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天翼の英雄は勝利の剣を掴み取る。  作者: 僕私俺
第三部・英雄編
37/39

3-09.ジェネシス


 ー1ー


 渦を巻く火炎が立ち昇り、部隊を襲う。

 高い威力を持つ炎の竜巻。

 アンヘルの魔法でさえも凌駕し、無力化する。

 そのような魔法に太刀打ち出来る者など存在せず、全員が炎の竜巻から逃げ惑う。

 隊列は崩壊し、死傷者を増やしていく。


 「くっ……手も足も出ないな」


 アンヘルは何とか炎の竜巻の直撃を免れているが、周囲に撒き散らす熱風が肌を焦がす。


 「さっきの威勢はどうしたのですか!?」

 「ここまで強いとは思わなかったんだ!」


 ガイゼルの登場で形勢は再び逆転する。

 炎の竜巻だけでなくベクターの操る武器までもが乱れ飛ぶ。

 マリーの氷魔法だけでは間に合わず、武器はさらに増えていく。


 「際限はないのかよ?!」

 「世界創造。その時を迎えるまで増え続けます」


 なんてデタラメな魔法だ。

 これも魔剣の力なのか。


 襲い来る戦斧や槍を受け流す。

 さらに迫る剣を弾き返した。


 「ぐっ……!?」


 左肩に激痛が走る。

 背後から矢で射抜かれたのだ。

 矢を無理やり引き抜き、血が溢れる傷口を抑える。

 治療をしたいところだが、現状ではそれが難しい。

 一度戦線を離脱すべきか?

 だが、もしここで離れたのなら、二人はシリウスの所に行ってしまう。

 ベクターとガイゼルが二人居る事で追い詰められているが、二人をこの場に留めさせているのも事実だ。

 二人がこの場に居る状況を崩したくない。


 「何とか持ち堪えろ! そして諦めるな! 隙を見逃すな! 必ず付け入る隙があるはずだ!」

 「諦めるな、ですか。それは辛く、苦しみが増します。諦めれば楽になる。苦しまずに済む。もう諦めてもいいのではありませんか?」

 「うるさい! お前は黙っていろ! 今の世界を直視出来ずに逃げた臆病者が!」

 「逆ですな。世界を見つめたからこそ悲観したのです。この世界に未来がないと思えたのですよ」

 「本当に見たのかっ?! 自分勝手に解釈してそう思い込んでいるだけじゃないのか!?」


 認められない。

 ベクターとガイゼルがやろうとしているのは、この世の全てをリセットしてなかったことにする事。

 そんなもの認められない。

 絶対に認めてなるものか!


 「お前達は人類の暮らしを見たのか? 一度天翼人に負けて、絶望しながらも必死で生き延びてきた彼らの暮らしを、生活を見て希望を見出さなかったのかっ!?」


 アンヘルの言葉を聞いて、ガイゼルは鼻で笑う。


 「人間など天翼人よりも劣る。それは大戦によって証明されている。天翼人が出来ない事を人間が出来るはずがない。希望などという曖昧で形のないものに縋るなど、力のない者がする事。力は世界を変える、世界を回す。それが出来ない者はただの弱者に過ぎない。ただ流れに身を委ねるだけだ」

 「人間が天翼人に劣るだと? 本気でそう思っているのならいつか痛い目に合うぞ」

 「あの人類の英雄の事を言っているのか? 個人でどんなに強かろうと全体で見れば脆弱だ。弱者がどんなに足掻こうと世界は変えられない。世界を再構築しなければ変える事は出来ないのだ」


 人類を見下すガイゼルの態度にマリーは憤りを隠せないでいた。


 「私の大切な方達を侮辱する事は許しません!」

 「人類に協力する片翼風情が。貴様の存在そのものが忌まわしい。自らの存在が恥さらしだと自覚しないのか?」

 「私は自分に自信を持っていますし、人間と共に暮らせて誇りに思っています! あなたなんか総帥の足下にも及びませんから! 総帥はスゴいのですよ! 誰にも負けませんから!」


