表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/54

MEMORY・28 貞操危機は蹂躙の合図

 わたしは走っていた。

 ただ今、出力50%。

 動きすぎるけど、車のダルマみたいに次第ギアを上げていってスピードにさえ乗ってしまえばかなり使える。ちなみにダルマってのは昔の車に着いてた奴ね。今は殆どオートマっていうのが主流らしい。


 わたしは眼下の道を走る一台の車と並行に走る。

 わたしの追っている車はオジサンの車。

 オジサン、わたしの言葉に何か引っかかるものがあったみたいなんだよね。


 しばらく追走していると、商店街前のパーキングでようやく止まった。

 出力を戻してオジサンの後をつける。

 オジサンは商店街をぶらぶらとしながら人込みに紛れて行く。


 人通りが多くなった辺りで右の路地へ消えていった。

 わたしは路地前のブティックから路地裏をそっと覗き込む。

 人一人が横になってようやく通れるような細い道を、オジサンが手馴れたように歩いていくのが見えた。


 ここ……行くの?

 ええい、小穴に入らずんば孤児追えず! あれ? こんな故事成語あったけ? まぁ、いいや追うわよ、絵麗奈。

 狭い通路に自らの身体を押し入れて、わたしは狭い通路を沿っていく。

 ああ、もう、真一がいればあいつだけ行かせられるのにッ!

 しばらく動きにくい通路を通り、ようやく開けた場所にでる。


「ふぅ、ようやく外に……どこ? ここ?」


 そこはまるで闇の世界だった。

 光が差し込んでいないうえ、電気もないようなので薄暗い商店街。

 換気も悪いのか空気も澱んでいた。

 暗いけどナイトスコープ機能が自動で立ちあがったので良く見える。


 道を歩く人々も、厳つい顔ばっかり。

 黒い紳士服にサングラス。頬に傷のある人なんかざらにいる。

 目のおぼつかない涎たらしたパンク頭。歯の溶けまくった口内を開き見せながらヘビメタ系の歌を歌ってるブツブツ顔。


 民間人なんて一人もいない。皆なんだか曰く付きで訳ありな人しか歩いてなかった。

 あのオジサンは? うあ、見失った……

 わたしは震える体を奮い立たせ、彼等に混じって商店街を歩く。


 これが……オジサンの言ってた裏商店街?

 周りにある店も一癖も二癖もある。

 服屋はあるが、売っているのはヤバそうな服。防塵服なんて誰が買うのよ? うっわ、なんだあのビキニアーマーって?

 

 銃砲店。黒魔術本屋。何でも屋。暗殺屋……暗殺屋!?

 暗殺承りますとか普通に書かれてるし!? え、これ本当に日本の商店街!?

 こんなとこが身近にあるなんて……現実味がなさすぎる。


「んじゃコラッ!?」


「文句あるんか? ああッ?」


 なにやらそこかしこで睨み合ってる方々もいらっしゃる。

 時々パンパンと乾いた音が響いてくるのは気のせいだと思いたい。

 真一への訳の分からない怒りなんて一瞬で萎えた。

 ここは一般人の来るべきとこじゃない。

 か、帰ろう、あのオジサンについてはまた今度で。


「おう、嬢ちゃん、こんなとこにどうしたよ?」


 帰ろうとしたわたしに後ろから声がかかる。

 う、うわ……懐かしのチンピラ、リーゼントなんて初めてみたよ。あれ? リーゼントじゃなくてポンパドール? いや、そんな正式名称知らされても分かんないわよ検索さん。

 そこにいた人数は約十人。逆らわない方が良さそうな気がする。

 でも……無事に帰ることができるだろうか? 女の子一人にこの人数とか、絶対普通に帰す気ないわよね?


「道に迷ったんだろ? 送ってやるよ。こっちだ、付いてきな」


 と、背を向けて歩きだす。もしかしていい人?


「あ、ありがとう?」


 とりあえずお礼だけは返しておく。

 しばらく付いていくと、リーゼントが路地裏を指差した。


「一般人のお帰りはここからだぜ」


 わたしは促されるままに路地裏に入り……え? 行き止まり?


「ち、ちょっと、行き止まりじゃない?」


 男たちに尋ねた瞬間、わたしの両手を二人の男が拘束する。


「え? え?」


 ち、ちょっと、これってまさか……お決まりの状態?


「久しぶりのカモだぜ、激マブじゃん」


 気味の悪い顔を浮かべながらリーゼントがベルトを緩める。って、早くない!? なんか頭悪そうだぞこいつ等!?

 う、嘘? ま……マジでこんな展開有りなわけ!? ここって治外法権だっけ!?

 ゲームか何かのイベントでも始まるとか? 白馬の王子様でも来てくれるとか?


「んじゃ俺が一番な」


「俺、次な。次!」


 い、嫌……絶対助けなんて来るわけない。

 こんなの……こんな奴等になんてッ!


【PERIL】


 う、うあ、もしかして、もしかしなくとも……セーフティーモード起動しちゃった?

 わたしの意志を覆う何か。体の指令権を強引に奪われる。


【SAFERY LOCK OPEN】


 リーゼントの手がわたしの胸に近づく。


【危険№0 最重要項目に抵触 マスター以外への操喪失の危機】


 をい、マスターって誰よ?

 あのキモ眼鏡……わたしがこの身体に入ってなかったら何に使う気だったんだこの体!?

 やけにリアルだと思ってたら……あのクソ眼鏡め。問い詰めてやるッ。


【殺意確認 GENOCIDE MODE ON】


 じ、ジェノサイドモード!? え? 今のキモ眼鏡への怒りで!?

 あの眼鏡、なんてものつけてるのよッ!?

 まさか、蹂躙ですか、鏖しですか!? 


【出力100% メインシステムオールグリーン】


「おい、お前ら何やってんだよ!」


 誰かの声、男たちの後ろから、ってまさかホントに誰か助けに来たんだろうか。

 でも……ちょっと遅かったかも?


【PROCESS COMPLETE……ACTION START】


 その誰かが駆けつけるより早く、リーゼントの手がわたしに触れるより早く、わたしの両肩を抑えていた二人が吹き飛んだ。

 はるか後ろの壁に叩きつけられてピクリとも動かなくなる。

 高速稼動による裏拳。生きてるだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