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天翼の英雄は勝利の剣を掴み取る。  作者: 僕私俺
第一部・天翼編
6/39

1-06.総帥


 ー1ー


 シリウスがアンヘルに剣の稽古をつけ始めて五日目。

 その間、魔獣討伐ではなく、シリウスはアンヘルと一対一での実戦方式で指導をする。


 アンヘルの放つ度重なる斬撃をシリウスは素早い剣さばきで全てをあしらう。

 それでもめげずにアンヘルは立ち向かう。

 臆することなく踏み込む。

 振り下ろされた剣をシリウスは弾き飛ばす。

 アンヘルの手から剣が飛ばされて地面に突き刺さった。


 「最初の頃と比べれば大分様になってきたな」

 「こちらの攻撃をやすやすと対応した挙げ句に、剣を弾き飛ばされた後に、そんな事言われても嫌味にしか聞こえませんよ」

 「こちらとしてもまだまだお前には負けられないというのを理解してくれ」

 「ふーん……そうですか」


 アンヘルの態度からどことなく不満さが滲み出ている。

 ここのところ、剣の指導で厳しくしているせいだ。

 手加減なしに畳み掛けて追い込んでいる自覚がある。

 だけどそれはアンヘルの成長を願っての事だ。


 「休憩にしよう」

 「はー、やっと休める」


 慣れないことで疲労が溜まっているのか、アンヘルは近くの瓦礫を椅子代わりにダラリと腰掛ける。

 剣の腕は上がってきたが、まだまだ不足しているところがあるな。

 不用心過ぎる。

 シリウスはアンヘルに近付く人物を見てそう思った。


 「剣、落としたままですよ」


 その人物は地面に突き刺さっていた剣を手に取ってアンヘルに差し出した。


 「どーも……って、あれ? なんでお前がここに?」


 差し出された剣を受け取ったアンヘルは、はたと気付く。

 一体誰が剣を手渡したんだ?

