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実は乙女ゲームの世界に転生していたお話

作者: 哀夢

黄昏に消え、暗夜を往くのメインのキャラを使って乙女ゲーム要素を取り入れて書きました。

書きたい欲が暴走して、書き散らした代物です。

実に、楽しかったです。



皆さまは恋愛シュミレーションゲームというのをご存知だろうか。

簡単に言えば、機械の中のイケメンを攻略し、落としていくゲームだ。

全てのイケメンは必ずヒロインに落ちて行く。例外なキャラもいるけれども。

まあ、それは隣に置いといて。

何故こんな話を持ち出したのかと言う理由なんだけれども。

どうやら私、その数ある乙女ゲームの中の一つの世界観と酷似した世界で生きているかもしれない。

いやね、こんな荒唐無稽な話を誰かに話しても変な子に見られてたり、頭は大丈夫かと問われると思う。

自分でも信じられないのだから。

確か、題目はひと夏のなんちゃら……うん、題目思い出せない。

確か内容は、都会育ちのヒロインが高校の夏休みに田舎の祖父母の家に訪れて、云々かんぬん。

確か妖怪と恋愛する異種族恋愛ものだった気がする。

え?唐突に何故そんな変な話をするのかって?

それは、現状に脳みそがついてかないから、一種の現実逃避です!!



「ねえ!聞いてるの?!」


「……えぇ…?」



ただ今、混乱しています!!

問題!私は今どんな状況に陥っているでしょうか?!

答え!見知らぬ男の人に横抱きにされて、可愛らしい女の子に糾弾されてます。

皆さん聞いて下さい!!

生まれて初めて男性にお姫様抱っこをされます!

ビックリ、背中と膝裏に回る腕が力強いのなんの!性差を感じるよね!

密着した身体からじんわりと服越しに伝わってくる他人の体温に動揺が隠せません!

すみません!私こういうの慣れてないんですよ!!



「ちょっと!離れなさいって言ってるのが聞こえないの?!」



いや、降りようにも抱えている人が降ろしてくれないので降りようがないのだけれど。

身じろぎをしてみるが、私を抱える腕はビクともしないのである。



「しっかり掴まって」


「…っ」



耳元で囁く様な声で喋らないで頂きたい!

心臓に悪いです!色んな意味で。

彼がくるりと踵を返す。

女の子が視界から見えなくなって、突然のふぁっと内臓が浮き上がる浮遊感に、引き攣った悲鳴が喉から漏れ出す。

しかし本当にしがみついて居ないと怖いので男性のお言葉に甘えてがっつりと首に腕を回してしがみついて、頸辺りの着物を握り締めさせて貰う。

何故、こんな事になってしまったんだろう。

と、こんな状況に陥った経緯を思い出す私なのである。






***







「明日から夏休みだね。予定とかある?」


「うん。家の家事とか掃除とか」


「あ、そっか。お祖母さんと二人暮らしだもんね」



学校の帰り道、友達と談笑しながら帰っていた。

そう、私の学校は明日から夏休みだった。

祖母と二人暮らしの私は学校の間、甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれている祖母に恩返しをすべく夏休みは家事に力を入れるのだ。

