表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/54

MEMORY・46 焔に沈む少女の想い

「わたしはすでに人じゃない。だからトラックだろうと負けやしない。今こそわたしを殺したこいつ等に、わたしのわたしによるわたしのためだけの敵討ちをッ!」


 両足を前後に開き、両手を前に。肘は余裕を持たせて曲げておく。

 トラックが触れる。両手がシャフトを掴む。

 押されて地面を滑る。足がコンクリートに擦られていく。合成皮膚……大丈夫かな?


【出力限界中最大 ブースター開放 風圧のみ】


「負けるもんかぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 足から生まれるジェット。トラックの突進力と拮抗する。

 両手を挙げる。トラックが車体を傾け後輪が宙に浮く。

 車輪が空回り、そして……


 そして、わたしを破壊できるものではなくなった。

 焦るギン、罵声が降ってくる。

 無視。

 トラックはすでに後部を天井にめり込ませ、完全にわたしの手だけを軸に宙に浮く。


「化け物化け物って五月蠅いのよあんたたちはッ! こんな身体になったのはねぇ……」


【出力開放50%】


「あんたたちのせいなんだからッ!」


 ベキリ、バキリとコンテナが潰れ、座席部を残して折れ曲がる。


「きっちり責任取りやがれぇぇぇッ!」


 片足を軸に高速ターン。勢いに任せて両手を離す。

 空飛ぶトラック。飛びでるギン。

 回転を止めたわたしの後ろで轟音を響かせトラックはコンクリートの壁に激突した。

 背後で爆発。飛び散るトラックだったもの。


 終わった……ようやく終わったんだ。

 わたしはわたしの復讐をやり遂げたんだ。

 感傷に浸りかけたわたしは、ふと、気づいた。


 あの二人……生きてるかな?

 さすがに人殺しは気分悪いし、一応生死確認だけはしとかないと。

 二人を探すわたし。


 ……見つけた。怯えたように互いに身を寄せ合って震えている。

 わたしに視線を合わせ、まるで化け物をみるように恐れを孕んだ目で見つめるギンと焼け焦げて死んでしまってるんじゃないかとすら思えるキョウジ。

 わたしは近くを走っていたパイプ管をベリベリと引き剥がして長いロープの代わりを作る。


「さぁて、観念しなさいよ、あんたたち」


 パイプ管を自由自在に曲げながら、わたしは赤く色づく地下駐車場を背景に、二人にゆっくり近づいてゆく。

 二人にパイプ管を巻きつけようとした時だった。

 急にわたしの足が動かなくなる。


 ……あ、あれ? 足だけじゃない?

 体全体が動きにくくなっていた。足は完全に動かない。

 なに? わたしに何が起こったの?

 その時、わたしは学校の屋上での真一との会話を思いだした。


 ―― 熱いところでは熱暴走を引き起こすということです ――


 熱いところ。そう、周りはすでに高温だった。

 スプリンクラーによって噴き出た水も、熱気で湿度を上昇させたに過ぎない。

 そして床を嘗め尽くしている炎。機械が剥きだしになった足の裏。


 そこはすでにサウナを越えてるといっても過言じゃなかった。つまり……熱暴走?

 そんな、ここまで来て……

 わたしが動かなくなったことに気づきだした二人がわたしから逃れるようにゆっくりと横に這いずってゆく。


 逃げる? 嘘でしょ? ここまで追い詰めたのよ?

 動け! 動いてよ! 機械なんでしょ! 人間より凄いんじゃないッ! 今、その性能を見せなくて何時見せるのよッ!


 動けッ! 動けってば! 動いてッ!

 わたしは四肢に力を入れる。

 頭では全身が動いてる。なのに機械の身体は一つも反応してくれない。

 たかが炎でなんでこんな……


 そして数分、数十分……ボゥと、体の中で何かが鳴った。

 体の中で、細いヒューズが千切れ飛ぶ。重要な基盤が炎を上げる。

 エラーが全てを埋め尽くす。


 嘘よ……体が……体の中が……燃えてる。

 熱いわけじゃない。でも……嫌……こんなの嫌だ。

 死んじゃう……わたし……また死ぬの?


 焼け落ちる腕、燃える髪。わたしの体が消えていく。

 ……助けて……誰か……真一……

 真……あぁ……砂嵐の混じり始めた視界の中に、わたしの元に駆け寄ってくる男が見える。


 防火服に身を包んだ真一の姿。

 わたしを助けに? ううん、幻でもいい。あいつが助けに来てくれた。それだけで、なぜか心が救われた気分。

 わたしが困った時……いつも、いつも来てくれた。


 ―――城内先生は優しいんです―――


 誰の言葉だったろう?

 本当に……こんな熱い場所にまで……自分は生身だってのに。

 あのバカはほんとに……本当、に。わたしの……大切な……


 気付いてしまった。

 わたしは、あいつを頼ってる。

 あいつが何時も一緒に……どんな辛い時も、困った時も助けてくれるあいつを……

 炎に包まれる視界の中で、いつか感じたノイズが……

 また……ザァァァ……流れ……て……ブツッ


 ………………

 …………

 ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