プロローグ
~100年前~
傷付いた銀色の髪を靡かせた赤い瞳に褐色肌の少女が、同じく怪我をした金髪碧眼の少女の上に乗って、短剣を首に当てていた。
絶体絶命の状況、ダークエルフとエルフの少女達は、互いに殺し合いを行っていた。
「ここまでのようだな……」
「えぇ。悪いけど、恨むなら、私がダークエルフで、貴女がエルフとして生まれた運命を恨んで頂戴」
「………。そうだな。今日初めて会ったけど、アンタ、ダークエルフにしては良い奴っぽかったよ」
「ダークエルフに大して、良い奴って何。貴女こそ、エルフにしては品が無くて、ダークエルフみたいな人だったわ」
「ダークエルフなのに、アンタが上品過ぎるんだよ」
「そうかしら?」
暫くの沈黙、エルフの少女は不意に視線を逸らして、力を抜く。
死の覚悟が決まったのか、ダークエルフは一思いに力を込めようとした。
だが、それよりも早くに真っ直ぐ、エルフの少女とダークエルフの少女の目が合う。
「……なぁ、アタシ、死ぬしかないのか?」
「命乞い?」
「そうだけど、そうじゃなくて、ただ、命を賭けたやり取りまでしたのに、アンタとはずっとこれからも、友達としてやっていけそうな気がしたからさ。いや、良いんだ。アタシの生殺与奪はアンタが決めることだ。アタシはエルフ、アンタはダークエルフ、その仕来りに則って、アタシを殺しても誰も咎めはしない。寧ろそれが普通なんだ……。あー、悪い、こんなんじゃ殺せないよな。ダークエルフめ、あの世でお前を一生恨んでやる、命乞いなどせん、だから殺せー」
「何よ、その投げやりな懇願は。貴女見てると、エルフとか、ダークエルフとか、馬鹿らしく思えて来たじゃない。それに……」
「それに?」
「……貴女を殺したら、多分、私が後悔する。だから、私は私の為に、貴女を殺さないことにするわ」
そう言って短剣を離し、ダークエルフが立ち上がった瞬間、エルフはそのまま飛び乗ってダークエルフと逆の立場になってその首に短剣を当てる。
「……ってやったら、どうするつもりだったんだよ?」
「その時は、私が死ぬだけだし。それに、貴女を恨むだけよ」
「違いないな」
そう言って鞘付きの短剣を離すと、二人立ち上がる。
いや、厳密には立ち上がろうとしたが、ダークエルフの少女は立ち上がれなかった。
「……何してるの?」
「こ、殺される、死ぬって思って、腰に力が入らなくなったのよ……」
「アンタなぁ……何年ダークエルフやってるのよ?」
「し、仕方ないでしょ、今、私死んだ、って思っちゃったんだから……怖かったんだから……」
「……あーもう、悪かったな! 手、掴まれよ!」
「ありがとっ、って、引く力強いから、待って! きゃっ!」
「うお!?」
結局二人、また寝転ぶ。
それから互いに顔を見合わせて、どちらからともなく失笑した。
「あっはっは、何してんだよ、アタシら!」
「本当にそうね。……私はリリム。ダークエルフだけど、これでも一応冒険者をやってるわ。階級はBランクよ」
「アタシはエルフのシア。同じく冒険者、階級は同じくBだ。だから互角だったのかもな」
「そうね。これからよろしく、シア」
「こっちこそ、宜しく頼むな、リリム」
これがシムとリリアの出会いであった。
それから100年、二人は冒険者としてSランクの地位まで上り詰め、そして定年を迎えた。
無論、エルフとしての生は1000年以上もあるし、お金が無くなれば臨時で冒険者稼業にも戻るのだが。
ただ、二人は一度、戦いの無い平穏な日々と言う物を送って見たかったのであった。