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MEMORY・17 わたしがやりました

 4月14日木曜日 午後3:50


 昼休憩が終わって、数学、現国、美術の授業をなんとか乗り切ったわたしは机の上に突っ伏した。……寝れなかった。

 いつもなら数学、現国なんて催眠術でもかけられてるように眠くなるものなんだけど、先生の異世界の言葉も、機械の体がしっかり直訳してくれている。

 無駄に丁寧に脳内に伝わってくるものだから頭が今まで使ってなかったところまでフル稼働させて覚えこんでしまった。


 古文なんて覚えても役には立たないし、平方根なんて殆ど使わないってのに、こんなん覚えてどうするよ?

 いや、ま、そういうの使う場所に就職するんなら話は別だけどさ、普通に生きる分には意味ないよね。こんなの習うくらいなら生鮮野菜の選別法でも習った方が幾分ましだ。


 まぁ、美術くらいは習う分にはいいんだけど、あの先公、わたしの下手な絵を笑うのは止めて欲しいな。

 皆の前でバカにするからついつい絵筆折っちゃってまた真一に怒られたし。

 一応、絵を描くのは好きなのよわたし。


 キキの猫だった時の絵を描いたら真一にこれ生き物だったんですか? って言われるくらい下手だけど。

 それに、なら自動描画すれば写実的な絵が描けますよ? とか言われてもそれ、わたしが描いたものじゃないよね? 

 オーバーロード気味の頭が冷めるまで、しばらく机の上で知恵熱にうなされていたわたし。

 そこへ……


「おおぅ、麗しのマイスイートハニー、ミスタァァァ絵麗ィィ奈ァッ! 何をそんなにタイアァドしてるんだいッ!?」


 ……うるっさいのがきやがった。


【緒方清彦 人間 ♂ 詳細?】


 やはり奴か。

 コレは一応わたしのクラスメイトだ。

 日本人なら黒く艶やかな髪こそ誉れなれとか訳のわかんないことほざいてる自己中にしてナルシー男。


 宣言どうり髪は染めたり立たせたりってことは全くしてない黒い髪。

 殆ど切ったりもしないから、すでに後ろ髪が腰元近くまで垂れ下がってる。

 前髪も顔を隠せるくらい伸びていて、もはや左目は髪に隠され、ここ数年見たことがない。


 もしかしたら独りでに歩きだして茶碗風呂でいい汗かいてたりするんだろうか? あの体の生えた目玉みたいに。

 懐かしいなあのアニメ。うあ、なんか見たくなってきた。

 再放送かリメイクでないかなぁ。


 手にはいつも手鏡持参。

 顔は確かにイケメンではあるものの、性格は真一とどっこいどっこい。

 なんでわたしの周りにはこんな男しか集まってこないんだ?

 しかもこいつは歩くと風で艶やかな髪が靡くせいでよく男共にナンパされて、まぁなんだ。隣は歩きたくない男である。


「あのねぇ、何度言ったら分かるの? ミスターは男の人の呼び名で、女性にはミスやミセスでしょうが」


「細かいことは気にしてはいけないよミスタァ絵麗奈。ほら、この鏡を見たまえ、ここに映った僕の美しいぃぃ姿を見れば、そんな細かな事象なんてゴミにまとめてポイ、さ♪」


 ……ああ、知恵熱で茹だってるときになんでこんなのの相手しなきゃなんないんだか。


「で、何しにきたの緒方君」


 わたしは仕方なく身体を起こすと、清彦に向き直る。


「いやいや、今日は珍しくオールカリキュラムを起き通していたじゃないかい。勤勉に目覚めたのかと興味が湧いてねぇ、アスクしてみようと思ったのさぁ」


 ……普通に喋って欲しいよ。アスクしてみようって何よ?


「君は僕の次に美しいからねぇ。頭の良い僕と違って、二物を与えられなかった君が勤勉に興味を持ち始めたとあっては僕の僕たる美しさに影響がでてしまうのさ! これはエネミーオブザベーションなのだよ」


 手鏡を見つめながらよく分からないことをくっちゃべる清彦。

 正直相手にしてらんない。とはいえ、うまく逃げる方法が思いつかない。


「やはり事故が原因なのかい? ミスタァ絵麗奈」


「……ええ、大幅そんなとこよ」


「そうなのかい? やはり脳に強いインパクツを受けると頭がよくなったりするみたいだねぇ。もし僕がそんなことになったら……ああッ、もうパーフェクツじゃないか!? 僕の美が確実に完璧にコンプリートしてしまうじゃないか!? ふはぁッ、僕、美しいよッ! 美しすぎるよッ! イッツビューティフルワールドゥ!!」


 うあぁヤツの背後にバラの幻影が見えだした。

 これはもうダメだ。勉強し過ぎで精神がSAN値チェック始めてる。

 なんとか逃げる方法を、こいつから一刻も早く立ち去る方法は……

 周囲を見渡すわたしの視線の中に、廊下を歩く茜の姿が映った。


「緒方君、ごめん。わたし茜ちゃんに用事があるの、彼女もう帰るみたいだからちょっと行ってくるね」


「あああ、そんな僕が大好きさぁッ!」


 鏡を見つめたままトリップしてる清彦のアホをほっぽって、わたしは茜ちゃんの元に逃げるように走っていた。


「茜ちゃんッ」


 後ろから走って追いついたわたしは、茜ちゃんの横に走りつくとバンと背中を叩いた。

瞬間、茜ちゃんが吹っ飛んだ。

 それはもう綺麗に放物線描いて、前方に吹っ飛ぶ。


「ひゃうッ!?」


 何が起こったのかすら理解できず、茜ちゃんは宙に浮いて前に向かってダイビングヘッド!?

 廊下に盛大にカバンの中身をぶちまけ、ついでに顔面までも打ち付けて、ピクリとも動かなくなった。

 ……これ……わたしのせい?

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