 その憤りは普段アンヘルとしているものとは違う。

 彼女は本気で怒っているのだ。


 マリーはガイゼルからアンヘル達に向き直る。


 「……私から提案があります。分担しましょう。私があの偉そうにしている騎士団長の相手をします。他の皆さんはもう一人の方をお願いします」

 「さすがにその分担は……」


 マリーがベクターの相手をした方が有利に戦える。

 それを放棄してまでガイゼルの相手をさせる理由はない。

 むしろ、こちらが不利になるだけだ。


 「マリー。悪いが、それは認められない」


 アンヘルはマリーの提案を却下する。

 彼女のわがままに無理して付き合う必要はない。

 ここは確実性を取るべきだ。

 他の者も同意するかと思いきや何も語らない。

 ベルに至っては地上を見つめながら何やら考え込んでいる。

 一体何を考えているのやら。

 顔を上げたベルは静かにマリーの顔を見る。


 「……私はいいと思いますよ。騎士団長さんはマリーに任せましょう」

 「しかし、マリーがいないとベクターの魔法が防げない」

 「大丈夫ですよ。それはこちらで対処しておきます。念の為、あなたはマリーに付いていてください」


 レベッカはベルの言葉に同意するように頷く。


 「ありがとうございます」


 マリーはお礼を述べて、女性三人は動き出す。


 「勝手に決めるなって……。えぇ……」


 取り残されたアンヘルは仕方なしにマリーに付いて行くのだった。




 ー2ー


 飛び交う武器を防ぎつつ、レベッカはベルに問い掛ける。


 「どうするのですか? 私達だけで戦うのは難しい相手ですよ?」

 「攻撃の仕方を工夫します。レベッカはこれまで通りに守りを固めるように部隊への指示をお願いします」

 「了解しました」


 レベッカは崩れた隊列を立て直すように指示を飛ばし、守りを固めるべく動く。


 「何か策があるようですな。余計な手出しをされる前に手は打たせてもらいます」


 武器がベルを狙うようにして動き出す。

 ベルは逃げるように飛び回る。

 乱れ飛ぶ剣の群れを掻い潜り、脇をすり抜けるように槍を躱し、風の魔法で飛び道具を吹き飛ばす。


 「逃げ足は速いですね」

 「当然ですよ。逃げてばかりの人生でしたから」

 「……」


 敵であるはずのベクターが困惑した顔をする。

 どうやら反応に困っているようだ。


 「ずっと逃げてばかりでした。ですけど、私は逃げるのではなく、向き合っていこうと決めたのです」


 周囲を、世界を俯瞰する。


 「私は、両親が私を産んでくれたこの世界が大好きです。ヴィクトリアが愛したこの世界が大好きです。シリウスが居てくれるこの世界が大好きです。たとえ世界が荒れ果てても、この世界には幸せが確かにあります。目を背けずに向き合う。そうすれば小さな幸せも見えてきます。幸せというものは案外そこら中に散らばっているものなのですよ。手を伸ばせば掴める事も出来ますし、拾える事も出来て、与える事も、分ける事も、共有する事も出来る。こんなにも幸せに満ちた世界を失うなんて私は嫌です」

 「幸せですか……」

 「はい。ベクターさんにはなかったのですか? この世界に幸せが、生きていてよかったと思える事はなかったのですか? この世界に思い残した事がきっとあるはずです。全てをなかった事にするなんて残酷な事、思い留まって欲しいのです。私は、ベクターさんとは戦いたくないのですよ」


