MEMORY・16 行方不明者
「あ、朧月さん……とキモ眼鏡ッ!?」
不意にわたしの後ろから声が聞こえた。
どうやら茜ちゃんがこっち来たらしい。
真一が弁当箱から顔を上げて、
「おや、岸川さんともう一人、こんなところで会うとは奇遇ですね」
茜ちゃんともう一人の女の子がわたしたちの声に気づいたんだろう。
壁から顔だけだしてわたしたちを見つけると、驚いたように声を張り上げた。
特にキモ眼鏡ってとこは嫌味が露骨にでてたぞ。
「お久ぶりぃ。茜ちゃん」
「うん。どうしたの朧月さん。こんな場所でソレと二人っきりなんて」
「デートでふむぐぉっ」
「あ、はははは、このバカと漫才ネタの秘密の打ち合わせ中よ」
何か変な言葉を吐こうとした真一の口に弁当箱を突っ込んで、わたしは適当に誤魔化した。
「そ、そう? なんだか悪いことしちゃったかな」
「いいのいいの。で、そっちは何してたの?」
と、とにかく話題変えよう。真一と熱愛発覚なんて噂、嘘でも立てられたくないんだから!
「えと……私たちは……」
と、二人顔を見合わせて、困ったように視線を交わした。
え? マジでなんかあった?
あー、これはちょっと、不用意に深入りしちゃった感じ?
二人の話を要約すると、こんな感じだった。
まず、茜と一緒に居た女生徒は、七瀬奈菜という名前で、彼女とは彼氏繋がりで知り合いらしい。
奈菜の彼氏の名前は岩倉武琉。
茜の彼氏であるという柏木稔と連れ立って、数日前に走りにでたらしい。
岩倉武琉は峠越えが成功したら奈菜に話があると言って、柏木稔とでて行った。
場所はあの直角峠。そして、その日から帰ってこなくなった。
で、心配になった二人は、屋上で会って互いの彼が戻ってないかを確認していたということらしい。
直角峠……か。
「ねぇ、キモ……じゃなくて城内君。あなた頭だけはいいんだから稔たち探すの手伝ってくれないかな」
なんていうか……ものすごい言われようだね真一。
しかも頭がいいから手伝えって。
「そうですね。どうせ暗灯峠には行く予定でしたし、いいですよ」
「ほんと! やりぃ」
真一の即答に茜は後ろの奈菜と右手をパシンと交わして喜んだ。
「ただですね、私はその彼氏のどちらも存じません」
「それは大丈夫。プリクラ撮ってあるからみしたげる」
と、自分の携帯電話をポケットから取りだして電池カバーをはずす。
電池パックに貼り付けられたソレをわたしたちに見せてくれた。
プリクラに写っている稔と茜。
はぁ、まぁそれなりにカッコイイっちゃカッコイイけど。
半身しか映ってないし、正直満面の笑顔にアフロ頭はないんじゃないだろうか?
「サイババさん……ですか?」
コメントしづらそうに真一が答える。
ソレはさすがに古いよ真一。
茜は慌てたようにプリクラを確認して、赤面しながら言葉を付け足した。
「こ、こん時だけなんだからッ! ほら、ノリでアフロカツラあったから被ろうみたいな状況になって、その、ね、分かるでしょ?」
どういう状況かわかんないけど、とりあえず被り物だってことは信じとこう。
本当にアフロで、満面の笑顔だったらちょっとショックだし。
有名人でもないのに常時アメリカンスタイルは引くって絶対。
「つ、次は奈菜っちのだよ」
顔を赤らめたままに茜は奈菜に促してそそくさと携帯をしまいこんだ。
よほど恥ずかしかったのだろう。
むしろそのプリクラ貼ってたこと忘れて、普通のバージョンのプリクラと勘違いしてたんだろうか?
「はいよ、こいつが武琉な」
と、プリクラ、でなくて写真をだしてくる奈菜。
って、何か文字書いてあるんですけど、この写真。
まさかッ!? これがかの有名なブロマイドというやつかッ!?
確か昭和時代に流行ったんだっけ。
「有名になったら売れるから持っとけって渡された奴だよ」
それはありがた迷惑とかいうものではないだろうか?
「まぁ、お二人とも見かけたらご連絡いたしましょう」
「うん。頼んだよ城内君」
「よろしく頼む」
二人は言いたいことを言い終えたようで、満足したように去っていった。
「で、あんな安請け合いして良かったの?」
「まぁ、何とかなるでしょう。暗灯峠にある三つの直角から崖下の窪地に落ちた可能性がありますので、そちらを後で探してみましょう。それに、どうせ調べるのでしょう? あなたを轢いた相手を」
「よく分かってるじゃない。じゃあ今日にでも行っとく? アンタの予想通りってのはシャクだけど、わたしもわたしを轢いてくれた二人にお礼参りしたいって思ってたとこだしさ」
「分かりました。父に言って警察を遠ざけましょう。放課後にでも連絡いたします」
黒い服の二人の男。
わたしを轢いてそのまま逃げたトラックの運転手だ。
そういえば、あのトラックナンバープレートあったっけ?
記憶を再生し直してみる、が、やっぱり、無いぞナンバープレート。
ボルトごと外されてるようだ。
これでは誰が持ち主か判別できない。
ナンバープレートがあればすぐに見付かると思ったんだけどなぁ。残念。




