表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/54

MEMORY・14 反省会

「はいはいは~いッ! 皆の者静まれぃッ!」


 わたしは教壇へ上がりながら皆が静まるのを待った。


「わたしは化けても死んでもないわッ! ほら足もちゃんとあるでしょ」


 自分でもお約束だなと思いつつ足を皆に見せびらかす。

 どうやら皆ほっとしてくれたらしい。


「で、誰よ? わたしを死んだことにしてくれたのは」


 わたしの問いにクラス中が一人の男に集中する。

 顔立ちは女の子と言われても納得してしまいそうな顔立ち。大人しそうに見えるけど結構したたかでかなりの人脈を持つクラスメイト。真田永久。


「真田君が犯人な訳ね」


「あ、いや、僕は……あ、はは……」


 何か言おうとして、苦笑いで誤魔化そうとする。


「昨日、直人のお見舞いに行ったら朧月さんが死んだって直人と警察の人が話してるの聞いちゃって……」


 なぁんだ、直人は軽傷だったんだ?

 なんで後ろに乗ってたわたしがこんな機械の身体にされて、前に座ってた直人が軽傷で済んだんだか……不公平だわ。


「まぁ、取りあえずはわたしが死んだって誤解は解けたってことでいいのね」


「あ、ああ、うん。そうだね」


 永久の言葉を聞いて、満足げに頷く。

 真一がようやく教室に入ってきて、無言のままに自分の席に座った。

 真一は後ろの方だとバカになるとか、一番前はチョークの粉と先生の唾が飛ぶと訳の分からないことを理由に六列ある机の、真ん中の前から二列目の左、しかもここの席から一度も動いたことはない。

 小学校の頃から席替えのたびにその場所の人に代わってもらったもんだから、そのうちに真一抜きで席替えをするようになった幾多のクラス。

 真一の机だけはすでに専用席と成り果て、真一同様、この学年に上がってからも一度も動かされていない。

 っと、んなことどうでもいいや、わたしも先生がやってこないうちに座らないと……


「おう、今日はお前が授業ジャックか朧月」


 わたしが教壇から離れようとした瞬間、出待ちを覗っていた先生が声をかけてくる。

 なんだ、いたのなら早く入ればいいのに。


「違いますよ先生。どうぞ、授業始めてくださいな」


 と、教壇を離れて窓際最後尾の自分の席に戻……ちょっと待った。

 何? この机の上に置かれた花瓶は?

 あらぁ? なんだかお線香も上がっていらっしゃる。


「これは……何かのご冗談かしら真田君?」


 カバンを持つ手に知らず力が入る。

 手提げ用カバンの取っ手が、わたしの握力に耐え切れずブチリと切れた。


 4月14日木曜日 午後0:10


「頼みますから、常人以上の力を使わないでいただけますか絵麗奈さん」


 真一に説教されて、わたしは項垂れていた。

 カバンが切れたのは偶然だということで何とかなったけど、ちょっと力を入れただけで取っ手を握りつぶすんじゃこの先大変だ。


「まずは力の入れ具合と感情の制御をしておくべきです。そのうち化け物扱いされてしまいますよ」


 全くその通り。ごもっともです。

 機械の体って人より扱いが難しいのね。

 わたしは誰もいない屋上で、真一と二人反省会を開いていた。


 今は昼休み。皆ようやく落ち着いたようだ。

 4時間目の授業が終わった直後にいつものように売店へと誘われる亡者となっていった。

 んでも、教室や売店で昼を済ます生徒がごった返す中、なぜかここだけは誰も上がってこなかった。


 というのも、屋上への階段が学園怪談の一つなので、上がってくる物好きは殆どいないだけ。

 かなり有名な、どこにでもある十三階段の奴ね。

 一応、もしもって事もあるんで入り口からは死角に来て、真一は自分の作った弁当を食べながら、わたしはエヴァープロフィトを飲みながらの反省会だった。


「良い機会ですので、少しあなたの身体について説明しましょう」


「そうね。まだ実感は湧かないけど事実としては受け入れられたわ。確かにわたしは機械の身体になってる。そして元の身体にはもう戻れない。だからこの身体について慣れるためにもこの身体を知っとかなきゃなんない。自他共に認める頭の悪いわたしでも何とかここまで理解できたわ」


 真一は弁当からタコさんウインナーを摘み上げると、一口で食べてしまった。

 タコさんウインナーなんて器用なもん作れるのねこいつ……って、自分の弁当に入れるなそんなもん。

 わたしへの当てつけか?


「今まで説明したことはもう説明を省きますがよろしいですか?」


 頷くわたしを見ながらミニコロッケを箸で半分にする真一。

 ちょっと、ものすごくおいしそうなんですけど。


「普段の生活でもなんら支障ない身体を機械で再現するというのはものすごく難しいのです。歩くという動作だけでも摩擦やゴミなどが機械の間に入る内的要因、物体からの圧力や他人との接触における外的要因などで体全体の組織の位置が変わりますから、たった一時間でも大きく形状が変わってしまいます。絵麗奈さんの身体も絶えず変化していたわけですが、人間には自己修復という機能があるのです」


 キャベツの千切りにマヨネーズを絡ませ口へと運ぶ真一、キャベツって生で食べれるしおいしいのよね。水溶性食物繊維豊富だし。


「ですが機械の体となった今、あなたに自己修復機能はありません。つまり壊れれば壊れたまま。変形すれば変形したままなのです」


 なんだか重要なことを言っているように聞こえるんだけど、今のわたしは真一の話より真一の食べるご飯に目がいっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