私は全然悪くない アロエベラ・ドンナ・サイレントキラー公爵令嬢と「願ったり叶ったり草」
私は器量以外、全然悪くない。
しかしながら、器量以外の、持ち得る全ての美点を持ってしても、
この体調の悪さだけは、如何ともし難い。
顔色の悪さだって、渾身の、ウルトラスーパースペシャルおてもやんメイクで、
さり気なく目立たず騒がず、ナチュラルにカバーし、完璧に隠し通して来たのだから。
あと少し、あと少しだけ、体力気力総合演出力が、持ち堪えて欲しい‼️
何も知らない夫が、部屋に来た。何だか見たこともない植物の鉢植えを、手にして。
その鉢植えを、夫がサイドテーブルに置いた瞬間、すかさず私は、金貨の詰まった袋を、彼に押し付けた。
出来れば、演出上の効果を狙って、投げ付けてやりたかったが、体力的に無理無理ム〜リ〜。
「あなたとは離婚します。それは手切れ金です。それを持って、さっさと出て行って、妹を、スズランを、
迎えに行きなさい。」
「ロエラ…⁉️」 夫は、血の気の引いた顔で、茫然と立ち尽くしている。
「妹を、頼みます。それだけが条件です。早く行って‼️一刻も早く‼️馬車も用意済み‼️だから。」
そして私は今ひとり、静かに自分のベッドに、横たわっている。夫の置いてった謎の鉢植えを眺めながら。
よくやった、私‼️もう至れり尽くせり‼️グッジョブ、私‼️
遺言状もバッチリだし、後は、夫と、私の妹、二人に任せれば、公爵家も、超オッケー。
離婚の前に、私の寿命の方が先に尽きてしまうけど、間に合って、よかった。
私は、ほっと息をついて、手袋で隠した、痩せ細った手を、重ね合わせて、ゆっくりと目を閉じた。
私は、アロエベラ・ドンナ・サイレントキラー。サイレントキラー家の一人娘。
気位ばかりバカ高い母と、母の家門に、頭が上がらない、入り婿の父は、浮気を繰り返し、
そんな両親を、冷めた目で見ながら育った私は、常に冷静に、相手の出方を伺い、
上っ面だけ体裁良く振る舞う術を、身につけていった。
私は全然悪くないのに、
強いて言うなら、器量だけが、そう、ほんの少〜し僅かばかり、タッチの差で、良くなかった。
煤けた灰色の髪に、薄ぼんやりした茶色の瞳は、地味で目立たず、なのに目付きは鋭くて、キツそうに見えてしまう。でもまあ、 それ以外は、オール美点‼️しかないのが、せめてもの救いだ。
私が、12歳の年に、父が、義母妹の、スズランを連れて来た。
スズランの母が病死して引き取ったのだが、その女性が、我が家門の、傍系の血筋だったことが、
さらに、私の母の怒りを増幅させ、そして、それが、遂には、母精神を肉体を蝕み壊していった。
私は全然悪くないので、
スズランに対しても、両親に対しても、無我の境地。被害者ぶったり、偉そうに説教垂れたりとか、
時間の無駄だし、クソの役にも立たない、家柄や血筋やプライドに、しがみついたって、それが、
何の得になるというのか。
私の幼馴染の、ハシュリー・ドゥコロンは、伯爵家の三男坊、美しい銀髪に紫水晶の瞳、容姿端麗、
性格も温厚、と、ケンカ売ってんの⁉️って位に、非の打ち所がない。
義母妹のスズランも、艶やかな黒髪に、エメラルドグリーンの瞳の、絵に描いたような美少女。
美男美女の二人は、あっという間に、恋に落ちた…はずだけど、スズランはもれなく確実だけど、
ハシュリーに関しては、私に、気兼ねと遠慮と気遣いの、算段論法を胸算用してるのか、
スズランだけを贔屓する事もなく、永世中立国な立ち位置と礼節を重んじて、余計な口出しも一切せず、
あくまで静観の、呼吸…じゃなくて、構え‼️を崩さないライフスタイルに徹していた。
普通に三人で、表面上は、仲良く、話したりお茶したり勉強したり、時には出かけたり、
穏やかで和やかな、恋愛要素ゼロの関係性、って、どうなんだろう、実際。
美男美女同士、お似合いだし、くっついてくれて、全然オッケー、なのに。
そうこうするうちに、衰弱しきっていた母が亡くなって、水を得た魚状態の父は、愛人宅に入り浸って、
帰って来なくなり、あろうことか、愛人宅の寝室で、文字通り、帰らぬ人となった。
私が爵位を継いだ年に、スズランが、社交界デビューを果たし、求婚者が複数現れた。
が、どっこい、義母妹の思い人は、今も昔も、ハシュリー・ドゥコロン一択‼️だというのに、
当のハシュリーは、安定の、静観の構え…⁉️何だ、コイツは⁉️私は、内心、舌打ちした。
遠慮深いのか、優柔不断なのか、親の言いなりで、ウチの入り婿狙いなのか、
入り婿にならないと、呪われるとかってお告げが出て、脅されてんのか⁉️ 男なら、ハッキリしろや‼️
スズランを好きなら好きで、自分から動けよ‼️ こちとら領地経営で、それどころじゃないんだ‼️
私は全然悪くないので、
この私が、わざわざ二人の仲人を買って出るとか、クソ面倒な真似をする義理もへったくれもない。
他人の恋路に、ヘタに口出しすると、ロクな事にならない。それ位、私にだって、わかる。
ところが‼️晴天の霹靂‼️ …そうも言ってらんない事が起きた。
トンでもない求婚者が‼️降臨なさいませられて、しまったのだ…。