 視線を向けた先に居たのはマリーだった。

 人間と共に暮らす片翼の少女。

 彼女が剣を手渡したのだ。

 マリーの他にも人間が十人程いる。


 「丁度天使様を探していたところなんです。天使様は何をなさっていたのですか?」

 「隊長にしごかれていたところだ」

 「それはお疲れ様です」


 マリーはアンヘルを労う。


 「人間の接近に気付かないとは。他にも教えないといけないことが多いようだな」

 「これ以上厳しくするつもりなんですか? 勘弁してくださいよ。そもそも魔力を持たない人間を感知するなんて無理ですよ」

 「私は一応魔力を持っていますよ」

 「脆弱過ぎて感じ取れない」


 アンヘルの言葉を聞いてマリーは少しムッとした顔になる。


 「注意力が散漫になっているな。特に外では警戒を怠るな。どんな危険が潜んでいるか分からない」

 「でも、近付いて来たのは人間ですよ。相手になりません」


 それを聞いた人間達は卑下されているにも関わらず苦笑いを浮かべるだけだった。


 「自らの力に自信を持つ事はいいことだが、傲慢にはなるな」


 人間達の反応を見るに、勝てないと理解しているのが分かる。

 諦めというか達観しているような感じだ。

 それでもアンヘルを窘めておかなくては、今後の関係に影響が出る。

 そしてシリウスの言葉にマリーが同意する。


 「そうですよ! 隊長さんの言う通りですよ。あなたは人間を侮り過ぎです。今に痛い目に遭いますよ!」

 「ふん。やれるものならやってみろ。人間にもお前にも負ける気がしない」

 「お前じゃないです! マリーです!」

 「弱い奴の名前なんて興味ない」

 「馬鹿にしないでください! あなたなんて私一人で十分です! 絶対に勝ってみせますから! 覚悟しておいてください!」

 「この前は魔獣相手に全滅し掛かっていたくせに」

 「あ、あれは相手が悪かっただけです……!」

 「所詮は片翼だな」

 「なんですか、その態度は!」


 人間と片翼を蔑むアンヘルにシリウスは辟易する。

 確かに天翼人はかつての大戦で人間に勝利した。

 だから人間を見下す天翼人は多い。

 それは人間の血が混じっている片翼に対しても変わらない。

 それでもアンヘルの態度は露骨過ぎる。


 「アンヘル。そこらへんにしておけ」

 「マリー様も落ち着いてくれ。マリー様が頑張っているのは皆知ってるから」

 「「ふんっ!」」


 窘められてお互いにそっぽを向く。

 そんな二人を見てシリウスは人知れず呆れるのだった。




 ー2ー


 気を取り直してシリウスは話を聞く。


 「この前出会った魔獣は普段見掛けない種類だ。ただ魔獣が増加するだけでなく、種類も増えているようだな」


 シリウスは以前戦ったミノタウロスについて思い返す。


 「それは我々としても感じていることです。死傷者が増えていますし、こうして外で活動するのは以前にも増して危険なものになっています」


 今だに不機嫌でいるマリーに変わって一人の男性が代表して応える。


 「……大人しく地下で暮らしてろよ」


 ボソリと呟くアンヘルをマリーはギロリと睨む。

 頼むから黙っててくれとシリウスは願う。

 幸いにしてシリウスとマリー以外には聞こえていなかったようだ。


 「やはり何かしらの原因があると考えるのが妥当か……」


 肝心の情報は人間が持っている。

 このままでは魔獣は増え続けて、悪魔は野放しだ。

 あまり悠長に待っていられない。

 無理矢理にでも話を聞き出して、有益か無益かを早急に判断すべきだろうか。


 「マリー様。要件を」

 「え? あっ、うん、そうだね」


 男性がマリーに口添えをする。

 ただ顔見知りを見つけたから会いに来たのではなく、要件があったからこそ来たのだ。


 「総帥が天使様とお会いしたいとの事です」

 「総帥?」

 「生き残った人類を統率して、今の体制をイチから築き上げた素晴らしい御方です」


 マリーは総帥について誇らしげに語る。

 彼女の簡素な説明を聞いただけで、総帥の偉業が伝わって来た。

 シリウスは考える。

 先日のお礼を言うだけのために会うつもりではないだろう。

 総帥と呼ばれているほどの人物だ、何かしらの話があるはずだ。

 コモリから聞けなかった話以上の話が聞けるのかもしれない。


 「本日からでもお会いできますけど、どうなさいますか?」

 「なら、今から行っても問題ないか?」

 「はい。問題ないです」


 頭数を整えて万全の状態で行くべきだろうが、ここは情報収集を優先したい。

 

 「それで行きましょうか」




 ー3ー


 場所を移動する。

 移動中、人間達がどことなく緊張しているのが見て取れた。

 それはマリーも例外ではなく、彼女も緊張した面持ちでいる。

 それに気付いたアンヘルがまた囃し立てるも、マリーは構うことなく足を進めた。

 仲間であるはずの人間達が緊張する程の相手。

 果たして総帥とは、どういった人物なのだろうか。



 「こちらでしばらくお待ちください」


 駅に到着し、案内された部屋にシリウスとアンヘルを残して人間達は去って行った。


 二人きりとなり、アンヘルは切り出した。


 「隊長。真面目な話があるのですけど、いいですか?」


 真剣な表情で告げるアンヘル。

 その言葉に偽りはないのを悟り、先を促す。


 「遠回しな言い方は苦手なので率直に言います。自分は隊長に不信感を抱いています」


 突然の告白に面食らうも、すぐに気を取り直す。


 「……アンヘルが他者に対してどのような感情を抱くのかはアンヘルの自由だ。だけどそれをわざわざ口に出したってことは何か理由があるのだな」

 「理由なんて大層なものはありませんよ。ただ嫌だから口にするんです。文句です、苦情です」

 「文句でも苦情でも、ましてや悪口でも構わない。ここには他に誰もいない。言いたいことがあるのなら構わず言ってくれ」


 アンヘルは一拍置いてから話し始めた。


 「最初に不信感を抱いたのは人間達に対する対応です。隊長が人間を助けようとしたのが不思議で仕方ありません。人間ですよ。そこいらにいる魔獣よりも弱い存在です。魔獣どころかただの動物です。奴らは言葉を話す猿でしかありません。そんな猿をどうして助けたんです?」

 「前にも説明しただろう。人間が持つ情報が任務において有益になるかもしれないからだ」

 「こうして部屋に通されましたが、現段階としては何の情報も得られていないじゃないですか。前回の時は、はぐらかされていましたし。今の隊長は猿に振り回されている哀れな存在にしか見えません」