 ベルの言葉を受けて、さすがに心に響いたのか、ベクターの動きが止まる。

 全ての武器も攻撃を止めて、空を漂う。

 レベッカと部隊は事の成り行きを見守る。


 「そうですな……。確かにこの荒れ果てた世界にも心を魅了するものは数多く存在しますな」

 「でしたら、今すぐ手を引いてください」

 「それは出来ません。私にも譲れないものがあります。あなたの話を差し引いても、私は世界を創り変えたい」

 「……そうなのですか。とても残念です」


 ベルは瞳を閉じて覚悟を決める。

 眼を開き、ベクターを見据えた。


 「ベクターさんの覚悟は分かりました。その覚悟にも私は全力で向き合います。この世界を守るために、あなたを止めます!」

 「それでよいのです。遠慮はいりません。お互いの信じるもののために、全力でぶつかり合いましょう」


 ベルは四枚の翼を羽ばたかせてベクターに向かう。

 小細工もせず、正面から迫る。

 異形の姿となったベクターは獅子の足を駆けてベルに立ち向かう。

 その手に握る魔剣。

 鷲の眼をギラつかせて、ベルの動きを注視する。

 両者の距離は縮まり、ベルは風の刃を放つ。

 ベクターはそれを魔剣にて斬り捨て、斬りかかる。

 すれ違いざま、躱そうとするも、刃はベルを捉えて左腕に入り込む。


 「うぐぅ……!」


 左腕に激痛が駆け抜ける。

 刃が過ぎ去る頃には、血が溢れる溝が道を成していた。

 痛い。

 今までに感じた事のない激痛。

 シリウスに泣きついて慰めて欲しい。

 彼が生きてきた戦場とはこういう世界なのだと改めて実感出来た。

 重傷を負った。

 でも、これで背後を取れた。

 すれ違ってすぐに体を捻る。

 傷口から血を振り撒く。

 そして、旋回しようとしているベクターの背中に目掛けて風の刃を放った。

 異形となったベクターは体を旋回させるのに時間が掛かる。

 狙うならここしかなかった。

 だが、風の刃を阻むように盾が動く。

 盾は風の刃を防ぎ、その間にベクターは旋回して再びベルへと迫った。

 ベルは逃げるように高度を下げていく。

 ベクターも高度を下げて追い掛ける。


 「逃しませんよ」

 「キャッ……!?」


 地上から伸びた鎖が右足に絡みつく。

 動けなくなったベルにベクターが差し迫った。

 魔剣を構えて、ベルに最後の言葉を掛ける。


 「悪く思わないでください。私は、何が何でも負けられない」

 「私もです。だから、ごめんなさい」


 ベルの言葉の意味が分からず疑問を抱いた次の瞬間、ベクターの体が撃ち抜かれた。


 「がはっ……!? なっ、何が……?」


 ベクターの体を撃ち抜いたのは銃弾。

 地上より放たれた銃弾によって撃たれたのだ。

 そして銃弾を撃ったのは人間。


 「地上には私達の仲間が待機していました。有効射程距離に入るまで誘導して仕留める。あなたはまんまと誘導されたのです」

 「くっ……まだ終わってません。生きている限り、私はっ……!」

 「いいえ、終わりです」


 ベクターの背後まで迫っていたレベッカが剣を振るう。

 部隊が武器を抑えている間に一人で迫ったのだ。

 振り向きながら魔剣を振るベクター。

 剣と魔剣はぶつかる事なく両者の体へと届いた。

 レベッカの放った一撃はベクターの右翼を捉えて消失させる。

 片翼を失い、ベクターは地上へと堕ちていく。


 「堕ちてください」


 斬られたレベッカを受け止めたベルが見下ろしながら言葉を掛ける。


 「その先は地獄です。慈悲はありません」

 「くっ……!」


 地上へと堕ちたベクターは周囲を見渡す。

 空を飛んでいた時には気が付かなかった存在に気付いてしまった。

 廃れた建物に隠れて赤く輝くものが周囲を埋め尽くしていた。

 それは魔獣の瞳である。

 そして、一人の人物が姿を現す。

 ベクターの正面に現れたのは一人の悪魔。

 鎧を身に纏った巨大な鼠、ゼネラル。


 「ようこそ地獄へ。大した歓待は出来ませんが、とくとご堪能あれ」


 周囲の赤い瞳が蠢く。

 巨大鼠の魔獣、その群れがベクターに迫る。


 「何の真似だ? よせ……」

 「申し訳御座いません。現状、これ以外であなたに勝つ方法がないのです」


 ジリジリと迫っていた巨大鼠が一斉に飛び掛かった。


 「くぅっ……!」


 ベクターは反転し、飛び掛かって来た巨大鼠を躱す。

 獅子の足で駆ける。

 翼を失い、数が不利であろうと、捕まらなければ問題ない。

 逃げ切れるはずだ。

 速さではこちらの方が勝っている。

 しかし、ベクターが逃げた先には灰色の鎧を纏った騎士、ラプラスが待ち構えていた。


 「……逃さない。ヴィクトリアの遺した世界は私が守る。敵は殲滅する」


 背丈程ある大剣を手にベクターに躍りかかった。

 獅子の前足を斬り落とし、ベクターは投げ出されるように大地に転がる。

 そこへ巨大鼠が襲い掛かった。

 数え切れない程の数、大地を埋め尽くす程の数だ。

 その全てがベクターへと注がれる。


 「止めっ……! 止めろっ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 巨大鼠は喰らいつく。

 鎧を穿ち、皮を剥ぎ、肉を喰らい、骨を砕く。

 せめてもの抵抗で魔剣を振り回し、瓦礫の武器をぶつける。

 だがそれは焼け石に水でしかなく、数で圧倒する巨大鼠には敵わなかった。

 爪も指先も手の平も失い、手に握っていたはずの魔剣の感触すら失う。

 残っていた足のつま先から食い千切られ、立つことすら許されない。

 巨大鼠の波に呑まれて貪られる。

 腹は喰い破られて、臓器を齧られる。

 絶叫は断末魔に変わり、いつしか何も聞こえなくなった。

 気付けばベクターがそこに居たという痕跡すら消え去る。

 肉片も、骨の一欠片も、血の一滴も、髪の毛一本すらも残さずに喰われて散ったのだ。

 その光景をベルは悲しげに見下ろした。


 「さようなら、ベクターさん……」


 シリウスを通じてベルもベクターと交流があった。

 二人揃って沢山お世話になった恩人である。

 彼との交流は決して居心地の悪いものではなかった。

 ベクターが居たからこそ、今のシリウスとベルがいる。

 どうしてこのような結末になってしまったのか。


 ベルは悲しげな表情を浮かべるも、頭を左右に振り、すぐさま意識を切り替える。

 想い人が居るであろう方角に視線を向けて、ボソリと呟いた。


 「……シリウス、後は任せましたよ」




 ー3ー


 巻き起こる炎の竜巻が荒れ狂う。

 アンヘルとマリーは飛び交い、炎の竜巻を回避する。

 炎の竜巻が支配する戦場。

 乱れる炎に舞い散る火の粉。

 熱風が吹き荒れて、晒された肌が爛れて火傷する。

 マリーが魔法で作り出した氷など瞬時に溶けて蒸発する。

 アンヘルの魔法は炎の竜巻に呑まれて消失する。

 二人の攻撃がまるで通用しない。

 魔法が通じないと判断したアンヘルは接近し、剣で斬りかかる。

 魔剣を持ったガイゼルと斬り合う。

 数度の剣戟の末に斬り結ぶ。


 「若造が、その程度の腕で敵うと思うなよ!」

 「くっ……舐めるな!」


 剣を離し、再度斬りかかる。

 力を込める度に怪我を負っている左肩から血が噴き出す。

 それでも剣を振るった。

 自分の信じるもののために戦う。

 勝てなくてもいい。

 ガイゼルをこの場に繋ぎ止めるのだ。

 だが、魔剣による連撃によって斬り返される。

 次第に追い詰められて劣勢になる。


 「しっかりしてください!」

 「言われなくても分かってる!」


 炎の竜巻に翻弄されるマリーに思わず怒鳴り返してしまう。

 一体誰のせいでこうなっているのか分かっているのだろうか?

