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MEMORY・2 いつもの日常

 4月13日水曜日 午後3:55


 晴れ渡る空。風に乗って煌めく黄金色の髪……なんちって。

 人々が羨む細身の身体を持っていると日頃自負しているわたしは、幼馴染の城内真一と一緒に下足場から校庭へと足を踏みだした。

 いつもの日常、いつもの放課後、ウキウキ気分で下校中。


 朧月絵麗奈。

 これがわたしの名前。

 儚げな月が絵のように綺麗という意味が込められているらしい……とお姉ちゃんに教えられてすっかり天狗になってる自他共に認める美しい少女……自分で言ってて恥ずかしいね、コレ。


 まぁ、自分でもちょっとナルシー入ってるかな? なんて思ったりもするけど……

 好きなことは学校に行くこと。もちろん社交の場として。

 学業? 何ソレ? 今時の学校にそれを求めるのはあんまりってなものよ。

 夢見てんの新人教師だけだし。勉学ってのは今は塾。

 皆、塾に行ってる子からテストの前日にでも教えてもらうわけ。つまり、学校ってのはわたしにとっちゃ友達と話し合える交流の場でしかないわけよ。


 ぶっちゃけ先生が何言ってんのか全然わかんないし、塾通ってる友達から答え教えられてもテスト中に全部忘れちゃってんだけどね。わたし頭悪いんで。

 もう、数式なんて全然よ。小学校高学年の算数にも頭悩ますくらいだし。前年の期末なんて全国一位よ。……下から数えてだけど。名前書き忘れたのは、誰にも言ってないけどね。


 でも、まぁ、かのアインシュタインも数学苦手だったし、豊臣秀吉や野口英世なんて字も書けなかったじゃん。

 そういう点から見たら、将来わたしは偉大なことをやってのけるはず……なんて誇大妄想があったりするわけで……


 春先なのに自然とため息がでた……

 自分で自分を貶してるみたいで気が滅入るわ……

 気分を転換しようとその場で大きく背伸びして春の空気をめいっぱい吸い込む。


 うあ、めっさ気持ちええ。……っと、変な感想してる場合じゃなかった。

 そろそろ待ち合わせ場所行かないと。

 待たせすぎると怒っちゃうしね、あいつ。ちょっと乱暴なのが玉に瑕なんだよね。


 校庭には咲き乱れる桜の木が校門から校舎を囲むように植えられている。

 今は心地よい春風も吹いているので、校庭中花びらでいっぱいだった。

 掃除するのは用務員さん。

 この時期になるとぶつくさ文句を言いながら借りだされてきた新任の先生に当り散らしているのをよく目にする。


 真一とわたしは横に並んで校庭を通り抜ける。

 彼は幼馴染だけど、彼氏って訳では決してない。ありえない。

 むしろ他人といる時はあまりお付き合いしたくない部類の相手だったりする。


 彼はわたしと同じくらいの背丈で、眼鏡をかけてても顔は割かし良く見える。

 窓辺にもたれかかっていれば知的な雰囲気のいい男である。

 でもね、その……立ち振る舞いといっちゃいますか、いかにも怪しい系オーラを醸しだしちゃってるんですよ。


 行動だけでもかなりやばいのに、言動まで非常に怪しいものだから、顔見知りにはほとんど敬遠されてるんだよね。わたしを含めて……

 そのことに気づいているのかいないのか。やたらわたしと一緒に居たがる。

 おかげでクラスからは漫才夫婦とか呼ばれてしまってる。


 まぁ、わたしとしても幼い頃から真一の言動とか行動にツッコミいれたりしていたせいで、こいつが居ないと妙に落ち着かなくはなる。

 わたしの内に内在するツッコミ師としての使命感が満たされなくなるからだろう。


「……というわけで、音声の録音をお願いできないでしょうか?」


 校庭の真ん中辺りで真一の話が終わる。

 えーっとなに話してたんだっけ?

 わたしは少し考えるような仕草をして、


「ん~、残念。悪いけど今日は先約があるんでまた今度」


 昔から、真一は機械をいじることや病気などの治療をするのが好きだった。

 小学生の頃だった。わたしの飼っていた子猫のキキが足を折ってしまい、散々泣き喚いていたわたしに同情したのか、自分が治すと言い切って、本当に治したり。

 そのせいで破傷風だかなんだったかにかかって死んじゃったけど。


 同じく小学生の時、登った木の枝が折れて、落ちた私の背中に枝が刺さった時に介抱してくれたり……その雑な介抱のせいで治るのに倍の時間がかかったけど。

 妹が欲しいなと呟いてみれば、どこから連れてきたのか、女の子を連れてきて、絵麗奈の妹です。とか言ってきたり。仕方ないので子猫の名前を付けてあげたよ。で、未だに謎なんだけど、この子、どこから拉致って来たの?