 「焦る気持ちは分かる。だが、結果は焦るな。求めたところで、すぐに結果が出るとは限らない」

 「焦るとかそういう問題ではないですよ。我々天翼人はかつての大戦の勝者です。喋るしか取り柄がない人間よりも上位の存在です。なぜ隊長が人間に対して友好的に接しているのかが分かりません。強引な手を使ってでも情報を聞き出すべきです」

 「友好的に接しているのは、今後も使えるかもしれないと判断したからだ。それに目下の問題は人間ではなく、悪魔の出現と魔獣の増加、それらの原因究明と討伐。それを解決させるのが先決だ」

 「その問題を解決させるためにも人間の持つ情報が必要なんじゃないですか! それなのに悠長に構えていていいんですか!」

 「結果を焦るなと言っただろ。今は待つ時だ」

 「何故ですか!? 人間の持っている情報が正確で有用なのかも怪しいのに、どうして待っていられるのですか! そもそも人間なんて信用に足りないじゃないですか! 奴らが正確な情報を持ち合わせているとは限りませんし、我々を貶めるための嘘をつく可能性だってある!」

 「アンヘルの指摘は正しい。だが、人間が信用に足りないと本気で思っているのか?」

 「思ってます。あの生意気な片翼を仲間に引き入れる連中ですよ。信用できるわけがない」

 「……アンヘルの意見は分かった。人間の件についてはこちらもどう対応したらいいのか考えあぐねていたところがある。いずれにしても今日の話し合いの結果で再考の必要性があるのは間違いない」


 そう伝えてみるも、アンヘルはあまり納得がいっていない様子だ。


 「……人間の件はひとまずいいです。それよりも最近の自分の扱いについても言いたいことがあります」


 シリウスは周囲に人の気配がないことを確認してからアンヘルに向き合う。


 「アンヘル自身についてか。蔑ろに扱っているつもりはないのだが」

 「……魔法の方が得意であるのは隊長も知っていると思います。それなのにやらされているのは剣の稽古ばかり。嫌がらせですか? 魔法の才能で勝てないから自分が得意な剣で優位に立ててそんなに嬉しいのですか?」

