目でも双眼鏡でも使えば暗くても判別付くでしょ。あとは崖前でブレーキを使わせる状態を作るだけ。いえ、カーブを曲がろうとしただけでもタイヤが滑るかしら?」


 螢の言葉を信じて、あそこに彼女がいたと前提してわたしは話す。

 もとより居たかどうかはなんて証明はする気はない。

 岸川茜も、そこに居なかったら? という質問はしてこなかった。

 彼女は……どうする気だったのだろうか? どうやって岩倉武琉だけを落とそうとしたのか。

 これだけはどうしても解けなかった。だって……


「この段階に来てあなたにとって予想外のことが起こった」


 彼女だってあれは予想外だったんだ。

 あの峠はめったに車は通らない。

 だからこそ、彼女は今回の犯行を思いついた。事故に見せかけるための殺人を。

 稔だけが生き残り、誰のせいでもなかったのだと証言するはずだったのだ。

 上手くいくはずだった。なのに来てしまった……


「来ちゃったのよ。来ないと思っていた対向車。黒塗りの二tトラックが」


 彼女の計画はこれで狂った。

 確かに岩倉武琉は彼女の目論見どおり崖から落ちた。

 だけど、それに慌てた柏木稔がトラックに撥ねられ、二人揃って帰らぬ人となった。

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