MEMORY・20 不審人物
普通の奴はこんな場所こないからなぁ。前後左右崖に囲まれた窪地だし。
初めて見る景色に目を奪われながらしばらく歩いていると、少し開けた場所にでた。
その瞬間、ヌチャリと足に冷たい感触。
水?
わたしは何気なしに下を見る。
どこからか流れてる謎の液体。
何かといぶかしんでると、頭の中に表示される文字。
油? ああ、いやこれは……ガソリンだ。
わたしは流れを辿って上流を目指す。
やがてたどり着いたその場所で、わたしは思いがけないものを見た。
男子生徒だ。小さな箱のようなものを持っていて、わたしと同じ学校の学制服を着ている。
彼はわたしには気づいてなくて、一本の木の根元を凝視していた。
いや違った。根元にあるものを見つめていた。
木にぶつかり、ひしゃげてしまったバイクと、そのパイロットの男。
なに? この状況?
彼はただ見下すような視線を男に投げかけ、対する男は木にもたれかかり、俯いたままに四肢をだらりとさせて、一向に動く気配を見せない。
わたしは男子生徒の後ろからゆっくりと近づいていく。
あるところまで近づいたときだった。
新たな情報が頭に……ありえないものが表示された。
【岩倉武琉 人間 ♂ 詳細?】
茜たちから聞いた情報と写真から得ていた情報で機械が相手を判別する。
行方不明の一人。でも、ありえないのはそれだけじゃない。
突然、何かがわたしに示唆するように自動で起動されたサーモグラフィー。
岩倉武琉は目の前に立つ男と比べても青すぎた。そう、熱を帯びていない。
体表面温度が……体温が……低すぎて……
わたし自身によって知らされる無情な男の死という現実。
一瞬叫びそうになった。
でも、彼を見下ろす小さな箱を持った男子生徒の方が死体よりもインパクトがありすぎて、叫びたい気持ちが喉もとで引っかかる。
今、ここで叫べば彼に気付かれる。
なぜ彼がここにいるのか、混乱したままに男子生徒の方を注視する。
そこに表示された内容は……さらにわたしを困惑させた。
【真田永久 人間 性別エラー 詳細?】
「永久……君?」
頭に表示された文字が信じられなくて、わたしは無意識に口にだしていた。
とっさに永久が振り向く。
その表情は驚きで強張っていた。
わたしの姿を認めると、慌てたように走り去っていく。
なぜここにいたのか、なぜ逃げたのか、それに、なんで、性別……エラー?
わたしも追おうとはしたんだけど、今の状況と彼? という性別のエラーに戸惑っていたせいで、足が動いた時にはすでに永久君は森の中に消えていた。
ま、まぁいっか、どうせ明日も学校で会うんだし。
それよりも……
わたしは残された岩倉武琉を見下ろした。
遠目では認識できなかったけど、おびただしい量の血を流している。
流れ出た血液はバイクのガソリンと混ざり合い、地面を伝って小さな川を作っていた。
死体とわたしだけってなんだこの状況。ものすごく背筋がゾクゾクしてきた、普通なら叫び声上げて腰砕けになってるはずなんだけど、驚きどころが多過ぎて逆に冷静になっているという、ほんとなんだこの状況?
と、とりあえず、真一に連絡……よね。体内電話本当に使えるのか……あ、掛かった。
しばらく岩倉武琉の前で、さすがに死体見てたくはないので目を瞑ったまま待っていたわたしの元に、キキと真一がやってきた。
相変わらず落ち着いてるわねこいつらは。
真一は岩倉武琉に向かい合うと、まず手を合わせた。キキもそれに従う。
「なにしてんの?」
「姉さん、仏を前にしたら拝むのは基本です」
基本……なんだ? あたしゃぁ無神教ですが? それでも拝んだ方がいい?
拝むのをやめてキキが岩倉武琉を見て目を見開く。
「岩倉武琉? どうして私は知ってる? それも、死んでいる。これが……死」
……キキが死体見て何か呟いてる。
なんか凄く感心した顔してるしろくな事考えてないだろう。見なかったことにしよう。
「さて、とりあえず岩倉君には触れずに独自捜査をしましょう」
「姉さん、バイク調べて、どの時点でどう破損したかとか。あと人間も。バイクが木にぶつかったにしては不自然な死に方だから。私は死亡日時調べる」
「ち、ちょっと、二人とも、なんでそんなことするのよ? んなの警察に任せておけばいいじゃない」
「姉さん。七瀬さん茜さんという人に教えるのでしょう。死んでましただけではダメよ。なぜ死んでいたのか知らなければ知らされたほうは納得できない。せめて事故か他殺かくらいは調べておくの」
キキに指示され、しぶしぶながら岩倉武琉を見る。
確かに、バイクの横で木にもたれて死んでいるのはどこかおかしい。
うぅ、死体見るとかちょっと嫌なんだけど。
初死体、ん? そういえば私の死体を見たのが一応最初になるのか? じゃあ初じゃないや。