 「待て。なんか色々と誤解がある。剣の指導はお前のためであって……」

 「お前のためなんて新人をいびるための常套句じゃないですか!」


 言葉を遮るアンヘルに何とか反論しようとした時、近付いてくる人の気配に気付く。

 シリウスは身振りで会話を中断するようにアンヘルに伝える。

 アンヘルは不満そうにするも命令に従って口を閉ざす。


 「失礼します。お茶を用意しましたので、どうぞお召し上がりください」


 部屋に入ったマリーがお茶を並べる。

 目の前に置かれたお茶を見て、アンヘルはあからさまに嫌な顔をして何か混ぜられていないかと警戒をする。


 「毒でも入っていないだろうな?」

 「嫌なら無理して飲まなくて結構です」


 アンヘルの態度を予測していたであろう。

 マリーはつんと澄まし顔で受け流す。

 しかし、すぐにそわそわし始めた。


 「落ち着かないな、何かあったのか?」

 「その、総帥に会うのが久し振りなので、緊張しちゃって……」

 「総帥に頼まれたから伝言役をしたわけではないのか?」

 「頼まれました、総帥の部下から……。ですので総帥とは直接会っていないのです」


 そこで部屋の外から響く足音に気が付いた。

 何の躊躇いのない足音は真っ直ぐと部屋まで近付き、そのままの勢いで中に入ってきた。

 部屋に入って来たのは男性。

 長身でがっちりとした体つき、頭髪はなく、顔には深い皺が刻まれていた。

 それなりに年を取っているようだが、老いを感じさせない気迫がある。

 それどころか、そこに居るだけで周囲を威圧する雰囲気があった。

 右腕は失われて義手を付けているが、それを感じさせないくらいに自然な動きをしている。

 男性を見て、シリウスは思わずたじろぐ。

 相手はただの人間だ。

 ただの人間なのに勝てる気がしない。

 天翼人の中でも秀でた実力を持ち、悪魔を撃退する力を持つシリウスでも恐れ慄く。


 「総帥!」


 マリーの声音には嬉しさが滲んでいた。

 男性を心から信頼しているのが見て取れる。


 「息災であったか?」

 「はい! 元気にやらせてもらっています!」


 男性はマリーの返事に頷き、シリウスに視線を向ける。

 鈍い光を宿した眼光がシリウスを射抜く。

 シリウスも負けじと男性を見る。


 「彼らがお前を助けた者か?」

 「助けてくれたのは別の天使様です。彼はその天使様の上官で、そっちのは……まあ、はい……その部下です」

 「なるほど……」


 男性はシリウスとアンヘルを値踏みするように見てから居住まいを正す。


 「私はアーノルド・ギルバート。此度の件は部下より耳にしている。助けてくれたことに礼を述べよう」

 「礼には及びません。我々は魔獣討伐の任を果たしたまでです」


 シリウスは動揺を悟らせぬように上辺だけでもと取り繕う。


 「あなたが総帥ですね?」

 「そう呼ばれているだけだ。実際にはそこまで偉いというわけではない」


 謙遜をしているようには見えないが、どうだろうか。

 天翼人の上層部でも年老いた者は居る。

 何度か交流する機会があったが、彼らは決して心の内を見せようとしない。

 彼らには常に裏があり、外面と内面を乖離している。

 このアーノルド・ギルバートという男も彼らと酷似している気がする。

 アーノルド・ギルバートが心の奥底で何を考えているのか、シリウスには分からないのであった。




 ー4ー


 「さて、聞いた話によると、何やら色々と情報を集めているようだな。礼というつもりではないが、我々が掴んでいる情報を話そう」


 ついに来た。

 人間達を見極める重要な話。

 この会話で人間との関係をどうするかが決まる。


 「『暁の復天』を名乗る者達を知っているな?」

 「もちろんです。彼らは我々の敵ですから」


 暁の復天。

 彼らは天空王に反旗を翻した者達が集まった集団だ。

 その構成員の殆どが堕天した天翼人である。

 堕天とは、罪を犯したりして天空都市から追放されることであるのだが、追放される際に天翼人の証である翼を剥奪されるのだ。

 肩甲骨付近から作られる翼だが、その部位を文字通り焼くことで翼を失わせる。

 焼かれれば二度と翼を作れなくなってしまう。

 どんなに魔法で傷を癒やしても翼を作る事は出来ない。

 そうして翼を失い、天空都市から追放される事を堕天という。

 堕天した者達が集うのが暁の復天。

 彼らは今も尚、天空王に一矢報いようとしている。


 「その暁の復天が近々動くそうだ」

 「動くだと? 奴らが何を企んでいるのか知っているのか?」

 「最終的な目標は知らないが、地獄の門を開こうとしているのは間違いない」

 「地獄の門……。地球と地獄を繋げる気だと言うのか」

 「地獄の門を開くというのなら、そういう事だろう。最近は堕天した者以外にも、悪魔を仲間に引き入れたとも耳にしている」


 悪魔といえばゼネラル。

 ゼネラルが暁の復天の一員なのだろうか。

 可能性としては十分にありえる。


 「……暁の復天について随分と詳しいな」


 人の身にして、戦力を揃えている暁の復天に近付けるとは思えない。

 このアーノルド・ギルバートという男はどのようにして情報を集めたのだろうか。


 「人類が今の魔獣が蔓延る世界をどうやって生き延びてきたのか。それが分かるか?」

 「……いえ」


 シリウスが人間と交流したのはつい最近だ。

 人間についての知識が乏しい。


 「魔獣の生態を調べたからだ。外見の特徴のみならず、何を食べて生きているのか、夜行性か否か、遭遇したらどうすべきか、どうすれば仕留められるのか、どうすれば逃げられるのか。肉は食用に適しているのか。皮や内臓は利用できるのか。それらを調べ上げたのだ」

 「……情報を集めたのか」

 「元来、人類とは情報収集に長けた生物だ。魔獣の生態以外にも様々な情報を集めてきた。全ては人類が生き残るため。情報を集めるだけで多くの犠牲が出たが、その犠牲のおかげで人類は今日(こんにち)まで生き残ることができたのだ」