普段も自分で出来るよと言っているのだけれども。

祖母は私をとても甘やかしてくれる。

それで、駄目になりそうな自分を毎度叱咤している。



「ほんと、おばあちゃんっ子だね」


「おばあちゃんじゃなくて、お母さんだよ」



私の生みの母は産後の肥立ちが悪く既に他界している。

父は赤子の私を祖母の元に預けて、都会に稼ぎに出て行ったまま。

二人で暮らすには苦労しないぐらいのお金は仕送りされてくるが、実家には一切顔を出さない。

お陰で、私は両親の顔を写真の中でしか知らない。

そんな父親に捨てられたも同然の私を祖母は本当の娘の様に育ててくれた。

祖母は、私のお母さんなのだ。



「ふふ、じゃあお手伝い頑張って!またお野菜とかお裾分けに行くね!」


「うん、ありがと」



友達と別れて、帰路を歩く。

通学路は本当に畑と田んぼしかない。

何時も足場の悪い砂利道を歩いて、学校に通っていた。

私の住む場所は本当に田舎で、通う高校の生徒数は本当に少なく、三学年とも2クラスしかない。



「ただいま」



少し古い日本家屋。

がらがらと引き戸を開いて、家の中へと声を掛ける。

ローファーを抜いて、揃えて、玄関の段差を上がる。

物音のする台所を覗き込むと、着物姿に前掛けをした祖母が食事を作っているのか見えた。



「あ、おばあちゃん。私がするのに」


「あらあら、おかえりなさい」



にっこりと微笑みながら迎えてくれる祖母。

荷物置いて着替えてらっしゃい。と言われて渋々二階の自室に引っ込む。

私服に着替えて、一階に駆け降りた。

洗濯物は全て取り入れ済み。

廊下や居間には塵一つ落ちていない。

食事は既に出来上がっている。

一服休憩のお茶も既に淹れてある。

学校はお昼までだったというのに、家事で私の出る幕はなかった。



「このお饅頭美味しいわよ」



縁側に座り、のほほんとお饅頭を頬張る祖母は、家事において万能である。



「おばあちゃん…私、家事するって言ったじゃない…」


「あら、ごめんねぇ。習慣が身体に染み付いてしまっていて」



家事は重労働と聞くし、私も一通り終える頃には疲労感を感じるくらいに体力を使うというのに、習慣と祖母の主婦力には恐れ入る。



「そうだ。学校から宿題は出たの?」


「え、うん…」


「遊ぶ事と勉強は大人になってから中々出来ないものよ?今の内にしっかりとやっておきなさい」



学生は学業と遊びに専念しなさいと言われた。

祖母の気遣いは嬉しいけれど、とても申し訳ない気持ちも一杯なのだ。

祖母は私を駄目人間にするつもりなのだろうかと本気で思ってしまう事もしばしば。



「うん…ありがとう…おばあちゃん」



結局、強く出られずに受け入れてしまう私も私なのだが。

ふと、外が気になって視線を向けた。

家の敷地内の庭だというのに、誰かが立っていた。

ぎょっとした。いつから居るの?!

