MEMORY・33 少女拉致、ダメ、ゼッタイ!
葵に別れを告げてロビーに戻ったわたしたちは、待ちくたびれたような顔の真一を見つけた。
「どこに行っていたのですか。探しましたよ二人とも」
「探してた、ってアンタそこにいるのにどうやって?」
「三石さんを始め、ナースの方々がお探し中です」
人任せかい!?
「真一、家に帰る?」
「ええ。あの少女もただの風邪のようですし、連れて帰りましょう。絵麗奈さんの見立てでは例の二人組みに追われているらしいですから、病院に置いとくのもあまり良い状況にはならないでしょう」
「真一、あの子に変なことしたら殴り潰すわよ」
「しませんって。世話はキキに一任しますので」
「私ばっかり雑用」
「いいじゃない。あんたのマスターが未成年の陵辱罪で警察に捕まってもいいの?」
「良くない。でも、家につれて帰る時点で拉致監禁だと思う」
「看病するんだからいいじゃない」
「良くない。彼女の了解を得てもいないから。未成年だから了解得ても意味ないだろうけど」
元猫の癖に変な知識だけは人よりあるんだから。
でも、確かに保護とはいえ、見知らぬ男が女の子保護したら未成年略取で犯罪だね。ダメじゃん真一、既に犯罪者確定だよ? あ、でももぐりの医者やってるから既に犯罪者だったコイツ。
「と、とにかくです、キキの言うとおりですので。そこだけは了承してください絵麗奈さん」
「う、うんまぁ。ばれたら皆捕まるってことでしょ」
「簡単に言えばそういうことです。では家に向かいま……」
「城内せんせぇ~い」
病院前に待たせてあるらしい救急車に向かおうとしたわたしたちに、間延びした声が呼び止めた。
「三石さん? どうかされましたか?」
「お電話でぇ~す。可愛らしい女の子の声でした~ラブラブですか~。ラブラブなんですね~。や~ん」
一人で勝手に盛り上がってるんですけど、この看護士、患者さんに注目されてるのに気にならないのかな?
にしても真一に女性から電話?
ありえなくない? なんでアレがモテるわけ?
なんだろ……一瞬イラッときた?
わたし最近なんか変だ。
真一がわたしより葵を選んだときからだ。
あれから何かおかしい気がする。
あんな女のどこが……いや、そういうことじゃなくて。
「キキ、先に絵麗奈さんとお帰りください。わたしは電話にでてから歩いて帰ります」
「了解。先に家に帰ります」
「はいはい。誰からだったか後で教えてね真一」
「わかりました。では……」
真一はわたしたちに別れを告げて、受付の方に消えていく。
わたしはそれを見届けて、キキと一緒に少女の乗っている救急車へと向かった。
4月15日金曜日 午後10:10
少女をブリーフィングルームに寝かせ、わたしたちはメンテナンスルームに来ていた。
キキに体の変形具合を見てもらい、異常無しと診断されていると、ようやく真一が病院から戻ってきた。
「お帰り、真一」
「結構早かったじゃん」
「ええ。電話だけですし、救急車をもう一台無駄に使わせていただきました。医院長の息子の特権です」
あの病院こんな奴抱え込んでてほんとに大丈夫なんだろうか? 医院長がこいつの父親だからすでにダメかもしんない。
「さて、電話に付いてお話しする前に、二つ。見せておかなければならないことがあります」
「見せておかなければならないこと?」
真一はメインモニターの前に立ち、なにやら手前の機械を弄繰り回す。キキは何をするのか分かったようで、自分は頭上に怪しげなコードつきヘルメットのある椅子に座る。
異様なヘルメットを自分の頭に装着して身体を楽に、目を閉じる。
とたん、メインモニターに映る映像。
「これは……」
「キキの得た情報……記憶を再生しています。絵麗奈さんのメモリ再生を公衆化したものと思ってください」
つまりこれはキキが体験した記憶をわたしたちが見ることのできる装置。
わたしの頭の中も見られるってこと? なんだかそれは嫌なんだけど?
でも出来ちゃうんだろうなぁ。
「では、再生します」
わたしはゴクリと喉を鳴らし、画面に見入る。
画面はいつもの真一の家の前の通り。
キキの視覚だからいつもわたしが見ているより地面が近い。
しばらく歩いているとどこかで見たような男が二人。
『おやおやぁ、これはマダァム真一の妹さんではないかい』
うっわぁ緒方清彦だ。
もう一人は……!? これ、岩倉武琉?
『なんだよ緒方、知り合いか?』
『イェィス。オールバイオレットの美しき少女さ。君の彼女の犬にゾッコン、ルァヴのところに出くわしてね。仲良くなったのさぁ』
ぞ、ゾッコン、ルァヴ?
『彼女って? ああ、なるほど……って、マジかよ』
『なかなか愉快です。真一の知り合いにしてはノリがいい』
キキの声が聞こえた、と思ったら画面がブツリと暗くなる。
わたしは画面から真一に視線を移した。
「キキが岩倉武琉を見たとき人物照合がすぐにできてしまったそうなので不思議に思って脳内検索をかけてもらいました。この後互いに自己紹介したようです」
「それででてきた記憶がさっきの?」
「そうです。彼女の犬という言葉がキーだと思いさらに検索をかけてもらおうと思ったのですが……キキ自身が記憶にロックをかけていまして、読み取ることは不可能でした」
ロックって、なにがあった?
「ゴメン真一。あの忌まわしい出来事たちは思い出したくないの」
目を閉じたままのキキが答える。
真一は頷いて、
「さて絵麗奈さん。もう一つ、これは先程の病院で私が疑問に思ったことをある人物に聞いたものです」
モニターにまた映像が映る。




