MEMORY・47 事後処理と秘密の記憶
4月17日日曜日 午前3:52
『はぁ、はぁ、ば、化け物だ、あれは化け物だ、人間じゃねぇ……』
地下からやっとの思いで抜けだしてきた二人の男。
片方は死にかけ。もう一人に担がれて、なんとか脱出を果たしたらしい。
私の耳は可聴域が広いので、離れた場所でも良く聞こえる。
どうやらしくじったようね……姉さん
主人と共に私はビルの屋上で、走る二人の男を目で追っていた。
「絵麗奈さんに発信機を付けておいて正解でした。すべきことは分かりますね、キキ」
眼鏡に手を当て、主人が問うてきた。
すでに用意した対火スーツに身を包んでいる真一。頭部分を被って準備完了。
意外と似合う。可愛い。
「ええ、勝手に一人で行動した姉さんの不始末。二人の捕獲」
私はお気に入りの靴を脱ぐ。私の大好きな色の靴。ちゃんとそろえておいておく。
「絵麗奈さんはそろそろ内部で発火を起こしている頃かと。急いで行ってきますか……」
「了解。こちらは任せて」
主人に答え、私はタンッと地面を蹴った。
【MISSION START】
ビルの屋上から垂直落下。足のブースターが火を吹き上げる。
落下速度が増す。
【90度回転 空中制御 バランス制御 作動】
空中でくるりと回転、すでにビルの半ばまで降りた私はビルを蹴り壊して地面と並行に跳びだす。
【左ハンドキャノン開放】
左腕を横に広げて一気に噴射。きりもみ回転で二人の男の頭上へと近づく。
【90度回転 バランス制御 着地開始】
姿勢を正し、二人の男の目の前に着地する。
このあたりは裏商店街、人がいようと私のことは噂にすらなりはしない。
「ま、また化け物!?」
【武器 ワイヤーネット 任務内容 対象の捕獲】
私は無言で右手を前へと向ける。
【BATTLE START】
ブースターの力を借りて地を蹴る。相手との差を一気に詰めた。
右手中央に開いた穴から飛びでるワイヤーネット。
網目状に繋がった捕獲ネットが二人の男を包み込む。
「な、あ……」
男の一人が何か声を洩らすが私は無視。
【MISSION COMPLETE】
主人が地下駐車場からでてくるのを待って、ネットを引き渡す。
「では、姉さんを回収します」
「熱いので気をつけてください」
「分かってる。それでは帰還しましょう、真一は大丈夫?」
主人にそう言い残し、姉さんの残骸を拾う。あとはこの二人を警察に引き渡すだけ。
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それは……何時の頃の記憶だろう?
わたしは道を歩いていた。
わたしはこの周辺を統括している猫だった。わたしより強い猫なんていなかった。
……猫?
その日も適度な散歩と自分の縄張りの見回りのために尻尾をフリフリ歩いていた。
何人もの人間の男女が手前で話し合っていた。年の頃は小学生だろうか?
蹲る一人の少年を囲むようにして、内側に彼等から少年を守るようにして三人。
あとは嫌味な顔をした小学生の軍団。
『そいつは化け物なんだぞ。何で庇うんだよ?』
少年たちが三人に聞いた。なんとなく見覚えのある顔を持つ三人だった。
『化け物じゃないでしょ。友達だよ。ねぇ武琉』
少女が少年に話を振った。
『ああ。友達だよ。僕たちと同じだ。皆だって本当は分かってるだろ』
少年が答える。その瞳には怒りが込められていた。
『もう、いいよ……皆。どうせ僕は……』
俯いていた少年が答える。すると、三人のうちの一人が少年を無理矢理立たせた。
『バカ言うなよッ!自分が認めてどうするんだよ!』
『でも……どうせ僕はこれから先、誰も構ってなんて……』
『僕が構う。僕が一生構ってやる。だから、自分に自信持てよ。こんな奴等の言葉なんか気にすんじゃねぇよ! 永久ッ!』
永久は顔を上げる。
少年は永久を抱きしめ……永久は泣きながら抱きしめ返した。
『稔ぅ……』
泣きじゃくる永久を見て、皆揃って戸惑いを浮かべ、少年たちは一人、また一人と呆れながら散っていった。
後に残ったのは少年と、彼を守るように立っていた三人。
どうやら彼らは皆知り合いらしい。
わたしも彼等を知っている。皆顔見知りだ。
でも、なぜだろう? 何かが変だ。わたしは猫じゃない。ずっと人間だった。
なら、これは? この光景はなんなのだろう。
『バゥ』
後ろから何かが聞こえた。
わたしは何事かと振り向く。
背筋が凍りついた。
大きな口があった。凶悪な牙がわたしを狙っていた。
荒い鼻息。目の前に垂れ下がり唾液塗れの舌。大きな体躯。化け物だ……
『ワンッ!』
巨大な声。威嚇された!? 知らず体が竦みあがった。
慌てるように逃げだす。
化け物も走りだす。異様に早い。あんなに大きい身体なのに、どうしてわたしと同じくらい……
わたしは走る。あの化け物から逃げるために、でも……
プァァァッ
真横から聞こえた変な音。わたしに向かって突っ込んでくる鉄の塊。
とっさに避けたわたしの足を黒くて丸い四足で踏み壊していく。
身動きの取れなくなったわたしの前で、あの化け物が大きな口を開いた。
わたしは……それに……食べられ……