 ともかく、このままでは二人揃って殺されてしまう。


 魔剣による斬撃がアンヘルを襲う。

 傷を増やしていくも、それでも何とか喰らいつく。

 相手は仮にも騎士団長の地位まで昇り詰めた存在だ。

 その剣の腕だって十二分に高い。


 「しぶとい。いい加減諦めたらどうだ。共に世界が生まれ変わる瞬間を眺めようではないか」

 「誰が、っんな事するか! 皆が、仲間が、戦っているんだ! 自分一人だけ諦めてなるものか!」

 「ならば、終いだ。いつまでも相手はしてられぬ。これで終わらせる」


 ガイゼルは離れ、魔剣を空へと掲げる。

 すると、炎の竜巻が巨大な柱のように聳え立つ。

 渦を巻き、周囲のものを吸い込む。


 「ぐぅう……!? 堪えろっ! 呑まれたら死ぬぞっ!」

 「うぅっ……! 早く何とかしてくださいっ!」

 「無理だっ! どうにも出来ないから堪えろ!」


 巨大な炎の竜巻はアンヘルとマリーを取り込もうとする。

 二人は翼を羽ばたかせて必死に堪える。


 「お前が早まるからこうなったんだ!」

 「私が悪いと言うのですかっ!? あの時は反対しなかったくせに偉そうにしないでください!」

 「いやいやいや、言ったから! 反対したのにお前らが勝手に動いたんだよ!」

 「何ですか! 後から文句ばかり言ってみっともない!」

 「はあっ!? 元はと言えばお前が言い出したからこうなったんだ!」

 「私はただ……あっ! キャアッ!」


 バランスを崩したマリーが炎の竜巻へと体を持っていかれる。

 アンヘルは手を伸ばすも間に合わない。


 「マリーっ!!」


 その時、空から落ちる雷によって炎の竜巻が貫かれて霧散する。


 「ぐっ……!? ……これは?」


 そして、今度はガイゼルが地上へと吸い込まれる。

 原因は明らか。

 重力魔法。

 これを成せるのは一人しかいない。

 マリーも導かれるように地上へと降りる。

 アンヘルもその後に続く。

 地上に降り立ったガイゼルは相対する。

 人類の英雄と呼ばれる一人の男と。


 「総帥!」


 マリーはその顔を見て嬉しそうに叫んだ。

 その人物の登場に心の底から喜ぶ。

 アーノルド・ギルバート。

 一振りの刀を手に、周囲を圧倒するオーラを身に纏う。

 チラリとマリーを一瞥すると、四つの眼球が出現し、翠の瞳がマリーに向けられる。

 たちまちにマリーの傷が癒えて綺麗な姿に戻る。

 それからガイゼルへと視線を向けた。


 「同胞を捨て、天翼の己を捨て、世界を捨て、それで手にしたのがその力か。醜悪な姿だ」

 「魔剣ガルーダ。人間には分からないだろう。この力の素晴らしさが」

 「……貴様には言葉は不要のようだ」


 アーノルドは刀を構える。

 ガイゼルも魔剣を構える。

 対峙する二人。

 その光景をアンヘルとマリーは固唾を呑んで見守る。

 人類の英雄にして統率者。

 肩書きにして最強に相応しい存在。

 かたや、天翼人の騎士団を統べる長。

 魔剣の力に手を染めて、全てを捨てた者。

 決して相容れない存在。

 生き残るのは一人。


 戦いが始まる。

 雷が駆け巡った。

 鋭い斬撃がガイゼルに向けて放たれる。

 稲妻を纏った刀。

 ガイゼルは魔剣にて受け止める。

 刀と魔剣が交差し、斬り結ぶ。

 離れたかと思いきや、再びぶつかり合う。

 金属音を響かせて、火花を咲かせる。

 刀と魔剣の応酬が始まる。

 刃と、意地がぶつかり合う。

 最強に相応しい者同士の戦い。

 それは何人足りとも介入する事を許されない。

 ガイゼルは攻勢に出る。

 細身の刀身を持つ魔剣にて連撃を仕掛けた。

 フェイントを織り交ぜ、防ぎ難い角度からも攻撃を加える。

 普通なら対処しにくいそれらをアーノルドは難なく防いでいく。

 それはまるで、動きを予め知っているかのような動きであった。

 全ての攻撃を防がれてもガイゼルは攻撃の手を緩めない。

 隙を最小限にまで抑えて、反撃を許さずに攻撃を繰り返す。

 度重なる連撃に晒されてもなおアーノルドは慌てずに的確に対処する。

 まるで機械のごとく的確で物怖じしない。

 感情の起伏さえも抑えて、ただ淡々と目の前の事に対処していく。

 アーノルドの揺らがない姿勢にガイゼルは畏怖を抱いた。

 何をしても響かず、動じない。

 なるほど、人類の英雄と謳われているのも分かる。

 だが、ガイゼルとて負けるわけにはいかない。

 魔剣を中心に炎が渦を巻く。

 炎を纏った魔剣で畳み掛ける。

 アーノルドの持つ刀に風が纏う。

 風は魔剣に纏わりつく炎を吹き飛ばす。

 それでも新たに生まれた炎が燃え続ける。

 周囲に炎を撒き散らし、辺り一帯を炎で包み込む。

 気温は一気に急上昇し、離れて見守るアンヘルとマリーでさえも額に汗を浮かべる。

 炎が燃え盛り、風が吹き荒れて、雷が轟く。

 息つく暇もなく戦況が変わる。

 お互いに潜ってきた修羅場の数は相当なもので、並々ならぬ集中力で神経を研ぎ澄ます。

 信念を懸けた戦い。

 その戦いは拮抗などせず、アーノルドが優位でいた。

 連撃も炎もものともしない。

 ガイゼルは強い。

 だが、人類の叡智を手にした英雄には届かず、その差は埋まらない。

 元より背負っていたものを全て放棄した者に重みなど存在しなかった。

 全てが軽い。

 見せかけだけの力。

 ハリボテでしかない。


 「人類の英雄と、随分大層な呼ばれ方をしているな。確かに強い。その強さは認めてやろう。だが、守ってばかりではないか。その実力、魔剣は飾りか? いい加減、力を見せたらどうだ?」

