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MEMORY・40 消えた探偵

 気まずい雰囲気の中受話モードに切り替え、外部にも音が漏れるようにする。

 相手の声が聞こえれば、葵が電話を会話から逃げる口実だと勘違いしたりしないだろうと踏んだから。


「もしもし?」


『絵麗奈君(仮)か?聞こえてるね私だ』


 耳に篭るように聞こえてくる声。とても渋いオジサン……知り合いなんて一人しかいない。

 自称探偵、新見高志。

 っていうかまだ(仮)取れないのか!?


「自称探偵さん?」


『自称じゃないッ、探偵だッ』


 叫ぶように返ってきた声に思わず耳を塞ぐ。内部から響いているので大した意味はなかった。


『今、君を轢いたと思われるトラックの持ち主に会ってきた』


 わたしを……轢いた?

 あのトラックの持ち主、見付けたんだ!?


『トラック運送業を営む相川組会長、相川将蔵だ。裏じゃ暴力団らしきものを組織してる裏商店街でも名の知れた男だった』


 相川……将蔵。


『彼の側近に、どうやらいるようだ。君の言っていたキョウジという名を持った二人組みが……』


 あの、二人組みが……いる?


『あとな、相川会長には娘がいるらしい。五十を過ぎて生まれた愛娘らしいのだが、君の交通事故が起こった日、謎の失踪をしている』


 失踪……あれ? なんだかピースが一気に填まった気がする。


『詳しいことは、そうだな。今後の行動など打ち合わせを兼ねて話をしよう。今から会えるかい?』


 やたッ! わたしはその場でガッツポーズ。葵をちらりと見て、


「いいですけど、今どこにいるんですか?」


『暗灯峠だ。君が事故を起こした場所から一つ下の直角だよ』


 そこまで言った頃のこと、電話越しに近づいてくる何かの音。

 耳の中で響く、反響する、木霊する。


『な、なぜ……』


 それは、何を思っていった言葉か?

 一度聞いたはずの音。

 わたしが体験した死へと誘う衝撃音がわたしの内から鳴り響く。


「新見……さん?」


 ……何も……返ってこない?

 ツー、ツー、という無機質な音が返答の替わりとでもいうように鳴り続ける。

 何よ? 何の……冗談なわけ?


「こ、こら、笑えないわよ新見さん? ちょっと……返事してよ?」


 わたしは意識を集中させる。


【TEL対象:新見高志 #7 発信】


 出ない……続けてかける。

 十回以上続けて、わたしは諦めた。

 顔を上げると、葵が青ざめた顔でわたしを見ていた。

 そうか、聞いてたんだっけ……


「あ、あの、さっきのって……」


「……わたしさ用事思いだしたんだ。……行くね」


 葵はこくりと頷いた。


「私のことは……気にしないでください。看護婦さんを呼んで貰えれば」


「そういうわけにもいかないでしょ。キキに連絡するからちょっと待ってて」


 もしここで彼女を放って行って、何かあったらわたしの責任だ。

 結果的にわたしが連れだした以上放りだすわけにはいかない。

 キキに先に峠に行くように頼んだわたしは、葵を病室に送ってから峠へと急いだ。

 だけど……


 ―――君が事故を起こした場所から一つ下の直角だ―――


 その言葉を頼りに峠に着いた時、そこには何もなかった。

 わたしもキキも周辺を探し回った。でも、新見さんはおろか、血痕さえも見当たらなかった。

 葵にわたしのことを聞いた真一が駆けつけてくるまで、わたしは新見さんを……何時間も探し続けた。


 4月16日土曜日 午後11:10


「なんでなのよッ!」


 オペレートルームとかしたメンテナンスルームに、わたしの怒声が響き渡った。

 結局、何も見つからなかった。

 真一がきてからも一時間は粘ったはずだ。

 それなのに証拠もなにも見つからない。せめて血痕だけでも見つかってくれれば……


「どういうことよッ!」


 怒りは収まらないままに、わたしは目の前でいつものように涼しげな顔で立つ真一を睨みつけた。


「まだ、何も言っていませんが?」


 とぼけているのか、素の反応か、どちらにしろわたしの怒りを猛らせるだけだった。


「新見さんはどこに行ったのよッ! ありえないでしょッ! わたしは機械なのよ? なんで何の証拠も見つからないわけッ!」


「仕方ないでしょう、機械とて万能ではないのです。それに扱うのは人間。見落としがあるのはどうしようもないことです」


「なによ、それはわたしが機械を扱うのが下手ってこと!?」


「そうは言っていません。ただの一般論です」


「ふざけるなッ! どうせわたしはバカ女よッ! 自分の身体すら満足に扱えないんだからっ」


 真一に言っても仕方のないことは分かってる。でも、叫ばずにいられなかった。

 叫び終えると、奇妙な沈黙が下りる。

 荒くなった息遣いだけが聞こえる。

 この息遣いも、本来必要のない行為だ。だってわたし、すでに呼吸すらしてないんだから。


 どうなってるのよ、ほんとに、どこに、行ったのよ新見さん。

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