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MEMORY・25 想定外の犯罪者

 4月15日金曜日 午前8:30


「ハロ~ゥア~、マイスウィ~トエンゼェィルミスタァ絵麗ェェェィ奈ァァァ」


 教室に入ったとたんにタカッてきたコバエを片手でシッシッと追い払い、わたしは自分の机にカバンを……って、おいッ!

 机の上には昨日と同じく彼岸花入りの花瓶と遺影が置かれていた。

 昨日より酷くなってるし。ぶっ殺すわよ?


 なんで線香まで立ってるかな。ちょっと煙くすぶってるんだけど。

 いくらなんでも線香の臭いが充満するからクラス中に迷惑でしょ。

 何考えてんのこれやった馬鹿は。


「真田ぁぁぁぁぁッ!」


 わたしは叫びながら永久の机を睨みつけた。しかしそこに永久はいない。


「ムッシュ永久は休みさぁ。今日僕のテレフォンにテルがあったのさ」


「あんたねぇ……わたしがミスタァで永久がムッシュって呼び方まちまちじゃん」


「当たり前じゃないか~、僕は僕だけが分かればそれでいいのさ。他の下等なものたちなど適当に呼んで何が悪いんだい? 僕の信条はガーバメントオブザマイセルフ、フォーザマイセルフ、バイザマイセルフさぁ、はっはっは」


 これだから自己中ってやつは。

 もう、これは相手にしてらんないね。

 とりあえず遺影と花瓶をかたずけて……

 うあ、この遺影どっから手に入れた盗撮写真なの!? 女子更衣室じゃん。

 ……指紋検索して犯人ボコッとこう。

 こういう奴は徹底的にやらないと調子乗らしたらさらに酷いことしかねないからね。


「その遺影は直人君にもらった写真を入れたのさ。僕には必要無い物だからね」


 アンタが犯人かい!? 検索する前に特定されちまったよ!?

 っていうか、直人何してんの!?

 え? あいつ女子更衣室盗撮してんの!?

 何ソレ、恐っ。え? マジで?


 ちょっと、友人としての付き合い考えさせて貰おうかな。

 これ、ほぼ確実にわたしと付き合いたいとかじゃなくて体目当てとか顔の良い女と付き合えばステータスになる、とかの自分本位な考え方でわたしと付き合おうとしてるよね。

 絶対に距離置こう。


「額縁を探すのに苦労したよ。せっかく買ったのに昨日ミスタァ絵麗奈は登校してきてしまったのでね。お金の無駄だし、せっかくだから使わせてもらったよ。イジメる気や悪気はないので怒らないでくれないかい?」


 いや、悪気有るだろ。なかったらこんな事しない……え? ほんとにもったいないから使っただけ? 馬鹿かこいつ?


「まぁ、あんた殴っても気が滅入る一方だろうし、いいけどさぁ……永久君が休みってどういうこと? 昨日元気だったじゃん」


「さぁねぇ。下は元気で立派だけど精神は気弱だからねぇ彼は」


「下は立派……ってなんでんなこと知ってるかな」


「体育の時にふざけて触ってしまったよ。いや僕に負けず劣らず……」


「ええぃ、シモネタ禁止ッ! 信じらんないわよ、この変態ッ!」


「何を言うんだい。この僕が他人の身体に触れてやったんだ、羨ましがることこそあれ、そのような侮蔑は受けたくないねぇ」


 こいつの思考はわたしの理解の範疇を超えてるらしい。

 けど、永久がいないんなら話ができないし、後回しにしよう。

 まずは岩倉武琉について七瀬さんに報告しなきゃ。気が重いなぁ……

 そういえば、七瀬さんのクラスってどこよ?


 4月15日金曜日 午後0:20


昼休憩、茜ちゃんに会って七瀬さんのクラスを聞いたわたしは、七瀬さんを尋ねてAクラスに赴いた。


「七瀬さんっている? 七瀬奈菜」


 教室前で会話してた女子を捕まえて聞いてみると、屋上に行ったんじゃない? ということだった。また屋上か。

 もしかして屋上好きなのかあの娘。

 わたしはそのままの足で屋上への階段を登る。


 この階段を上る時ってついつい段数数えちゃうんだよね。九、十、十一……あれ? 十二段のはずなのに一段足りない? いや、普通こういうのって一段多いんじゃないの? ほら、魔の十三階段って奴で……

 き、気のせいよね? も、もう一回。

 十一、十二……十さ……も、もう一度よ、もう一度。

 九、十、十い……


「アンタ、さっきから何やってんの?」


 いつの間にか屋上から帰ってきた七瀬さんが哀れみを浮かべた目でわたしを見下ろしていた。


「ち、ちょっと数えてみたい年頃なのよ」


「そう……で、屋上に用?」


「違う違う、わたしが用があるのは七瀬さんよ」


「私に? なに?」


「岩倉君について……」


 その言葉に、一瞬喜びの表情を浮かべる七瀬さん、でも、わたしの顔を見て何かを察したのだろう、表情が曇った。


「屋上……行こうか」


 わたしは頷いて十一段目の階段を踏みしめて屋上に上がった。

 普段十二段のはずの階段、ときどき一段多かったり少なかったりするのは多分数え間違いだろう。そう思いたい。

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