 「……」


 アーノルドは語らず、ガイゼルの挑発にも乗らず、黙々と刀を操り続ける。

 やはり挑発には乗らないかと判断したガイゼルは一度間合いを取り、攻め方を変える。

 魔法を行使し、新たな炎の竜巻が巻き起こる。

 アーノルドを呑み込もうと炎の竜巻が襲う。


 「あの若造と片翼諸共、焼き死ぬがいいっ!」


 次の瞬間、迸る雷が竜のごとく駆け巡った。

 炎の竜巻を打ち消すように穿ち、ガイゼルを狙う。

 横に飛び退き、雷の竜は躱される。


 「ようやく力を見せたか。ここからは互いに本気で相まみえようではないか!」


 天に届く程の炎の竜巻が幾つも生まれる。

 それはまるで、天を支える柱のようだった。

 火の粉が降り注ぎ、突風が吹き荒れる。

 炎の嵐が巻き起こる。

 適正を持たぬ者を即座に殺す灼熱の世界。


 「大地を! 大気を! その全てを灼き尽くそうぞ!」


 炎が大地を溶かす。

 高温に熱せられた大気が肺を焦がそうと漂う。

 正に地獄、灼熱地獄。

 地獄にてアーノルドは立ち向かう。

 このような凄惨な地獄などアーノルドにとって日常。

 人生そのもの。

 この程度で挫けはしない。

 膝を屈しない。

 死ぬなどという安息すら許されない。

 立ち止まらず、突き進み、高みへと手を伸ばす。

 歩みを止める事などあってはならない。

 散っていった同胞に託された遺志。

 星の数にも及ぶ遺志をアーノルドは背負う。

 命が尽きるその時まで抗い、己の人生を全うする。


 稲妻が走る。

 旋風が巻き起こる。

 炎が燃え盛る。

 まるで世界の終焉が形を成したかのような光景だ。

 その終焉の場にて激しい剣戟が繰り広げられる。

 紅い瞳に視られたガイゼルの体に炎が咲き誇る。

 それでもガイゼルは止まらない。

 斬撃を放ち、アーノルドに攻め入る。

 刀と魔剣が火花を撒き散らしながらぶつかり合う。

 両者の間に実力の差が現れ始める。

 アーノルドの攻撃にガイゼルが傷を負う。

 突風が鋭利な刃のようにガイゼルを斬り裂いた。

 刀と魔剣がぶつかる。

 それだけでガイゼルは傷を負う。

 刀は防いだ。

 だが、刀に追随する風がガイゼルを斬る。

 魔剣による防御が意味を成さず、次々と斬り裂いていく。

 炎によって赤く照らされる戦場。

 ガイゼルの体を赤く照らし、流した血によってさらに真っ赤に染まる。

 アーノルドは魔剣の力を理解し、応用する。

 彼にとって人類とは、永遠に成長し続けるものである。

 飽くなき探求心、血の滲む努力、止まらぬ歩み。

 たとえ個では成し得なくても、全人類が揃えば成し得る。

 たとえ今に於いて成し得なくても、世代を超えて成し得る。

 無限の可能性を秘めている。

 人類とはそういうものだ。

 だからこそ己の人生を全うせよ。

 後悔を、未練を抱く必要はない。

 自らの一生を、命を懸けて、全力で生き抜け。

 人生に意味などない。

 意味が欲しくば、自らの手で意味を持たせろ。

 人生に価値などない。

 価値が欲しくば、自らの手で価値を見い出せ。

 そして、刻み込め。

 自らが生きた証を世界に刻め。


 雷霆が刃と成る。

 刀に追随し、雷霆がガイゼルの体を穿つ。

 ガイゼルの体に雷が駆け巡り、震える。

 致命的な一撃。

 それでもガイゼルは足掻いた。

 歯を軋ませるように食いしばり、魔法を発動する。

 自らを中心に炎が渦を巻き、旋風を撒き散らす。

 これまでで一番規模が大きい炎の竜巻。

 近くに居たアーノルドを呑み込む 

 だが、次の瞬間には炎の竜巻が消失した。

 気付けば刀を振り抜いたアーノルドと、鷲の頭部を大地に転がすガイゼルが立っていた。

 遅れてガイゼルの体は大地に倒れて、その体を灼く。

 勝負がついた瞬間であった。


 「総帥っ!」


 マリーが翼を羽ばたかせてアーノルドの体に飛び込むように抱きついた。


 「無事ですかっ!? 怪我はありませんかっ!?」

 「……心配は無用だ」

