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MEMORY・30 探偵の仕事

「あの裏商店街は治外法権なんだ。迷って入りさえしなけりゃ実害はないから警察も見て見ぬフリ。凶悪な犯罪者やマフィアなんかもうろついてる。迷い込んだらもう帰っちゃこられねェ。ただ、向こうにいる奴等は闇のルールを守っててな。表で問題おこしゃ上に葬られるのさ。それか表側で警察に捕まるかだな。だから突つきさえしなけりゃめったに表にでてくることはないから目を付けられたりってことはないと思う。アンタがまたあそこに入りさえしなけりゃ身の安全は保障するぜ」


「だから君はもうあそこには……」


 二人して危険だから行くなと嗜める。

 でも、そんなことは百も承知。だって……


「二人とも、答えになってないわ。わたしがあそこに入ったのはオジサンがわたしの言葉を聴いて何かを思いついたからよ。わたしを轢いた犯人に繋がる何かなら、わたしには知る権利があるの! 隠すって言うなら自分で調べるしかないじゃないッ!」


「放っておいても警察が調べてくれるさ。私も調べる。警察だってもう誰がやったかくらい当たりをつけてるよ。そのうち答えにたどり着くさ」


「だから待ってろっての? 冗談じゃない!」


 近くの電柱を殴りつける。バゴッと音がして柱に拳がめり込んだ。

 二人の男はわたしの行動に唖然として驚きの声すら上げられない。


「こんな身体になったのにッ、あいつ等のせいでなったのにッ! これはわたしの問題なのにッ!」


 知らず涙がでた。こんな機能もあるんだと冷静に分析しているわたしがいた。


「なんで……ただ待ってなきゃいけないのよ」


「君は……一体……」


 化け物なのか?

 そうとでも言いたい気分だったのだろう。

 驚愕に見開かれたオジサンの瞳に後悔の念が浮かんだ。


「乙女の秘密よ。オジサンは知らなくていいこと。ただの……探偵にはね。わたしはわたしの手でわたしを殺した犯人を見つける。今のわたしにはそれだけの力があるから」


 ヒビとヘコミを作った電柱から手を引き抜き、わたしは二人に背を向ける。


「ま、待ってくれ、絵麗奈君ッ」


 オジサンの困惑した声に立ち止まる。


「君に何が起こったのか私にはわからないが……やはり裏商店街には行かせられない」


「まだ言うの」


 どうせ、ただの人間にわたしは止められない。機械のわたしを止められるはずもない。


「そうじゃない。私が調べる。だから、結果を報告する……という形ではダメかな」


「報告?」


「気になる情報を掴んではいるが確証がない。そこさえ掴めれば私の持っている情報を全て話そう。それでは……ダメかな?」


「いいの? 探偵が仕事の中身話しちゃって」


「私が追求するのは真実だ。それ以上のことをする気はない。もしその真実を有効に活用できる人がいるのなら、その人に託す。ただ……無茶だけはするな。私の言葉で君を危険な目に合わせたくはない。探偵というのは相手を生かし、自分を生かす者だ。決して誰一人欠けることなく無事に生還できる者。それが私の理想の探偵像だ。それが……ただの探偵の仕事さ」


 探偵の……仕事?

 わたしのためにこの人は危険な場所に行くっていうの?

 わたしを危険な目に合わせないために? 優しい……人なんだろうなきっと。

 わたしはオジサンに向き直る。


「わかった……わ。無茶なことはしないし、裏商店街にも入らない」


 オジサンの顔に幾分笑みが戻る。

 こんな真摯に言われちゃさすがに、無理に突入出来ないじゃない。


「わかった。こちらもできる限り協力しよう。それじゃあ連絡用に携帯電話……はないんだったな」


 と苦笑する。そうだ、わたしの携帯は警察に……待てよ?

 そういえば真一が何か言ってたな。内臓電話がどうとか。一応掛かるのはすでに把握してるし、電話番号さえ分かれば掛けられるか。


「電話はあるわよ」


 内臓電話のヘルプを起動させ、自分の電話番号を読み取る。


「電話番号は……えーっと」


 番号を交換して、一息つく。

 置いてけぼりだった鎖無君がようやく会話に割って入ってきた。


「よくわかんねェけどよ、裏商店街に用があるなら案内しようかオッサン」


「本当かい? それは助かる」


 わたしは二人に頭を下げる。


「わがまま言ってごめんなさいオジサン。でも、よろしくお願いします。わたしは、どうしても自分の手で見つけたいの。警察が捕まえてしまうより早く。わたし自身の手で……だって、轢かれたのはわたし自身だから」


 わたしなりに最善の方法をとろうとしてくれたオジサンに対するお礼だった。


「ああ、任せてくれ。すまんな、私にも娘が一人居てね。君と同じくらいの年代だから、無茶をする姿を見るのは堪えるのさ。ええと鎖無君……だったかね」


「うぃっす、時逆鎖無です」


「トラックに乗る黒いスーツの二人組みについて探している。一緒に探してくれるかい?」


「暇だしいいけどさ、彼女送ってかないのか?」


「わたしはいいわよ。これからもっかい峠の探索する予定だし」


 わたしは二人に別れを告げて、言葉どおりに峠へ向かうことにした。

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