1話 〜虚城の王に会っちゃいました!〜
虚城の入り口を探しに遺跡を訪れた祈祷師ルナは
早々にパーティーとはぐれてしまう。
そんなルナが出会ったのは虚城の王を名乗る記憶喪失の少年アルバだった。
ルナは秘宝を手に入れるため、アルバスは記憶を取り戻すため
2人は手を結ぶことに。
果たしてヤバヤバ祈祷師ルナと自称・王のアルバスは
虚城にたどり着くことが出来るのか___!!
突然ですが、私、大ピンチです!
4人で遺跡探索に来たのに、1人だけはぐれちゃいました…ヤバヤバのヤバです。
さっきから唸り声とか不気味な音とか鳴りまくりですし、
辺りは霧でよく見えないですし、私は一巻の終わりなのでしょうか…。
「あぁ、地母神様…お助け下さい…。」
コツコツコツコツコツ
前方から足音がする。
霧で視界が悪いため人影は確認できないが、勇気を出して声を出す。
「あの〜…誰かいらっしゃいますかーーー?」
返事は無い。代わりに足音は止み、バタンと扉の閉まる音がした。
音のした方へ歩いていくと遺跡の壁に木でできた扉がはめ込まれていた。
古びた遺跡の壁に対して場違いなほど綺麗で傷ひとつ無い木製の扉。
その扉はまるで今しがた取り付けられたかのようだった。
「明らかにヤバだけど…いくしかないよね」逡巡した後、ドアノブに触れる。
そしてノブを捻ろうとした瞬間、背後から声がした。
「____そいつは開けない方がいい」
「!?」
背後の気配から逃れたい一心で私はドアを思い切り開き、中へ飛び込んでいた。
「きゃあああああああああ〜ー!!」
後ろを振り返る暇もなく私は絶叫して駆け出した。
ドアの先は暗闇に包まれていてどこまでが壁でどこまでが天井なのか分からない
不思議な空間になっていた。
それだけではなく、暗闇の中には紅く怪しげに光る目がひしめいていた。
罠にかかった獲物を仕留めようと、飢えた瞳の獣が少女を追う。
獣の足音は止まることなく、1つまた1つと幾重にも重なった。
「ま、魔物!? なんで追ってくるですかー!
私美味しくないです!やば肉ですよー!!」
青い長髪を揺らしながら涙目で訴える少女。
息も絶え絶えに出口を探す少女の背後から再び声が聞こえた。
「うおわあああああああああ〜ー!!」
振り返ると淡い光を放つ人影が雄叫びをあげ、
獣を蹴散らしながら追いかけてくる姿が見えた。
いや、蹴散らすというより獣が道を譲っているようにも見える。
「ふーえーてーるーーー!!」
「待ってくれぇええええーーー!!」
「はぁ…はぁ…やられるくらいならせめて相討ちを…ヤバ魂を見せてやるです!」
逃げきれないと悟った少女は覚悟を決めて振り返り、
護身用の短剣を取り出すと追ってくる人影と獣に向かって構えた。
少女の後方には既に獣はおらず、
走ってくるのは淡い光を放つ人影のみになっていた。
暗闇の奥から踊るように小さな光が近づいてくる。
「…チョウチンアンコウ?」
足音が近づくにつれ、小さな光はだんだんと大きくなっていく。
灯りに照らされて僅かに見えたのは闇に溶けそうな黒髪と怯えた少年の顔だった。
「えっ 人間?」
「あのー! 私怪しいものじゃないですよー!」
護身用のナイフをしまい、手を振ってみるが、疾走する人影は勢いを殺すことなく突っ込んで来る。
「止まってくれぇええエエーー!!」
「いやそっちが止まってください!怖いでふぐぁっ!!」
左右に揺れる光はどんどん距離を詰めていき、
そのまま私の顔面に飛び込んで来た。
2人は揉み合い、地面を転がり、爆音とともに壁を突き抜けたところで止まった。
頭をハンマーで殴られたかのような衝撃。グラグラと脳が揺れるようだった。
酷い痛みに頭を抱えてうずくまる人影が2つ。
少年の両耳にぶら下がる太陽と三日月の耳飾りは淡い光を放ち、2人の周りを微かに照らしている。
頭を抑えながら辺りを見回すと再び遺跡の通路に出ていた。
「痛っテェー! おいお前、怪我はないか?」
「あるに決まってます! 加害者に心配されたのは初めてです!」
「初めてってのは…痛みを伴うもんだろ」
「頭突きした上にセクハラとはとんだやろーです!
ハレンチ男撃退の魔法とかないのが悔やまれます!」
「魔法? お前魔法詠唱者なのか」
「いえ、低位の魔法なら扱えますが本職は祈祷師です。
地母神様への信仰により奇跡を授かるんです。」
「それで…あなたは…?」
少年は前髪をかき上げながら立ち上がり、不敵に微笑んだ。
「俺か? 俺はな…」
「________この虚城の王なんだ」
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
次回は遺跡からの脱出を図る2人!
ヤバヤバのヤバです!