 「心配させてください! 私にとって総帥はたった一人の家族、お父さんなのですから!」

 「フッ……そうか」


 アーノルドは抱きつくマリーを引き剥がす。


 「まだやるべき事がある」

 「……はい。気を付けてくださいね。行ってらっしゃい、お父さん!」


 アーノルド・ギルバートは灼熱地獄から立ち去る。

 向かうは創世の竜の下。

 最終決戦の地に向かう。

 その後ろ姿をマリーは見送る。

 そして、アンヘルは一人、疎外感を感じながら取り残されるのであった。




 ー4ー


 六枚の翼を羽ばたかせたシリウスはジェネシスと対峙する。


 「ジェネシス。お前が世界を壊すというのなら、それを全力で止める。この場で相手をしてやる! 掛かって来い!」

 『我ハ世界ノ装置。使命ヲ果タスノミ。個ノ意志ニ応エル事ナカレ』


 ジェネシスはシリウス個人に相手をする気などなかった。

 ただ世界を創り変えるという使命を果たそうとしている。


 「逃げるのか? この臆病者め」

 『使命ヲ果タス。世界ヲ壊シ、世界ヲ創造スル』


 ヴィクトリアの恩恵で会話をする事が出来ているが、実際には主張を伝え合っているだけで会話とは呼べない代物だ。


 『終焉ノ刻ガ訪レタ。終末ノ鐘ガ鳴リ響ク』


 大地が震え、唸るように鳴り響く。

 不穏な気配が漂い出す。

 天より降りてきた塔のように聳え立つ巨大な剣。

 真っ白な体から伸びる巨大な鉤爪がついた腕が剣の柄を掴み取った。


 『愚者ノ塔バベル。人類ノ愚行、ソノ象徴ヲ受ケテ滅ビヨ』


 塔のように聳える剣、バベル。

 バベルを引き抜き、創世の竜は動き出す。

 空に掲げてからバベルを横に凪いだ。

 地上にあるものを問答無用に薙ぎ倒し、破壊する。

 剣で斬ったというものではなく、巨大な壁をぶつけているようだ。

 通過する壁に押し潰され、一瞬にして更地に変わる。

 バベルを振った衝撃で突風が吹く。

 シリウスは体のバランスを保ちながら、更地になった大地を見下ろす。

 広範囲に及ぶ更地。

 草木が一本もなく、動物や魔獣の姿すら見つけられない。

 廃墟や瓦礫すらも崩れて消え去る。

 見渡す限りに何もなく、ただ砂埃が舞っている。

 たったの一撃でこれ程の威力。

 その巨体に勝る破壊力だ。

 ジェネシスの足がゆっくりと持ち上がり、下ろされる。

 大地震のように大地を揺らしながらゆっくりと前進する。

 シリウスはジェネシスに向けて羽ばたく。

 その眼前へと飛び込む、注意を引きつけようとした瞬間、ジェネシスが自らの巨大な口を開けた。

 鋭く尖る鋭利な牙が覗く。

 そして、開けた口の中心に高濃度の魔力が圧縮される。

 迸るように輝く魔力。

 ひと目で危険だと理解した。

 上空へとひとまず逃げる。

 そのすぐ後に白い炎が放たれた。

 ジェネシスは首を回して広範囲に白い炎を撒き散らしていく。

 真っ白に染まる大地。

 炎が過ぎ去った頃には灰色になった大地が残されていた。

 それは灰色に染まったのではなく灰そのものになっていたのだ。

 白い炎に灼かれたものは形を保てずに全てを灰に変える。

 バベルに薙ぎ払われて更地となった大地とは全く別の更地へと変わった。

 全てを壊し、無に帰する力。

 これが創世の前の破壊。

 ジェネシスの力なのだ。

 このまま世界を更地にするつもりなのだろう。

 そうはさせない。

 ジェネシスは世界の装置そのもの。

 どう足掻いたところで世界の破壊を覆す事も、倒す事も出来ない。

 正面から立ち向かったところで敵いはしない。

 ならば、どうするか……。

 シリウスは地上を見渡して目的のものを探す。

 ジェネシスの眼前を飛び回る程度では注意を引きつける事など不可能。

 世界の装置であり、意思や感情といったものが存在していない。

 何をやってもシリウスに興味を示さない。

 次の手を打つ。

 といっても、シリウスが何かをするわけでもない。

 事前の打ち合わせでは、もうすでに到着をしているはずだ。

 どこだ? どこに居る?

