表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/54

MEMORY・18 制服は血に染まり……

 え、えと……わ、わたし知~らないっと。

 何も見なかったとでもいうように目線を逸らしてあとずさる。

 茜ちゃんの体がピクリと動き、顔が上がった。


「いだぁ……い」

 擦りむいて赤くなった鼻とおでこ。

 ついでに鼻から流れる赤い液体。

 ぼたぼたぼたっと廊下を染めていく。


「ご、ゴメン……茜ちゃん」


 自分が機械だってこと忘れてた。

 車が低スピードで後ろから突っ込んできたようなものだ。鼻血だけで済んだだけよかったって……思って……くれるかな? ……無理だよね?


「お、朧月ざん?」


 涙まで流しながら恨めしそうにわたしを睨む茜ちゃん……声に濁点が付いてる。


「わだじにうだみでぼあぶんでずが?」


「あの……いや……ホントごめん」


 わたしは押してしまった罪滅ぼしにカバンの中身を詰めなおし、茜ちゃんにカバンを返した。

 立ち上がった茜ちゃんは制服の裾でグジグジと鼻血を拭い、わたしからカバンをひったくる。

 カバンから鏡とティッシュを取りだして、ティッシュを鼻に詰め込んだ。

 あの、その顔で帰るんです?


「えと、その、行方不明の二人について聞こうかななんて思って、呼び止めただけのつもりだったんだけど……」


 頬を掻きながら苦笑してみたものの、恨みと怒りに満ちた瞳を和らげるには至らなかった。


「突進しすぎよッ!! 次やったら許さないからっ! あう……制服に付いた血どうすんのよ!?」


 と、袖を見て絶句する茜ちゃん。

 いや待て、その血はわたしのせいじゃないぞ。

 さっき自分で拭ったよね!?


「んもう、最近最悪だわ。彼氏は行方不明になるし、探しに行ったら女の子に不審な目で見られるし、朧月さんにはおもっきし突き飛ばされるし」


「だからごめんってば」


 茜ちゃんと階段を下りながらわたしはひたすら謝った。

 さすがに茜ちゃんの擦り剥けた顔を見ると謝らないわけにはいかないもんね。

 はぁ、早めにこの体に慣れないとなぁ。

 丁度階段のステージまで来たときのこと、茜ちゃんが足を止める。


「ああ、そういえば、朧月さんも昨日はあの峠で事故ったんだよね?」


「ええ、まぁ……ね」


 事故って殺されましたよ。実感ないけど。


「じゃぁ、今日にでも見に行くの? 自分轢いた相手見つけるぞ~! とかって」


「当たり前よ! 絶対報復すんだからッ! お姉ちゃん以外には十倍にして報復するもんね、わたし」


「あはは、やっぱり。キモ眼鏡が峠に行くって言ってたから、なんとなくそうじゃないかなって思ったんだよね! でもあんた事故ったってのに怪我大丈夫だったの? 井筒君は軽傷なのに大事をとって休むって聞いてるけ……」

 

 さすがに友達ネットワーク持ってる奴には伝わるのが早いね。

 直人はわたしのクラスなのにもう知ってる。

 ……と感心していたわたしに向かって吐かれた茜ちゃんの言葉。


「あっ……」


 茜ちゃんがわたしの後ろを見て声を洩らした。

 そう認識した瞬間、突然後ろから衝撃が走り、わたしは前へと押しだされた。

 目の前に迫ってくる角を突きだした通路。それは階段。


 丁度階段降りるところでまさかのトラブル発生。

 機械の頭はこんな時でさえ冷静にわたしの加速度、階段の強度、打ち付ける角度、そして破損率。事細かに計算している。

 このままどう転がり落ちるのか、どう力を加えればより損傷なく転がれるのか、刹那に算出されていき、安全機能が実行に移そうとした。


【PER……】


 でも、階段の角にぶつかることも、転がり落ちることもなかった。

 後ろからわたしの腕を掴んで落ちる寸前で止めてくれた誰か。


「わりぃ、大丈夫か?」


 わたしを踊り場に引き戻すと、彼は苦笑を浮かべながら頭を欠いた。


「あ、ありがと」


 振り返りながらお礼を言うわたし。おっと、見知らぬ男子生徒だ。

 け、結構カッコイイじゃないこの人。

 直人より、いいかも?


「ちぃと急いでてな。許してくれ」


「あ、うん、別に気にはしてないけど」


「鎖無ぁ~ッ!」


「やべッ」


 女性の怒声を聞いて弾かれたように彼は階段を駆け下りる。


「ホントに悪い、今追われてるんでね」


 彼はそのまま一度も後ろを振り返ることなく走り去っていった。


「な、何なのアレ?」


「……さぁ? なんだろね」


 しばらく二人でぼうっと突っ立つ。

 見知らぬ女生徒がわたしたちの間を通り抜けて、男子生徒を追っていく。

 そして……


「ああ、絵麗奈さん、そんなところに」


 ポカンと鎖無と呼ばれた男子生徒の去った廊下を見ていたわたしたちに、声がかけられた。

 声の主は、まぁ予想通りの人物だろうし、放っておいてもいいんだけど。


「なに、真一」


 不機嫌な声でわたしは真上から覗いていた真一を見上げた。

 まったく、イケメンの後にコイツの顔を見るとなぜか無性に殴りたくなるのは何故だろう。


「なに、とはご挨拶です。行くのでしょう。父から政治家に話を通して警察に少しだけ現場から引いていただけるようにしておきました。六時から一時間です」


 おお、そういう話か。


「ナイス真一。六時から一時間ね」


「六時からかぁ……私も行きたかったけど、その時間は弟の食事作ってやんないといけない時間だしなぁ。朧月さん。稔の件、頼むね。見つけてくれたらさっき押したこと許してあげるから」


 ……今まで許してくれてたんじゃなかったの?

 ま、まぁいいわ、わたしの事件を調べるついでに調べてみるわよ。

 わたしは茜ちゃんと別れて真一と合流する。

 そっから六時まで真一の家のメンテナンスルームで時間を潰し、キキを連れ立って峠へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