 子猫の件で打ちのめされた真一は子猫が死んでから二週間姿を消した。

 帰ってきたときには獣医免許を取っていた。

 わたしの怪我が治ってからも三ヶ月ほど姿を消した。

 帰ってきたときには医者の免許を取っていた。


 妹が欲しいと呟いた後もだ。

 また半年ほど姿を消して、帰ってきたときには、家の中に怪しげな機械が立ち並ぶ部屋が出来ていた。

 姿を消していた間、どこでなにをしていたのか……本人に聞いても外国で父のコネでどうたらとしか言ってくれないので真相は不明だ。


 今の会話も、わたしは殆ど右から左へ素通りしてたけど、多分そっち系だろう。

 音声の録音って……何する気なんだか。


「それよりさ、アンタ顔はいいんだからコンタクトしないの? 眼鏡よりいいと思うけど」


 風に流れて顔にかかる髪を掻き揚げながらわたしは適当に浮かんだことを言ってみた。

 こいつと話すときは気兼ねする必要もないので、適当に話をしておけば相手からも話が返ってくる。

 こっちが黙ってると真一もほぼ黙ったままで間が持たないんだよね……


「コンタクトは何かと不便でして。手術中に患者の中に入りでもしたら大騒ぎですから。まぁ、絵麗奈さんがそちらが良いというのでしたら替えますが?」


 真一が眼鏡の位置を直す。太陽光を浴びてきらりと光った。

 ここで、そうしたら? とかいったら本当にこいつはコンタクトに替えてくるだろう。

 わたしが何気なく言ったことで、こいつはなんでも行動に移そうとする。

 さすがに死んで? とか言ったら無理ですって返ってきたけど。


 「UFО呼んでみたいな」と言った時はさすがに後悔した。

 あの辺りからこの不気味なオーラを纏い始めた気がする。

 真一は医師免許を取った辺りから、父親の経営する病院で臨時アルバイトをするようになった。

 とはいえ、一介の高校生に命預ける患者なんていくらいるだろうか? だから麻酔かけて眠った患者の手術に無許可で進入して仕事していく。どこぞの漫画の闇医者より危険な医者になってしまった。


 最近じゃ実力の方が闇ルートで有名になって結構出来る医者って噂が患者の方に浸透してきたみたいだけど……

 警察が調べにきたりしないのが不思議だ。

 やっぱ外国で取ったという免許のおかげなんだろうか? いや、たぶん真一の父さんと母さんのせいだ。父は政治家絶賛の名医だし、母親にいたってはバイオなんたらの先駆者らしい。

 生物と機械の共存についてとかいう議題で、この前家に帰ってきた時、わたしとお姉ちゃんの前で演説してくれた。全く理解不能だったけどね。


 そんな二人がどこでどうやって運命的な出会いを果たして真一が生まれたのか謎ではあるけれど、そんな一家と隣で、さらに幼馴染だったので、わたしたちは子供の頃からよく二人で遊んだ。

 だから、彼のあの見てるだけで楽しい両親が名医や学者と呼ばれるほど凄いってのが納得できない。


「絵麗奈。録音の件よろしく頼みます」


「いや、だからなんでわたしの声が必要なわけ? 病院には必要ないんでしょ?」


「そ……それは……」


 口ごもる真一を無視してわたしは校門をくぐった。

 学校からでると、すぐ横で一人の男が自慢のバイクを背もたれにして待っていた。


「直人待った?」


「全然」


 爽やかな笑みを浮かべて手に持っていたヘルメットをいきなりわたしに放ってくるマイフレンド。

 彼はわたしの彼氏ってわけじゃない。好意は持ってるみたいだけど、わたしに言わせればていのいいアッシー君だ。

 放物線を描きながら向かってくるヘルメットをしっかりとキャッチして、わたしは直人に向かって歩きだす。


「井筒君ですか……」


「なんだ城内かよ? 何か用かストーカー」


 二人とも互いを見やってしかめっ面になる。

 直人と真一は仲が悪い。どうしてもうちょい仲良く出来ないかな。


「早く行こうぜ絵麗奈」


 自分のヘルメットを被って真一を一瞥すると、バイクにまたがってエンジンを吹かし始める。


「んじゃぁねぇ真一」


「……はい……また明日」


 なんだかブスッとした態度で答えを返してくる真一。まったく、なにいじけてんだか。


「まぁコピーくらいなら明日にでもやってあげるわ」


 こいつの機嫌とっても良い事なんて一つもないけど……まぁいっか。

 可哀想だし一つくらい願いを叶えてあげよう。


「……はぁ」


 気のない返事を真一がしたのを最後に、わたしは真一からものすごい速度で遠のいていった。

 直人のバイクがRX……まぁなんかデザインのいいバイクを改造した奴で、最高時速が……とにかく速いらしい。

 真一があっという間に見えなくなった。 

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