 ジェネシスは大地を踏みつけるようにして移動を続ける。

 バベルを振り、白い炎を吐き、真っ白な巨体で踏みつける。

 存在するものを灰に変えて、大地を更地にする。

 世界を滅ぼす存在。

 それは、人類も天翼人も悪魔も魔獣も動植物も関係なく滅ぼす。

 正しく世界の敵。


 「……見つけた」


 シリウスが目当てのものを見つけるのと同時に、ジェネシスが白い炎を撒き散らした。

 白い炎が全てを灰に変える。

 だがしかし、灰に変わらないものが一つだけあった。




 ー5ー


 それは、その地を護る神である。

 長い歴史に於いて人同士の争いが絶えずにいた。

 長きに渡る戦乱の世を経て、一つの国に纏まる。

 いつしか国を護る神として祀り上げられ、人々が明るい未来を生きられる世界を見守る存在となった。

 世界が荒れ果てても、人類の敵たる脅威から国を護り続ける。

 人々に希望を与え、明るい未来を歩む道標を示す。

 たとえ世界を滅ぼす脅威に遭遇しようと、決して揺るがない絶対の存在である。




 ー6ー


 「第一の刃、護国明生(ごこくみょうじょう)


 義手の形をした人類の叡智、神之御手(ゴッドハンド)

