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MEMORY・3 日常の終わり

 バイクはちょうど直角峠に差しかかった。

 学校からわたしの家に行ったり商店街やらゲーセンやらに行くには、この峠を越えるのが一番早い。危ない峠ではあるものの、わたしたちはよくこの道を使っていた。

 降りはものすごく危険だけど、昇りの場合はバイクでもそれなりにスピードさえ押さえれば事故を起こすなんてことにはならないからだ。


 ちなみに、正式名称は暗灯峠というらしい。

 あの……なんていったっけ曲がり角に良くある鏡。カーブミラーだっけ?

 あれが三箇所ある曲がり角付近に一つづつ付いてはいるものの、なぜか出鱈目な方向を向いていて、さらに街灯が全くないせいで暗すぎて夜は全く周りが見えない。

 だから暗灯峠というそうだ。


 街灯ないんだよここ。

 町中の人が危ない危ないって言ってんのに財政難とか言って街灯の一本すら立てようとしない市長が毎年選ばれるもんだから、全く改善の兆しがない。

 んで、この峠が直角峠とも呼ばれているわけが、三箇所ある曲がり角が全て直角に折れ曲がっているから。暴走族の人たちが最初にそう呼んで、周りに広がっていったというしだい。だから若者はほとんど直角峠と呼んでいる。


「お前さぁ、実際、城内とどういう関係?」


 不意に直人が聞いてきた。


「ただの幼馴染だけど?」


 考えるまもなく即答する。

 実際その通りでそれ以上でもそれ以下でもない。

 幼馴染だから仲良くしている。というかあいつ私以外じゃ殆ど友達居ないから付き纏ってくんのよね。可哀想だから相手してあげてるのよ。


「それがどうしたの?」


「いや、妙によく話してるからな。普通は話しかけられても適当に理由つけて逃げるもんだぜ?」


「そんなもんなの?」


「いや、そうだろ普通?」


「そうかなぁ……」


 不意に会話が途切れる。

 微妙に開いてしまった間。慣れた真一とならいざ知らず、直人とのこの間には手持ちぶたさで戸惑ってしまう。

 仕方なく周りの景色に意識を移すと、流れていく夕日に赤く染まった情景がとても綺麗だった。


 真一を無視するなんて一度も考えたことなかったな。

 でも、そうすればもう付きまとわれる心配はないかもしれない。

 そうなれば……少し、寂しい気もしないでもないけど。


「そういやさ、ここ……また死人がでたらしいぜ。うちの学校からだってよ。二tトラック辺りと正面衝突らしいんだ。ひき逃げだったせいで相手の車種はわからねぇけど、ぐっしゃぐしゃだったんだと。今月入って三人だろ? 呪われてるんじゃねぇかって噂まで飛び交ってるらしい」


「よく知ってるわねぇ、ニュースも新聞も見もしないくせに」


永久とわの奴に聞いたんだよ。あいつこういうことに詳しくてよ」


「へぇ~真田君がねぇ。意外だなぁ」


 確かに彼は話好きだけど……女の子みたいな可愛い顔でにへらと笑いながらいつも明るく振舞う顔が思い浮かぶ。声も結構高いんだよね、あの子。


「んあ?なんだぁ?」


 ちょうど二つ目の直角に差しかかろうという所、直人が変な声を上げた。


「どしたの?」


「いや、子供が山側に入ってった気が……」


「子供?こんなとこに?」


 後ろを振り返ってみるけど、そんな子供なんて影すらない。

 木か何か人影に見えそうなものもない。


「幻覚でも見たとか言う気?」


「んなわけねぇって。ほんとにそんな気が……」


 直人がわたしに振り向いた瞬間、前方の曲がり角から巨大な何かが顔をだす。


「直人っ!?」


 とっさに名前を呼ぶだけで、直人は気づいた。

 二人して驚愕に見開かれた顔のまま、やってきたトラックに突っ込む。

 強烈な衝撃、破壊音。潰れる何か。投げ出される直人。

 それを空中からぼおっと見ているわたし。


 何が?……起こった?

 空が山が反転して流れていく。

 ヘルメット越しに次第に近づいてくる地面。

 アスファルトがゆったりと近づいてきて……


 永遠にも似た長い時間。一粒一粒粗い表面を見せるアスファルトの斜面。

 やがて……


 グキッ


 何かが地面にぶつかって折れ曲がった。

 身体がバウンドし、痛々しい音が体中から響きだす。

 ヘルメットが飛んだ。


 金色に染め上げた自慢の髪が風に流れて飛び散っていく。

 山側のコンクリートの壁にぶつかり、ようやくわたしの身体は止まった。

 目の前には遥かに離されはしたものの、黒塗りのトラック。

 トラックに行く手を阻まれ真横に突っ込まれてへしゃげたバイクと、トラックの前に横たわる直人。


 やがてトラックから現れた黒いスーツの二人の男。

 直人の前に集まって何かを話し合う。

 しばらく話し合うと、わたしの方を見る。

 また幾らか話し、男の一人がトラックに乗り込み、もう一人は山へと入っていった。


 ち、ちょっと待ってよ? わたしたちは? 助けくらい呼んでよ? ねぇ。

 悲痛な叫び、声にすらならず、ただ喉から何かの音が漏れでただけ。

 身体は動かず。意識もしだい薄れ始める。


 黒く。深く……壊れてノイズすら消えるテレビのように。

 ザァァァァァァ……ブツッ……

 そんな音が……聞こえた……気が……

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