MEMORY・23 食事で手綱を握る
4月14日木曜日 午後8:30
家に帰ったわたしは、ふとお姉ちゃんのことを思いだした。
そういえば、今日は捻挫で苦労してたんだっけ? 食事くらい作ってやるか。
と、玄関に入った瞬間だった。
「エッちゃぁぁぁん! お帰りぃぃぃ~ゃッ!」
【危険物接近 対象 松葉杖×2 破損確率72% 最適回避 左に避ける】
機械の指示に即座に左に避ける。
わたしの数センチ横を喉元とお腹に向けられた松葉杖が通り過ぎていった。
少し遅れて向かいの壁に何かが突き刺さる音がする。
「な、なにするのよお姉ちゃんッ!」
「ほら見て絵麗奈! 私歩けるの。もう歩けるのよッ! ほら見てハイジ~♪」
踊るように廊下でステップを踏むわたしのお姉ちゃん。
あんた……ホントに人間か?
「あっそ、久々に作ってあげようかと思ったけど、それなら大丈夫そうだね」
「えうッ!? ま、待って、今、なんて?」
踊りを止めて、白鳥の湖のポーズでわたしに尋ねてくる。
我が姉ながら恥ずかしい。
「食事は自分で作ってね。わたしはいらないから」
「ま、待って、私、エッちゃんの手料理食べたいな~」
「病人じゃないじゃん。面倒だからやだ」
「や~ん、そんなこと言わずに~。愛してるわよエッちゃ~ん」
両手を合わせてお願いポ~ズ。お姉ちゃんがやるとなんか嫌だな。
あざと過ぎるからだろうなぁ。
「その愛しの妹を松葉杖で亡き者にしようとしてたのはどこの誰なんだか……」
「お願い~」
……待てよ。これで断わった場合お姉ちゃんの機嫌が悪くなる。
そして怒りのボディブロー、わたし大破、真一回収部隊出現、真一宅で裸メンテナンス確定。
よ、よし、作るか……
お姉ちゃんの見えない圧力に屈してしまったわたしは仕方なく肩を落とす。
「分かったわよ、なにかリクエストある?」
「店長のお勧め料理で!」
どこの? ま、いいや、適当に作ろう。
幸い、レシピは世界中から取り寄せられる。味見はできないけど、今まで作ったことある奴なら大丈夫だと思う。
とりあえず簡単にできる料理の検索を……何これッ!? 炊飯器でできる料理!? こ、これはイイッ! お姉ちゃんでもできそうだ。
いや、無理か。お姉ちゃんそういう料理すら出来ない気がする。
多分炊飯器が焦げて爆発するか、弾け飛ぶことだろう。
お姉ちゃんに電子機器なんて扱わせるもんじゃない。覚えるだけでどれだけの犠牲がでることか。
とりあえず今日はシチューでも作ってみるか。
家のは旧式だけど頑張れるでしょ。しっかり、炊飯器!
機械音痴なせいかダウンロードに手間取って、できた頃には一時間以上時間が経っていて、空腹のお姉ちゃんはダイニングで死んだように突っ伏していた。
「ご飯まだ~」
「できたよ。炊飯器に入ってるから好きなだけ食べてよ」
「おっけ~……って炊飯器? ご飯だけ?」
「開けてからのお楽しみ。わたしは部屋にいるからね」
飢えた獣のように炊飯器に走り寄るお姉ちゃんに一言断わって、わたしは自分の部屋に戻る。
さて……どうしようかな。食事の時間とお風呂の時間分の暇ができてしまった。
エヴァープロフィトを飲みながら、わたしはすでに物置と化してしまった机を前に簡素な椅子に座った。
真一の家に行った際、また十六本の予備をもらった。
別にわざわざ瓶にする必要はないそうなんだけど、学校に持っていく時に先生に見つかっても風邪薬って言い通せるかららしい。
あの瓶どうやって作ってるんだ?
どうみてもあの瓶で無駄にお金かけてるよね。
ま、わたしには関係ないか。
さて、折角出来た暇だし、考察してみますかね。
あの黒服の二人。わたしを轢いてどこに消えたんだろ?
時間もあるし、あの映像再生ってやつでいろいろ調べてみるか。
まずは……あいつらは確かこう言ってたんだよね。
お嬢は……山でも登ったかって。
そして直人が呟いた言葉。
(いや、子供が山側に入ってった気が……)
つまり、わたしと直人がバイクで走行中に、わたしの視界の中にそれが映っている可能性があるかもしれない。
ついでに茜ちゃんも女の子がどうとか言ってたし。
さて、風呂に入る必要ないからさっさと寝巻に着替えるか。
ベッドで眠るようにしながら再生してみよう。
お姉ちゃんが来るとも思えないけど、もし部屋に来ても寝てるって思われるからさすがに襲って歯来ないでしょ。
寝巻きに着替えたわたしは、ベットに入るとそっと瞳を閉じた。
思い浮かべるは峠での光景。
ぶつかった時だと遅すぎるから、もうちょっと前よね、どの辺りくらいから再生してみようかしら?
一応直人が何か言ってた、事故直前位でいいのかしら?
よし、そんじゃ再生、っと。