 五つの魔剣の力を内包したゴッドハンドを装着し、刀を手にしたアーノルド・ギルバートが創世の竜、ジェネシスの前に立ちはだかった。

 白い炎を阻み、ジェネシスを見上げる。

 その存在はちっぽけなものである。

 ジェネシスからすれば米粒よりも小さな存在。

 だが、強大なジェネシスの攻撃を受けても、アーノルド・ギルバートは無傷で立っていた。

 これにはさすがのジェネシスもアーノルドに目をくれる。


 『滅ビヲ拒厶事ナカレ。創世ハ決メラレシ運命。抗ウ事ナカレ』

 「……この地、この世の全てが人類のものだ。奪う事は何者であろうと許される事ではない」

 『滅ビヲ前ニ所有ノ有無ハ無意味ト知レ』


 ジェネシスはアーノルドに向けて牙を剥く。


 「如何なる存在であろうと、人類の未来に立ち塞がる存在は排除する」


 強大な敵を前にしてもアーノルド・ギルバートは怯みもしない。

 悠然と立ち、堂々たる姿を晒す。

 ジェネシスはバベルを振り上げて落とした。

 巨大な剣がアーノルドを襲う。

 だが、バベルは空中にて制止する。

 不可視の壁がバベルを防いだのだ。

 シリウスは捉えた。

 アーノルドを中心に展開される存在。

 存在が朧げで、輪郭がかろうじて捉える事が出来る巨大な鎧武者。

 姿をハッキリと捉えられないにも関わらず、その鎧武者が偉大で壮厳たる存在である事が分かった。

 間違いない。

 あれが、神だ。

 以前に純が語っていた神に違いない。

 神、守護神だ。

 白い炎を弾き、バベルを受けても物ともしない。

 世界の装置たるジェネシスに真っ向から立ち向かえる存在だ。

 あれがアーノルド・ギルバートの隠し玉。

 人類の叡智にして、努力の結晶。

 以前に戦った時は本気ではなかったのだ。

 あんなにも死に物狂いに戦ったにも関わらず、全力ではなかった。

 結局のところ、どう足掻いても人類には勝てなかったのだ。


 『世界ニ抗ウ存在、神ニ非ズ。終焉ダ。終ワリヲ受ケ入レヨ』


 ジェネシスが動く。

 巨体が動き、前進する。

 それを見てアーノルドは移動を開始した。

 風雷刃紋。

 雷の力により筋力を強化し、風の力により俊敏性を向上させる。

 常人ではあり得ない速さで大地を疾駆する。


 『逃サヌ。世界ノ果テマデ逃レヨウト、滅ビカラハ逃レラレヌ』


 アーノルドを追い掛けるようにジェネシスは進路を変える。

 白い炎を撒き散らし、世界を壊していく。

 世界が滅んでいく光景を彼方より多くの者が見ていた。

 それは人類であった。

 それは天翼人であった。

 それは悪魔であった。

 多種多様な種族が見守る。

 本来ならば手を取り合う事もなかった者達。

 命を懸けて戦う事もあった。

 仲間が殺され、同胞が殺され、それでも手を取り合う事を選んだ。

 まだ彼らの歩みは終わっていない。

 始まったばかりなのだ。

 ようやく長く続いた因縁に決着がついたばかりなのだ。

 彼らが望み、選んだ。

 この世界を生きていくと決めた。

 新しい世界など望む者はいない。

 今の世界を精一杯に生きていくと決めたのだ。

 世界を滅びへと誘う存在、ジェネシス。

 その存在を誰も認めない。


 大地を疾駆していたアーノルドが足を止める。


 「お待ちしておりました、総帥閣下。予定していたよりも時間が掛かりましたね」


 そこに居たのはゼネラルであった。


 「邪魔者を排除していただけだ。それで、例のものはどうなっている?」

 「解錠は済んでおります。後は、この場に集うのを待ち、開門させるのみです」


 アーノルドは頷き、通って来た道なき道を振り返る。

 そこには真っ白に聳える巨大な竜。

 存在が山のように大きく、雪よりも白く、色彩を一切感じられない。

 さらにその手には天を穿つ程の塔のような巨大な剣が握られていた。

 バベルと呼ばれる剣。

 かつて人類が天に届く程の塔を建設しようとして神の怒りを買ったという伝説に登場する塔と同様の名を冠する。

 人類の愚行と挑戦。

 その象徴たる塔。

 バベルと相対するのは運命であったのだろう。

 教訓を礎に、乗り越える。


 『汝、神ニ及バズ。抗ウ事、愚行ナリ。神罰ヲ受ケヨ』


 ジェネシスは翼を広げた。

 巨体がさらに大きく見える。

 翼を羽ばたかせて空へと浮かび上がる。


 「……この時を待っていた」


 ジェネシスの眼前を飛んでいたシリウスは魔剣を構える。

 魔剣とは本来、魔剣に変えた者の力を行使出来るものである。

 シリウスもヴィクトリアの力が使えるはずであったが、これまでは魔力を引き出せるだけであった。

 夢で再会したあの日から内より湧く力。

 思い出した、ヴィクトリアの魔法を。

 幼い頃、この魔法のせいでヴィクトリアに敵わず、ベルの前で何度も泣きべそをかかされた。

 ベルの前で恥をかかされた事は、今でも恨めしく思っている。

 だが、この力のおかげで世界を救う事が出来る。


 「ヴィクトリア。……ずっと、好きだった。……ヴィクトリアの名の下に、勝利をっ!」


 天地が逆転する。

 飛び上がったはずのジェネシスが大地へと堕ちる。

 そして、堕ちた地点には、地獄の門があった。

 ゼネラルは禍々しい鍵を地獄の門に向けて放り投げる。


 「開門せよ!」


 放り投げた鍵は門に吸い込まれるようにして消え、門はその形を失う。

 地獄の門があった場所を中心に、円形に巨大な黒い穴が空く。


 「お前を倒す事が出来ないと言うのなら、この世界から追い出せばいい。地球ではなく、地獄にな」


 開かれた黒い穴がジェネシスを吸い込む。

 黒い穴の先は地獄……ではなくゼネラルとラプラスが暮らしていた世界。

 地獄の門をくぐり、悪魔は地球にやって来た。

 今度はその逆をする。

 地球から別世界へと送る。

 ジェネシスを地獄へと堕とす。

 それを行うための魔法。

 天地逆転の魔法。

 それがヴィクトリアの魔法だ。


 「そのまま地獄へ堕ちろ」


 ジェネシスは雄叫びを上げて抵抗する。

 真っ白な鉤爪を伸ばして大地にめり込ませて持ち堪える。

 だが、そこへアーノルド・ギルバートが立ち向かう。

 重力魔法で追い込む。

 徐々にではあるが、ジェネシスの体が黒い穴へと堕ちていく。

 それでもジェネシスは足掻く。

 鉤爪がついた腕を外へと伸ばし、脱出を試みようとする。

 しかし、それが決定打となった。

 鉤爪を大地に突き立てる。

 そこは白い炎に灼かれて灰となった地であった。

 鉤爪は引っ掛かる事がなく、体勢を崩したジェネシスはそのまま黒い穴へと堕ちて消える。

 その光景を見たゼネラルはそっと呟く。


 「願わくば、あの地獄のような世界を新しい世界へと創り変えて頂きたい。誰もが信頼し合える世界。そんな世界に……」


 その言葉に込められた意味。

 それをシリウスは理解する事は出来なかった。

 真に理解出来るのは、地獄の世界を目の当たりにしてきた悪魔達だけだろう。


 こうしてジェネシスとの戦いは幕を閉じたのであった。


 今回も読んで頂きありがとうございます。


 最終決戦が終わり、次回で最終話となります。

 主人公であるシリウスの出番が少ない気もしますが、各キャラクターを活躍させようと書いていたら出番が減ってしまいました。

 巨大モンスターと戦闘させるのが難しいというのも出番が減った原因の一つだと思います。

 シリウスが使ったヴィクトリアの天地逆転の魔法ですが、実はこの魔法、本編で何度も登場しています。

 ヴィクトリアが3,4回程使っていると思いますので、気になる方は探してみてください。


 今回一番活躍していたアーノルド・ギルバートですが、第二部でヴィクトリアがそれとなく触れていた通り、彼はマリーの祖父になります。

 その事はマリーは知りませんが、アーノルドはもちろん知っています。

 なんだかんだで孫に甘いおじいちゃんです。

 そして、マリーを侮辱するのは彼の逆鱗に触れる事となります。

 今回はガイゼルが犠牲者です。

 ガイゼルは決して弱くなく、むしろ本作で上位に入る強さです。

 しかし残念ながら、彼が勝つというビジョンがまったく思い浮かびません。

 負ける要素しかない彼が敗北するのは必然と言えるでしょう。


 最後まで読んで頂きますようよろしくお願いします。

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