MEMORY・38 静かなる女の闘い
二人が帰った後で、わたしは真一と二人、教壇に上がった。
「絶対七瀬さんを助けられると思ったのに……」
「そうですか?」
「なによ、助けられるっての?」
「さて、それは分かりませんが、先程の話から一つ分かったことがあります」
と、真一が黒板に何かを書いていく。
自分の名前? あ、わたしの名前も。
それから知り合いの名前がいくつか書かれていく。
「人物関係図を書いてみましょう。まずは始めに私と絵麗奈さんは幼馴染、緒方君と真田君とは友人です。私達は茜さんや七瀬さんには彼氏を探すように依頼されました」
「で、ナルシー君と岩倉君が知り合い。永久君は行方不明になった二人とお知り合いなわけね」
「ええ、今分かっている限りでは岩倉君とは……まるで彼女のように親しい間柄です」
ちょっと、待って? もしかして真一の奴、緒方の言葉本気にするつもり!?
「あんた、まさか永久君が本当に岩倉君の彼女だったとか言わないでしょうねッ! 男よ、永久君は。もし本当にそれだったとしてもよ、彼氏って言うでしょ」
「それは本当ですか? あなたはその確信があると? 彼氏か彼女かはともかくとして、彼が男であると」
彼が本当に男? そう言われて思いだす。
そうだ。永久の性別は……エラー。
他の人はあの後も普通に性別が見えた。
体格などから機械が自動判別するこの機能。偽りがあるわけはない。でも……
「だってさ、機械が判別したんならエラーは女性だってわけじゃないでしょ? それなら女性のマークがでるはずだし」
「そうです、男性なら♂女性ならば♀。オートマーターである絵麗奈さんとキキは女性と表示されるように設定してあります。なれば性別のエラーは起こりえないはずです。それが……起こった。なぜでしょう?」
だから、それが分からないんだって。
わたしの顔をみて、真一がため息を吐いた。
「非常に稀ですが……男性、女性、両方の属性を持つ人間がいるそうです」
「あ~、確か両性具有だっけ? あれ? 有具? ま、いいやとりあえずそういう奴ね」
「どちらも持っているならどちらの性でも現せない。ですから……」
そこまで言われてようやく理解する。
「機械が性別エラーを起こす! 確かに男性といいながら女性でもあるわけだし、岩倉君と親しいなら彼女であっても不思議じゃないわね」
「しかし、七瀬奈菜という女性が岩倉君に言い寄ってきた」
「岩倉君が普通の女性に乗り換えたから許せなくって殺害。七瀬さんに罪を着せた」
真一の考えていること、それは岩倉武琉の二人目の彼女が真田永久であるということ。
「確かに……そうなればスムーズにことは運ぶけど……」
「あくまで私の仮説です。もしかしたら岩倉君はただの事故で、真田君はブレーキを切っただけかもしれません」
「答えが出てるようで訳わかんないわ。頭がこんがらがりそう」
「そうですか? それでは少し気分転換でもしに行きますか」
と、真一が黒板の文字を消していく。
「気分転換?」
「病院に行きましょう。今日もそろそろ葵さんの検診がありますので。もしよければご一緒にどうでしょう?」
……あの子か。あんまし会いたくないんだけどなぁ。まぁいいか、今はちょっと考え事したくないし、気分転換ね、気分転換。病院で気分転換ってどうなのよ?
4月16日土曜日 午後1:35
病院に付い真一は、白衣に着替え、ロビーで待っていたわたしと共に赤坂葵の病室に向かった。
いつもはキキと一緒なのだそうだけど、今日はわたしが助けた女の子の看病をしているらしい。だから今日はわたしが助手だってさ。
病室に着くと、相変わらず室内は薄暗く、たった一人、白いベットの上に上半身だけを起こした少女が待ち構えているだけ。
「あれ、城内先生、今日はキキちゃんじゃなく絵麗奈さんと一緒ですか」
無邪気な笑みを明後日の方に向けながら葵はベットから這出てくる。
備え付けの椅子に座って自分のパジャマをまくり始める。
真一は真一で葵の隣の椅子に座って聴診器を……
「ち、ちょっと、いきなり何やってんのよッ!」
わたしの慌てた声に二人して顔を見合って意味の分かっていない顔をわたしに向けた。
「何とはなんですか? 聴診器を当てているだけですが?」
「その娘が悪いのは目でしょ! 胸に聴診器当てようとしてんじゃないわよ」
お腹まで捲り上げられていたパジャマを無理矢理戻す。すると……
「絵麗奈さんには言ってなかったですね。私が城内先生に頼んだんです。健康診断もお願いしますって」
「だからってパジャマの上からでいいでしょッ、ほら、真一も! 自分の身分利用して女の子の裸見ようなんて考えてんじゃないわよ! 葵ちゃん、真一はこれでも男なんだか……ら……」
声を荒げていたわたしに自分の耳を塞ぎながら、葵が睨む。ゾッとした。
「絵麗奈さん、五月蠅いです。私の鼓膜潰す気ですか?」
「い、いえ、そんなことは……」
「それにパジャマの上からだと正確に測れないですよ。これも私自身がこうして欲しいと頼んだのです。城内先生は悪くありません」
そうして殺意すら篭った目でわたしを見上げ、
「邪魔するなら外にいてください」
一言一言に敵意を込めてわたしに叩きつける。
真一は困った顔でわたしたちを交互に見る。なんとなく会わしてはいけなかったかもしれないと後悔しているような目をしていた。
これ以上ここにいるのは耐えられない。わたしは気圧されるように部屋から退出した。