側に居る祖母が気付いた気配はない。

とゆう事は、あれは人ではない。

不自然にならない様に視線を逸らしてお茶を啜る。

だが、視界に入るそれに知らぬふりをしていたいけれども気になって仕方がない。

湯呑みに入っていたお茶を飲み干すと、すくりと立ち上がる。



「お、おばあちゃん。私、ちょっと出掛けてくる…!!」



動揺のあまり声が裏返った。

祖母は私の様子を気にした様子もなく、行ってらっしゃいと言ってくれた。

財布を引っ掴んで家を飛び出して、田んぼ道を走り抜ける。

いやあ、しかし何処かで見たような風貌だった。

着物姿の女の人。

だけれども、人間ではあり得ないぐらい首が長かった。

屋根の上まで伸びてたな。



「は…はは…」



恐怖でしかない。

兎に角人の多い場所へ行こう。

この底知れない恐怖も緩和するかも知れない。

まあ、行くのはよくある田舎の商店街である。

一軒家が立ち並ぶ場所で、古びた看板が上がっている。

ああ、小さい頃からここの村で育ってきているのだから見覚えがあるのはわかっているのだが、この既視感はもっと別のものだ。



「ああ…思い出しそうで、思い出せない…」



全速力で走ったせいで全身が暑い。

じわりと額に汗が滲む。

耳障りに思える程に蝉の声が、辺りに響き渡っている。



「…夏、田舎、妖怪…」



涼むためにアイスを食べようかと、商店街を歩きながら、頭に引っかかった言葉を口に出してみる。

そういえば、太陽が西に傾いてきているが、まだまだ日は長い。



「…夕方…逢魔が刻…」



あ。

ふと、住宅との間に人が入れるぐらいの隙間があった。

まだ明るいにも関わらずその奥は真っ暗だった。

ぞわりと寒気を感じたと同時に、突然蝋の様な真っ白な手がいくつも伸びてくるが見えた。

驚愕と恐怖に固まった身体は咄嗟にの事に反応なんて出来る訳もなく、目を瞑るぐらいしか出来なかった。

ぐいっと後ろに腕を引かれた。

貼りついた様に動かなかった足があっさりと地面から離れた。



「……!」



ぼすんと傾いた身体が後ろから受け止められた。

眼前には獲物を捕らえられなかった無数の手がうぞうぞと蠢きながら暗闇に消えて行った。

あれに捕まっていたら今頃どうなっていたことか。

想像しただけで背筋が冷えた。



「す、すみません…」



後ろを振り返ると男の人が居た。

着物を着ているが、襟元が異様にはだけていて、臍まで見えそうだ。



「………」



変質者というワードが頭をよぎったが、助けて貰ったし、違うと思いたかった。

そして、顔を見上げるとぱちりと目が合った。

猫の様な縦に裂けた瞳孔。琥珀色にも見える目。

髪は陽の光を受けて銀色に光っている。

緩やかなウェーブがかった毛先は淡い水色に見えた。

目鼻立ちは精巧に作られた人形のように整っている。

あ、この男の人、人間じゃない。

何故だろう。何故助けたんだろう。

状況について行けずに入ると、うぞりとまたあの暗闇から手が伸びてくるのが見えた。



「ぅわぁ…」



何かを探す様に蠢く無数の手にぞわりと鳥肌が立つ。

すると未だに掴まれていた腕が軽く引っ張られた。

意識を男の人に移すと、彼は私の腕を引いて歩き出した。



「え、あの何処にーー」


「ああ?!」



私の言葉に被せるように、黄色い悲鳴に近い

声が聞こえた。

その声の方を見ると、ボブカットでふんわりとした茶髪の女の子が居た。

彼女はまん丸な瞳を更に見開いて驚きの表情を浮かべている。



「あ、あ…貴方!!」



びしりと彼女が指差した先には私の腕を引いている男の人。

何が起きてる??あの女の子はこの男の人の知り合い??



「貴方、巫景でしょう?!」



みかげ??巫景…。

聞いたことのある名前。

………はっ!そうだ。

巫景。それは、友達が推していたキャラだ。

クールで余裕があって、さらっと女の子がキュンとする様な行動をする彼を友達は推しに推していた。夢に見る程に。

そして、友達の推しを思い出したら引き摺られる様に思い出した事が多数ある。

友達の推し、巫景がいるという事は此処は乙女ゲームの世界ではないだろうか。

そうだ!今目の前にいる女の子。

ゲームのパッケージの表紙に載っていた子ではないか!



「うん?俺はおまえとは初対面だと思うけれど。何か用事かい?」



あ、巫景とやらがやっと喋った。

声まで整ってるって、流石イケメン。

そして、本当に乙女ゲームの世界に来てしまったのか私。



「あっえっとぉ…」



女の子は狼狽えて、おどおどと視線を泳がせる。

ぱちりと私の彼女の目が合う。

そして、巫景に掴まれた私の腕を見てから、彼女の顔にみるみると不機嫌な色が浮かぶ。

え、私何かした?

般若の如く怖い顔になった彼女に思わず一歩後ずさる。



「………ひっ!」



と、巫景に捕まれた反対の腕が酷く冷たいものにがっしりと掴まれた。

一瞬にして全身が総毛立った。

気持ちが悪い。

私の腕はあの蝋の様に白い腕に掴まれていた。

更に足首を掴まれた。

悪寒が治らない。此れは駄目だ。

振り払おうと腕と足に力を入れた時。

ふっと腕と足首に感じていた冷たさがなくなった。

そして、気付けば私の足は地面を離れてぷらんと宙に浮いていた。



「……え…?」



膝裏と背中に感じる人の体温。

状況について行けない。

私は今どうなっているのか。



「ッちょっと!!」



あの女の子の怒りに燃えた声と赤い顔。

半身に感じる自分ではない体温に顔を上げると、巫景の顔が至近距離にあった。



「……?!?!」


「離れなさいよ!モブの癖にぃ!!」



女の子が何やら喚いているが耳に入らなかった。

そして、冒頭に戻るのであった。

何度かの浮遊感を目を閉じてやり過ごした。

そして、気が着いたら目の前には我が家があった。

きょとんとしていると、漸く私は自分の足で地面を踏みしめた。

どうやら彼は私を家まで送り届けてくれた様だ。



「あ、ありがとうございます」


「一つ貸しだよ。次に会う時に、俺の今日の働きに見合うものを貰うからね」



巫景はずいと私に顔を近づけて、そう言った。

み、見合うものって何が良いのだろうか。



「み、見合うものって…」


「じゃあね。忘れたら、承知しないから」



そう言い残して、巫景は景色に解ける様にに消えた。

ぽつんと家の前に取り残された私は。



「大変な貸しを作ってしまった…」



がくりと肩を落とすしかなかった。







ありがとうございました。

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