プロローグ
新しく始めました連載小説です。
ただ、高校辺りの時に作った小説なので骨休め程度に見てやってください。次小説練るまでの繋ぎとして投稿します。
一応秘密結社シリーズの過去作品みたいなものだとでも思ってください。
Jr小説一冊分位の分量て終わらせるつもりです。
ドルルルゥン
ドルルルゥン
エンジンを掛ける音が、無音の峠に響き渡る。
月明かりの無い夜、とある峠に、二台のバイクがあった。
メットを被った二人は、自分のマシンのエンジンを吹かしている。
準備は万端、いつでも行ける、と互いに視線を向け合った。
「直角峠か……何時見ても震えが来るぜ」
「ビビリ君か?先行くぞ武琉」
「言い方が古くせぇんだよバーカ。俺が先だ稔」
彼らが居るのは山々を切り開いて掛けられたアスファルトの峠道。
車通りも滅多になく、夜中はまず誰も居ないはずの道である。
不気味な暗がりの中、彼らはバイクを走らせる。
目指すは目の前、直角に曲がるように造られた左折道である。
直進は出来ない。ガードレールがあるだけの崖だからだ。
車一台通れる位の冷たい地面を滑走し、二人は競い合うように進んで行く。
やがて、直角に曲がる曲がり角のかなり前でバイクを止めた。
ここからだ。
今までは直角といえどもガードレールが存在していただけマシな場所。
ここだけが、違う。
急激な角度の曲がり角で道が無くなっているようにしか見えない。
ガードレールはない。
昔は有ったが、度重なる事故で破壊されていき、今ではガードレールが有ったという名残の穴があるだけだ。
残念ながら夜中である今は全く見えない。
事故の噂で殆ど車も通らなくなったので、財政難を理由に改善される見込みのない放置された道路だった。
「へ、へへへ……腕が鳴るなぁ武琉よぉ」
「彼……女への安全祈願は済んだか稔」
武琉の言葉にムスッした表情で頷く。
「……まぁ、な。テメェは三角関係どうなったよ?」
「それはテメェの……ああ、いや……奈菜に決めた。これが終わったら奈菜にこいつを渡すさ」
と、一枚の紙を見せびらかす。
「……そうか、がんばれよ」
この峠の難所は、トラックが一台通れるかどうかといった狭い横道。
それと、彼らから見えるような少し大きめの縦道からなる直角に曲がった道が麓までに三っつ連なっているという峠だった。いや、もっと有るにはあるが、ここ三つだけがガードレールが存在しないのだ。
ここを麓まで走り抜けること。
走り屋たちにとってこれこそが伝説と語り継がれるべき名誉なことだった。
これまでにも何人もの挑戦者が名乗りを上げ、この峠に挑んでいった。
だが、その殆どがここ。一度目の左折で止まるか、曲がりきれずに崖に突っ込むかの二つに一つだった。
御蔭で呪いの峠道とか噂が流れているのだが、事故が多くなるほど挑戦者も増えていくのでバイク乗りにとってはここをクリアしたというだけで箔がつくのだ。
「……いくぜ」
どちらともなくスタートする。
彼らも何度か挑んだこともある。
もちろん一度目で止まることは多かったものの、最近は一つ目の出っ張り、二つ目のへこんだ曲がり角までは行ったことがある。
今回も一つ目の曲がり角は難なく突破した。
二つ目のへこんだ曲がり角は楽勝だった。そして二つ目の出っ張りに差しかかった瞬間のことだった。
いままでその存在すら忘れ去られていた反射板が突如その姿を誇示するように銀色に輝きだす。
「おいおい、対向車かよ」
「クソッ、運がねぇ!今日こそここをクリアできると思ったのによぉ」
「引き上げるぞ武琉」
「わぁってらぁみの……!?」
ブレーキをかけようとした武琉の車体が大きく振れる。
まるで何かに誘導されるかのように、滑走しながら存在を誇示しつづける反射板へと向かっていく。
「あ……嘘だ……嫌だぁぁぁぁぁぁぁ…………」
叫び声がむなしく尾を引き、武琉のバイクが崖を弧を描いて飛んでいく。
そうして崖下の森の中に消えていった。
「武琉っ!?」
落ちる寸前でバイクを止めた稔は大声で友の名を呼ぶが、答えなど返ってくるはずもない。
道路が途切れた先には、漆黒の闇が広がるのみだった。
その悪夢のような光景に、思わず喉を鳴らす。
武琉を探すのは不可能だ。
そう思って車体の向きを変えようとした時だった。
側面からのライトが彼を照らしだす。
それが車のヘッドライトだと気づくのに、さして時間はかからなかった。
クラクションが鳴り響く。けたたましいブレーキ音。迫る巨大な鉄の塊。
武琉が闇に呑まれたように、彼もまた、闇からの御手に誘われていたのだ。
人知れず、ドンと鈍い音がたった一度、小さく響いた。