 「今まで培ってきた情報収集の術が暁の復天を調べるのに役立ったというわけか」


 人間が情報収集に長けている。

 それが本当なら天翼人にとっても有用だ。


 「とはいえ、暁の復天について調べたのには訳がある。人類の中に暁の復天に入ろうとする輩がいたからだ」

 「人間が暁の復天に入れるのか?」

 「接触しようとした者は多いが、加入前に殺されるのが殆どだ。運良く入れたところで下っ端に過ぎない」

 「だろうな」

 「暁の復天と戦う機会があれば遠慮なく殺して構わない。不届き者がどうなろうと我々の知ったことではない」


 容赦がないが、納得できる。

 暁の復天に参加している人間は、あくまで本人の意思であって自分達は関係ないということだ。

 他の人間は無関係だから殺すのは彼らだけにしてくれということでもある。


 それからもシリウスとアーノルドは情報のやり取りを続けるのだった。




 ー5ー


 シリウスとアンヘルは駅を後にして拠点を目指す。


 「得た情報としては有用なものが多かったな」

 「……結果としてはそうですね。彼らが嘘をついていなければですけど」


 人間に対して不信感があるアンヘルはそんなことを言う。

 アンヘルはあの場においてシリウスの後ろで黙って話を聞いていた。

 それはアーノルド・ギルバートの存在に怯んだからだ。

 同じ話をマリーがしても、途中で口を挟んできていただろう。

 アーノルドは恐ろしい人間だ。

 アンヘルもそれを感じ取って、口を噤み、シリウスとアーノルドの話を大人しく耳を傾けたのだ。


 「アンヘルの言う通りだ。話の真偽を確かめる必要がある。だが、暁の復天に悪魔。事が思いの外大きくなっている。一度天空都市に戻って上にお伺いを立てなくては」

 「メンドくさいですね。上なんか無視して一気にやっちゃえばいいじゃないですか」

 「そうしたいところだが、そう簡単にはいかない。一大事なのに時間が掛かるのが辛いところだ。この苦労はお前も上に立つようになれば分かる」


 アンヘルもいずれ上に立てるようになるし、この苦労を分かってくれるはずだ。


 「そういえば暁の復天って強いんですか?」


 アンヘルは暁の復天の名前は聞いたことがあるようだが、その概要については詳しく知らないようだ。


 「一番厄介なのが、暁の復天の設立者にして頭目である『ルシファー』。ルシファーも堕天した一人であるが、唯一翼を持ったまま堕天した天翼人だ」

 「翼を持ったまま堕天なんて出来るんですか?」

 「普通では無理だ。ルシファーのケースは特別なんだ」

 「ふーん。でも強いのはそのルシファーだけなんですよね。他は堕天したのと人間が少し居るだけで」


 堕天した天翼人は弱い。

 それには明確な理由がある。

 天翼人の翼はただ飛ぶためのものではない。

 翼には魔力を集める作用がある。

 なので翼を失えば魔力を集めることが困難になり、魔法を扱うのに支障が出る。

 空を飛べずに、魔法を扱えない。

 そうなれば人間とほぼ同等の力だけとなる。


 「油断は出来ない。翼がないからといって、魔法が全く使えないというわけではない。個人差はあるが、翼なしでも魔力の供給ができる」

 「それでも飛べないのでしょ? 空から魔法で狙い撃てば楽勝ですよ」

 「まあ、そうだな……。そう簡単にいけばいいのだがな」


 相手だって馬鹿じゃない。

 無防備で地上に立って的になるようなことはしない。

 何かしらの策を弄して戦ってくるはずだ。


 「ところで、その暁の復天のルシファーでしたっけ? そのルシファーは何枚翼を持っているんです? 二枚ですか?」

 「今のルシファーは六枚だ。堕天する前に翼を一部剥奪されたんだ」

 「六枚……強いんですね」

 「強い。そんな者が率いている集団だ。決して油断するな」

 「あれ? でも翼を一部だけ剥奪されたのに六枚なんですか? それってつまり……どういうことなんですか?」

 「……さてな。それよりもサッサと戻ろう。遅れるなよ」

 「馬鹿にしないでください。むしろ先に帰ってみせますから」


 喋り過ぎたなと、シリウスは思った。

 あまり不要なことまで教えなくていいだろう。


 シリウスとアンヘルはそれぞれ翼を羽ばたかせて拠点へと帰還する。

 そして、人間から得た情報を共有し、シリウスは部隊を置いて一度帰還するための準備を整えるのだった。


 今回も読んで頂きありがとうございます。


 今回登場したアーノルド・ギルバートですが、彼は人類側のトップとなるキャラです。

 本格的にストーリーに関わるのは第二部からになりますので、彼の活躍を楽しみにして頂ければと思います。

 ちなみに作者のお気に入りのキャラとなります。


 また次回の話も読んで頂ければ思います。

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