MEMORY・11 アラート発令
頭を抑えながら立ち上がったお姉ちゃんは、大きく息を吸い込むと、さっきとはえらい違いで無邪気な笑みを見せた。
「で、アンタなに食うの? せっかく帰ってきてくれたんだからレトルトくらいはご馳走してあげるわよ」
お姉ちゃんにしては珍しい。でもせっかくだから何か頼もう。そう思ったとき、わたしはあのエヴァープロフィトなるものを思いだした。
キキが去り際に言っていた……
―――メンテナンスは裸よ―――
つまり真一に機械とはいえ、裸を見られ……
あれ? ちょっと待った。この体って、あいつが作ったんだよね。ということは……
なんであいつがわたしのスリーサイズ知ってるのよッ!
「あー。そういえば医者から今日は食べるなって言われたんだったわ。御厚意に甘えたいけど今回はパスで」
「あら。残念ね」
明日あの眼鏡が破片になるまで殴ってやると心に決めて、わたしは二階にある自分の部屋に戻った。
せっかくのお姉ちゃんの好意を無駄にする形になったけど、わたしは食事ができないんだからどうしようもない。
エヴァープロフィトを箱から取りだし、蓋を開けたときだった。
【危険物接近 距離一・三二メートル】
え? 危険物?
「あらあらあら~、お姉ちゃんの好意を無碍にしただけじゃ飽き足らず、そんなおいしそうなものをお飲みですかエッちゃん♪」
まるでチェンソーを持った男の映画のように突然姿を現したお姉ちゃん。
いや、むしろドアに顔が挟まった姿はライ○ング!?
その不気味な笑みが恐いです。
「お、おおお、お姉ちゃ……」
な、何? なんで上がってきてるわけ?
「ねぇ、私も飲みたいなぁ、そ・れ」
「こ、これは真一が飲めって言った薬みたいなもんで、お姉ちゃんが飲んでいいものじゃなくて、ね」
これは機械のわたし専用のオイルのようなもの。お姉ちゃんが間違って飲もうものならたちまち吐いて、最悪の場合逆恨みのお姉ちゃんによって、わたしが地獄を見るだろう。
だから、
グビグビグビッ
一気に飲んで、空き瓶の口を下にして振ってみせる。
「も、もうない……よ? あ、あれ、お姉ちゃん?」
「んふふぅ、その机の上においてある七本の物体は何かなぁ? お姉さん久しぶりに殺意沸いちゃったなぁ」
あ、あああ、あの指をぽきぽき鳴らさないで、ほしぃかなぁ~。
あ、これ、駄目な奴だ。
わたしは選択を誤った。
「本気で死んで来いッ!」
ノーモーションから繰りだされた高速ミサイルキック。
25%に抑えられたわたしの処理能力が追いつくより前に、わたしのお腹に衝撃が走り、わたしの意識は暗転した。
……
…………
………………
ビィー……ビィー……
何かがけたたましく鳴っている。
警報器に似た何かがわたしの近くでなっている。
何でだろう? わたしの中から響いてくる気がしないでもない。
確かこうなる直前の状況は……
暗い視界の中にお姉ちゃんの微笑が映る。
うはぁッ!? 思いだした。
わたしは慌てて飛び起きた。
そうだ、お姉ちゃんにノーモションミサイルキックされてショックで気絶したんだ。
……機械なのに気絶するのわたし?
視界が赤い。音はわたしの中で今も鳴り響いている。
とりあえず、なんでか知んないけどベットで寝てる理由をお姉ちゃんに聞いて、真一にこのけたたましい音を止めてもらうかな。
ベットから這いでて一階に下りる。何時なのかな今は?
【4月14日木曜日 午前7:10】
ああ、そう、木よ……木曜!? 7:10分!?
「お、お姉ちゃん!?」
わたしはお姉ちゃんに会うために居間に向かう。
だけどそこにお姉ちゃんはいなかった。
一階のお姉ちゃんの部屋に向かう。ドアを開けると……あ、いた。
「お姉ちゃん、なんで起こして……何してんの?」
部屋でお姉ちゃんは足を吊っていた。
ご丁寧に包帯巻いて、なんだか萎れたようにベットに寝転がっていた。あ、頭にも包帯巻いてある。満身創痍じゃん。
「あんた蹴ったら痛めちゃって。昨日の夜にわざわざ真一君に来てもらったんだから」
やっぱしお姉ちゃんでも機械蹴って無事なわけないか。
「頭の方も合わせて全治三日だって……しくしく」
そうかぁ全治三日……早ッ!?
「膝蹴りの勢い付けすぎて、戻し際に足首捻っちゃって」
わたし蹴ったの関係なし?
どういう体してんのよ、ウチの姉ってやっぱりおかしい。
絶対人間辞めちゃってるでしょ。
ついでに頭は何処でやったの!? あ、もしかして腕ひしぎ決めた時の? そっちのが重症っぽいのは気のせいだよね?
「ああ、そうそう、真一君が家に来るようにって言ってたわ。メンテナンスがどうのって言ってたわよ」
め、メンテナンス!?
い、行くの止めとこうかな。
でも、このアラームいい加減五月蠅いし、覚悟……しなきゃだめかな。




