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ホラー掌編(五千字未満)

かつてのエレキギター

作者: 紋 魅ル苦

 同僚が愛想なく大量の本を置いて行った。

 俺は、まだこのスニーカーを査定しているところだっていうのに。

 ちらっと見上げると、段ボールから山積みの本が顔を出していた。

 年末は買取業にとって繁忙期。「売って大掃除をしよう」というCMを、さんざん流すものだから、靴、本、洋服、おもちゃ……、休む暇がない。

 次はなんだと顔を上げると、エレキギターケースが査定机にもたれかかっていた。

 楽器だと俺の気分が上がる。20代のとき、ばりばりのバンドマンだったからだ。

 ケースのファスナーを下ろして、ギターのネックを持ち上げると、ボディーに視線がいった。

 まじかよッ、と鳥肌が立つ。

 

 このギターには見覚えがあった。

 薫のギターだ。


 汚れとキズ。そしてやはり、ボディーの裏にはギターとベースを弾く、2匹のサメをモチーフにした、キャラクターのステッカーが貼ってあった。

 薫が考えたキャラクターのステッカーを見ていると、あの当時を思い出す。

 薫と別れてから、もう五年は経っていた。

 俺がベースで、薫はギターだった。

 俺の腕はまあまあだったが、薫の腕は天才だった。

 しかし、腕は天才でも、売れるかどうかは別問題だ。

 薫に何度も「辞めないでくれ」と説得されたが、売れない状況に希望を持てず、俺は断った。


 

 受付にある買取申込書には、思ったとおりで、「木村 薫」と名前が書いてあった。

 ギターを売りに来たということは、音楽活動を辞めてしまったのか……。

 今すぐにでも薫の声を聞きたくなり、仕事中にもかかわらず、薫の携帯に電話をかけた。

「ツー……ツー……ツー……」

 呼び鈴は鳴るが、薫が出ることはなかった。



 就業時間はとっくに過ぎて、倉庫に残っているのは俺一人だけだった。

 薫が来るのを待っているのである。

 ふつう、昼ごろ査定に出せば、営業時間内に受け取りにくるはずだ。

 先程から電話をかけ続けているが、薫は出ない。

 なぜだか嫌な感じがして、もう会えない気がした。

 

 しびれを切らしてしまい、薫のギターケースごと自宅に持って帰ってしまった。もし、薫から電話があれば、すぐに渡しに行こうと思った。

 薫のギターを壁に立てかけると、無性にベースが弾きたくなった。

 押し入れから、しまってあったベースとアンプを持ち出す。

 夜遅いため、ヘッドホンから音が流れるように、アンプに接続した。

 当然、あの当時に比べれば俺は下手になっている。

 なんとかベースを弾き進めていくと、ヘッドホンにギターの音が微かに混ざって聞こえ始めてきた。

 えっと思って顔を上げると、ギターは先程のまま。

 手を止めるとギターの音はしないが、俺が弾き始めると、合わせるようにギターが鳴る。

 この軽快なギターの指づかい……。

 薫が来てるんだなと思った。

 

 気つけば寝てしまっていて、昨日何曲弾いたのだろうか、ベースの弦をはじいていた右手が痛くなっていた。

 片付けようと立ち上がったとき、ふと、ギターの弦にピックが挟まっていることに気がついた。

 昨日までなかったはずだ。


 取り上げると、かつて薫が好んで使っていたピックだった。

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