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MEMORY・32 出会いが違えば仲良くなれた、かも?

4月15日金曜日 午後9:32


 病院に着くと、受付に真一を呼びだすように伝えて、薬を待つ人のための長椅子に腰掛け少女に膝枕して待つ。

 すでに診察は終わっているのでロビーにいる人はナースや医者、患者が少々っといったところ。夜間診療もないので受付の人も長い雑談を終えて更衣室に戻ろうとしていたところだった。


「お待たせしました。おや、誰かと思えば絵麗奈さんでしたか」


「遅いわよ。ほら、さっさとこの子見てあげて。大切な目撃者かもしれないんだから!」


 真一は言われるままに少女を見て、額に手を当てる。


「少し熱がありますね。分かりました。この少女はお任せください。しばらく検査に時間がかかりますのでキキとお待ちください」


 真一が近くを歩いていたナースを捕まえて、話し合う。

 しばらくするとそのナースが少女を抱えて真一と去っていった。

 後に残った無言のキキが、わたしをずっと見つめている。


「何よ?」


「別に……嫌な奴を敵に回したと憐れんでいるだけ」


「はぁ?」


「葵という女が姉さんに会いたがってる。この病院の患者。お大事に」


 何のことか全く分からない。


「502号室。暇なら行ってみる?」


「そうねぇ、会いたいってなら行ってみようか。時間余ってるし」


 そう言って立ち上がるわたしに哀れみを向けるキキ。なんなのよその目は?

 五階までエレベーターで上がり、キキの後ろを付いて五階の廊下を歩く。

 どうやらこの西棟全体が個人病棟らしい。


 一般用の四人ベットは北と東にあるそうだ。

 直人もそっちにいるんだろう。南棟は隔離病棟と真一が言っていた。

 隔離病棟の一、二階は精神病患者用らしい。


 この前興味本位で見学しに行った時は鶏の真似してる患者さんがナースに追われて廊下を走り回っていた。

 大いに吹きだしたわね。真一に後で散々怒られたけど。

 西棟は隔離するほどではないけれど、他人と混じ会わせられる域に達しない患者用らしい。


 良くわかんないけど、今から会う子は目が生まれつき悪くて見えないそうだ。

 でもその代わりに耳が良く聞こえるそうで、周りの雑音で精神に負担がかかるから個人病棟に移されているらしい。

 キキ曰く、くれぐれも大きな声をだすなということらしい。

 502号室に付いて、キキがスライド式のドアを開く。


「……誰?」


 暗い部屋の奥から消え入りそうな声。


「私。さっき言ってた噂の姉さんに会ったから案内してきた」


「ああ、キキちゃん。じゃあ絵麗奈さん……そこにいるんだ」


 名前を呼ばれた一瞬、ゾクリと嫌な気分を味わった。


「初めまして、赤坂葵です」


「あ、ああ、うん。朧月絵麗奈です。よろしく?」


 なんだろう? 姿が見えないせいか物凄くこの子は嫌だ。

 第一印象は好きになれそうにない危険人物。


「そんなところに立ってないで部屋の中へどうぞ。椅子もありますから」


 促されるままにわたしはキキを連れ立って部屋に入る。


「リンゴいります?」


 と、ようやく見えた相手の顔。かなり可愛らしい。

 寝癖なのかワザとなのか、頭上でピコピコ動くアンテナみたいな髪の毛が目立つ少女。

 それ以外はそれほど際立った特徴はなかった。

 笑顔でわたしを出迎えて、葵はお見舞い品のリンゴとナイフを手に取った。


「い、いえ。悪いけどわたしはいいわ」


 わたしの声に葵は剥こうとしたリンゴとサクリとリンゴに触れたナイフを止める。


「そうですか? 遠慮しなくてもいいですよ」


 リンゴをお見舞い用らしいバスケットにナイフを刺したままどうでもいいとでも言うように無造作に放り込む。


「ところで絵麗奈さんは城内先生と幼馴染とお聞きしましたが?」


「え、ええ。まぁ。そうだけど?」


「羨ましいです。先生の秘密とかいっぱい知ってるんだろうなぁ」


 この娘……もしかして真一に? う、ウソでしょ? 眼鏡よ? キモイよ? 

 動作も言動もかなりおかしいし。


「城内先生、素敵ですよね」


 うあぁ。やっぱりこの子あいつが好きなんだ。か、かなりの偏食家だよ。可愛いのに可哀想。


「そ、そう? 真一はそんな素敵かな?」


「そう……思いません? いろんなこと知ってますよ。外のこととか、沢山のこと教えてもらいました」


 真一が知ってることってかなり偏ってる気が……

 異星人の呼び方とか訳の分からないこと教えてないといいけど。あいつなら普通に教えてそうなのよね。


「でも、顔がわかんないでしょ、もしかしたらブ男かもしんないじゃん」


 まぁ真一は顔だけはいいからそれはないんだけど。


「顔なんて、皆見えないですから。その分その人の本質が分かります。城内先生はとても優しい方です。あなたもその優しさに甘えたことはないですか? あの人の傍はとても居心地がいいのでは?」


 真一の優しさに甘える? 

 あいつに優しさなんてものあったっけ?


「ないわね。全く」


「そう……じゃあ、城内先生をなんとも思ってない。そういうことですか?」


「当たり前でしょ。真一とはただの幼馴染。それ以上でもそれ以下でもないわよ」


 その言葉を聴いて安心したのか、葵は笑みを深くする。


「そうですか。よかった。あなたとはお友達になれそう。またいつでも来てください。外の話いろいろ聞きたいんです。私、友達少ないですし」


 そういって笑う葵からは、すでに敵意というか悪意というか……初めに感じた嫌な気分は全くしなくなっていた。

 確かに、今の彼女となら友達になれそうだ。でも、なぜだろう? それでもわたしはこの娘に敵意にも似た感情が沸き起こるのを感じていた。

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