MEMORY・22 もどかしい違和感
「ところで、岩倉武琉についてなのですが……」
キキの言葉にわたしが黙っていたせいで、わたしが気を悪くしたんじゃないかって心配したんだろう。真一が別の話題を口にしてきた。
「死因は出血多量によるショック死。全身打撲は生前に付いたものだった。他に外傷はなしよ真一」
キキの言葉に成る程、と納得する真一。
出血多量? 打撲による死亡じゃないんだ。
「つまり、バイクが木に激突した後も彼はしばらく生きていた……ということですか」
「肯定。あそこに座ってから力尽きたみたい。ガソリンが抜けてたのも爆発を恐れて彼が抜いたのかも? あと、死亡日時はだいたい12日くらい。二日前ね」
今更ながらこいつが猫だったなんて信じられない。
自分の予想まで考えられるなんて……本当に猫? 人間だって言われても納得できるんだけど!?
でも、なんだろう? 今の予想……何かおかしい気がする。
そもそもバイクが木に激突した訳だしそこでバイクから飛んだ彼は放り出されて……
……ん? 放り出されて?
「バイクはどうでした?」
真一がわたしに聞いてくる。
「ブレーキが切断されてたわ。自然に切れたんじゃなくて、刃物かなにかで切ったような断面、とかでてたわよ」
さすがにキキのような特定なんてわたしにはできはしない。
詳しく調べようとすればできなくはないんだろうけど、わたしがそれをする方法を知らない。
ついでに言えば面倒くさい。
「殺害? ダメよ姉さん、そんなことしちゃ」
「あのね、わたしがやったわけじゃないんだけど」
「そうなの? 残念」
わたしを犯罪者にしたいのかこいつは? というか、今のはギャグか何かのつもりか?
全然脈絡も無くて面白くも無かったけど、あれか? キャットジョークか?
「あと、バイクの近くにマッチ棒が落ちてたわ」
「マッチですか……」
「何か燃やす気だったの? 姉さん」
「アンタを燃やしてあげようか?」
キキの冗談に冗談で対抗する。
なぜか互いに不敵な笑みを浮かべ、でも視線だけは決して相手から離そうとしない。
離せば負けた気になりそうだから。
真一は困った顔をしながらも止めに入ろうとはしない。
それはわたしとキキが、共に機械の体であるということが原因だと思う。
それにしても、ほんとキキのジョークセンスはだいぶおかしいと思う。
「ああ、そうだわ姉さん。私もバイクを調べてみたのだけれど……」
キキはわたしに挑むような視線を投げかけてきた。
なんだか分からないけど望むところだ。
受けて立つわよ、その挑戦!
「あれ、かなりの速度で木に衝突していたわ」
「あらそう? それくらいわたしも調べたけど?」
「そう? じゃあ、斜め70度前後からって……わかった?」
え? 斜め70度? 何それ?
あんたどこをどう調べたの!? そんなのどこにも出てなかったはず……
「どういうことです、キキ。詳しくお聞かせ願いますか?」
真一が眼鏡を輝かせながら横から割ってはいる。
一瞬キキが嬉しそうな顔をする。
もしかして、わたしに対抗してきたのは真一に自分の性能を見せ付けるため? 自分がわたしより使えるとでも主張してるわけ?
猫の考えは良くわかんないわ。
「私の調べでは木への衝突は斜め70度前後からバイクの前方がぶつかってる。乗り手が浮いて木に叩きつけられる。バイクはそのままずり落ちるように地面に。乗り手はさらにバイクに腹部分を打ち付けてバイクの真横に転がり落ちたと推測」
聞いてるだけでは本当にそんなことがおこってても不思議はないかなって聞こえる気もしないでもないけど……
「キキ、斜め70度って、バイクは空中でも浮いてたっていうの?」
「肯定。たぶん足踏み外した姉さんと同じ。あの辺りから落ちてきたんじゃない?」
あの辺りから……ってことは二日連続であそこで事故? 呪われてるわねあの峠。
「他に何か有りませんでしたか?」
「ん。私からはない」
「えーっと、そうね。わたしからもないかしら?」
んーっと考えた見たけど、わたしの足りない頭じゃこれ以上考えても堂々巡りなんだよね。
ふふ、猫より頭の悪い人間、わたしって、知能猫以下だったのかぁ。
「一先ず、状況証拠はこの位でよいでしょう。エレナさんを殺した犯人の足跡もあまりありませんでしたし、今回は一度引きましょうか」
ま、そうなるよねー。
しっかし、何処の誰だ? わたしをひき逃げしくさった外道は?
必ず見付けてやるんだからっ。
それにしても……違和感、なんなんだろう?
こう、喉に小骨が刺さったみたいな感じなのよね。
あー、もどかしい。
なんとなく違和感があるのに何が違和感かがわかんないっ。
何が気になるのかもわかんないからなんかもう、プリント用紙の束持ってビルの屋上からばさっと放り投げたい気分になる。早くこの面倒な違和感から開放されたいものである。




