MEMORY・12 メンテナンス
4月14日木曜日 午前7:20
エヴァープロフィト二本目を飲んで、制服に着替えたわたしは、疲れたようにふらふらと真一の家に向かう。
といっても、真後ろなのですぐに着くんだけどね。
真一の家はわたしの家に比べても、とても質素な一階建てで、築ン十年かと思うくらいボロッちい。この前真一の部屋の電燈が上に被さってた埃と共にドサッと落ちた時は笑ったよ。
あの時の埃被って唖然とした真一の顔は今思いだしても笑いがこみ上げてくる。
真一の家に着くと、キキが出迎える。
真一がメンテナンスルームで待ってるそうなので付いて来いとか。
狭く傾いた廊下を進み、畳張りの居間に通される。数世代前の黒電話が電話台の上にあったり、戸棚と茶棚が一つづつ。ちゃぶ台が部屋の中央にあって、なぜかミカンが一つ乗ってる。
キキがちゃぶ台の乗っている畳の境目に手を入れ、ちゃぶ台ごと持ち上げる。斜めになったのに落ちることなく畳と一緒に縦になるちゃぶ台。当然ミカンも固定されている。
「これ、ちゃぶ台だよね?」
「カモフラージュ。兼ちゃぶ台。真一の母さんが愛用してる。真一は全く使ってない」
あるだけ無駄なんじゃ?
畳の下には階段がある。昨日はでてきただけだけど、今日はこの中に入らないといけない。
暗いし階段の幅狭いし、ジメジメしてるし、嫌だなぁ。
階段を降りて踊り場に着くと、メンテナンスルームへのドアがある。
ちなみにわたしの寝ていたブリーフィングルームとか言うのが、このまま、も一階下に下りたところになるそうだ。
つまり地下三階まで作られているらしい。
一番下がメインコンピュータがある部屋なんだって。
メンテナンスルームに入ると、白衣を着て眼鏡をつけたマッドサイエンティストが目の前のモニターに向かって何かやっていた。
メンテナンスルームには人間ドック付きの白いベットとなんていうか拷問器具みたいな椅子が一台置いてある。
あとは真一の前にある機械とその上にある大型スクリーン以外は冷たいタイル張りの床だった。
「真一、来てあげたわよ」
真一は手を止めて、わたしに向き直る。
相変わらず眼鏡を光らせ、冷めた態度で笑みを浮かべた。
「これはこれは、お待ちしておりました」
「で、何の用?」
「昨日、一つ言い忘れていたことがありまして、お風呂には入られましたか?」
「入ってないわよ?」
お姉ちゃんに気絶させられてたから、と心の中で付け加える。
「それは良かった。危ないところでした」
「どういうこと?」
「ああ、いえ。大したことではないのですが、防水加工は予算の都合でほとんどできてないのです。雨くらいなら良いのですが風呂の熱湯に浸かるとなると……」
ど、どうなるの?
わたしはゴクリと喉を鳴らす。
「熱暴走により圧力バランサーがイカレます。浸水による温度センサーの誤作動、これに伴う精密機器の暴走が考えられます。また漏電の危険もあるかと」
お、お姉ちゃんありがとう。
あの膝蹴り喰らってなかったら間違いなく入ってたよわたし。
知らず震える身体をできるだけ悟られないよう部屋に設置されたベットにもたれかかった。
この体、危険な状況が多過ぎる。
というか普通風呂入る想定ぐらいするでしょ!? なんで付いてないのよ!?
「よ、用はそれだけ?」
「いえ。昨日の澄夏さんによる打撃で何か異常がないかと思いまして」
やっぱきたか……
「アラーム鳴ってる。意識も途切れたし、機械でも気絶するのね」
その言葉を待っていたようにキランと眼鏡が光を帯びた。
「ではメンテナンスですね。それと、気絶と言うよりは衛星との回線がブレたせいでしょう。そちらは昨日のうちに直しておきました」
「ま……マジで?」
「ええ、では、その寝台に寝転がってください」
……あ、あれ? このままでいいわけ? 服着たまんまなんだけど?
真一が後ろの機械をいじる。わたしがベットに寝っ転がると、ベットが独りでに動きだす。
「しばらく動かないでください」
真一に従って動かずにいると、人間ドックみたいな機械に向かってベットが突き進んでいった。
しばらくその機械の内部でさまざまな光が当てられる。
それだけで、服を脱ぐこともなく、メンテナンスは終わった。
「これで終わりなの?」
「いえ。これは身体に異常がないかスキャンしただけです。人間ドックとそう変わらないですよ。それより、モニターを見てください」
ベットから降りて真一の横に来たわたしは、目の前の緑色のスクリーンを見上げた。
近未来映画でよく見るような大型のスクリーンには、わたしの身体だろう人型の前部と後部が映っていた。
物体の設計図を描いたような感じにわたしのお腹のところに矢印が伸びていて、説明文らしいところにバブル衝撃吸収加工が壊滅だとか書いてある。




