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MEMORY・27 自称探偵と被害者(仮)

 4月15日金曜日 午後4:20


 内心怒り渦巻くままに、わたしは一人峠へとやってきた。

 今日はやることが沢山ある。少女の探索と岩倉武琉のもう一人の彼女。それから真田永久について。

 でも……何かしようにも考えがまとまらない。どれから手をつけていいか分からない。


 そんなわたしとは裏腹に、峠から見える空は快晴だった。

 早く気を落ち着けよう。順番に一つづつ、まずは少女の探索からだ。

 事故現場へとやってくる。

 今日は昨日と違って、峠に先客がいた。


 わたしが倒れていた場所にはすでに白いロープが形取られている。

 そこをいぶかしげに眺めているオジサンが一人。

 春先だってのに長いトレンチコート着て無意味に顎に手をやってうなっている。

 探偵……?


 い、いやいや、そんな馬鹿な。

 それっぽすぎるっしょいくらなんでも。テレビで見るくらいのもんよあの格好。

 アレよアレ、形ばっか真似してる探偵モドキの推理好きな人。


「あの~何してるんですかこんなとこで」


 どういう人物にしても、何か参考程度の情報を持ってるよね。

 わたしを轢いた相手について聞いてみよう。

 オジサンが顔を上げてわたしを見る。

 一瞬驚いた顔をするが、なぜか頷いて身体をわたしに向けた。


「お嬢ちゃんこそ、一般人は通行禁止だよここ」


「大丈夫です。警察に許可貰ってるんで」


 一応、真一の話じゃそうなってるはずだ。

 オジサンはわたしをまじまじと見つめてくる。


「失礼だが、君は絵麗奈さんのお姉さんかな?」


「はい?」


 本人を前にして何を言って? あ、そっか私交通事故起こしたから死んだ事になってるんだっけ? いや、重症だったっけ?


「被害者には姉が一人。ならばここに来たのも納得できるか。妹の敵討ちとでもいうのか? それにしても似ている。妹と激似じゃないか。愛らしい。お近づきになりたいものだ……」


 何か考えるように一人呟きながら納得するオジサン。

 失礼ですが音量拾いやすくしてるから全部聞こえてるんですけど?

 っていうか、最後願望漏れてますが? バレバレですよロリコンさん。


「澄夏さんであってるね?」


 だから、わたしはお姉ちゃんじゃなくって……って、待て待て、敵討ちって言った? 何? わたし死んだことになってるわけ?


「私は新見高志。探偵をしている。井筒直人君は知っているかね? 君の妹さんの彼氏だそうだが?」


 オジサン、ホントに探偵だったよ。その服は止めた方がいいと思います。身バレしますよ。

 と、そんなことより、オジサンの言葉に納得いかないこと多すぎ。


「オジサン、訂正してよ」


「は? 何をかね」


「わたしは絵麗奈。朧月絵麗奈よ! お姉ちゃんじゃないし、まして直人は彼氏なんかじゃ決してないんだからッ!」


 わたしの言葉にオジサンの目が大きく見開かれた。


「こ、これは驚いた。警察からはほぼ即死だったと聞かされていたんだが!? 全くの無傷じゃないか」


 あ、はは、確かに無傷なんだよね。

 ……精神は。

 でも、警察の見解はほぼ即死、つまり私は本来この世に存在してないことになるのか。


「……本当かね?」


 疑われてるッ!?

 不審者見るような白けた目で見られてるッ!

 オジサンに名前偽って得になることなんかないじゃない。


「当たり前でしょ。オジサンからかったってわたしの得にならないし」


「それはそうなんだが。そうだな、何か身分証明のようなものは持っているかい?」


 証拠ね、証拠かぁ。仕方ない学生証を……学生証、わたしはいつものように学生証の入った内ポケットに手を突っ込み、そして気づいた。

 ない?

 そうだ。警察が遺留品として持ってっちゃったとかキキが言っていた気がする。

 なんてこった、学生証すら持って無いじゃん。これじゃ学校に通ってることすら証明できない。早めに返して貰ないとっ。

 ほ、ほかに証明できるものは……


「もしかして……ない?」


 携帯電話も保険証も入ってない。

 やっべ、証明できるモノがない。

 本人だけど本人証明が出来ません。おい眼鏡、どうしてくれるっ!?


「全部……警察だよね、あはは……」


 苦笑いするとオジサンも苦笑いで返してきた。


「誰か証明してくれる人でも……いや、こんなオジサンを騙して君に得になることは確かにないな。それでは君を朧月絵麗奈さんと仮定して話をしようか」


 か、仮定にされた!?


「私は直人君の家族に依頼を受けてね。この事件を独自に調べることにしたんだよ」


「なるほど、直人の……でも、探偵なんてばらしちゃっていいんですか?」


「なに、自己主張をしてはならないという決まりはないのだよ。仕事を得るためにも多くの人に私が探偵だと知っておいてもらいたくてね」


 有名になったらやりにくくはないんだろうか探偵って?

 まぁ本人がいいならいいけどさ。

 まぁ迷子の猫探しとかなら普通に引き受けそうだし、問題は無いか。


「あ、そうそう、なんでわたしは直人の彼女にされちゃったわけ?」


 これだけは聞いとかないと……犯人見つけだして絞めとかなきゃ。


「気が付いた本人に聞いたのだが?」


 直人自身かい!? 盗撮するわ彼氏面するわ、ストーカーかよっ!? 覚えてろよ。


「で、君はなぜここに?」


 今度は自分の質問とでもいうようにオジサンが聞いてくる。


「もちろんわたしの敵討ちよッ! って、なんだか言葉が変な気がしないでもないけど。紳士服の二人組みの痕跡を調べにね」


 わたしの言葉に重大な何かを発見したのか、オジサンが険しい顔つきになる。

 あれ、ちょっと格好良い顔付きになったぞ? 渋いオジサンが好きな子にはたまんないんだろうなぁ、わたしは違うけど。

 十年くらい若返って精悍な顔してるよ。

 真一が眼鏡取った時のあのギャップ感を思わせるね。


「スーツの二人組み……か。他には、何かなかったかな?」


「そうねぇ、他には……」


 そうだあの女の子、この人に調べてもらおうかな?

 わたしが気づいたことを話してみると、オジサンはその場で唸りながら考えだした。


「スーツに、消えた少女。この下で見つかったバイクと死体……かどれも繋がりはなさそうに思うが……」


 オジサンは一人首を捻りながら小さく呟く。

 わたしは聞き逃さなかった。

 オジサンが、「裏商店街を調べるか」と呟いたのを。


「絵麗奈君(仮)だったね、私はこれから少し用事ができてね。失礼するよ」


 今、仮って言った? 言ったよねオジサン!? ほんとに(仮)にされたよね今!?

 わたしが何か言うより先に、オジサンはさっさと登り坂の先に停めてあった車に乗って去っていった。

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